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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』hors-série(4)-10〜 『「プチ・ニコラ」大全』(33)


Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.152より.


「洗濯機」(Machines à laver)


« Bon ! dit Sempé. Allons voir les machines à laver ! »

Résigné, je suivis. Des machines à laver, nous en vîmes de toutes les tailles, de toutes les couleurs. Par d'innombrables hublots, nous vîmes tourner des tonnes de linge immaculé dans des hectolitres d'eau savonneuse. Tous les systèmes inventés jusqu'au jour de l'ouverture du Salon pour libérer le linge de toute trace d'impureté défilèrent devant nos yeux. On nous promit que nos boutons de chemise ne seraient pas arrachés, ce qui ne va pas manquer de nuire à l'industrie de l'attache-trombone, dont je fais ample usage pour maintenir décemment fermées mes chemises privées de boutons par les procédés sans doute archaïques utilisé par ma blanchisseuse, une bien brave femme et bien méritante pourtant. On nous dit encore que le linge le plus fin sortirait indemne des machines à l'apparence la plus formidable. Et puis, tout à coup, la colère me prit.

« Mais enfin, dis-je, tu as l'intention d'acheter une machine à laver, toi ?

— Moi ? s'étonna Sempé en ouvrant de grands yeux surpris, pourquoi faire ? je suis marié.

— Alors, criai-je, nous allons rester longtemps ici ?

— Bon, bon, ça va », maugrés Sempé, et nous nous dirigeâmes vers la sortie.


 鍋を離れて,二人は洗濯機へ向かいます.もちろん,鶴(サンペ)の一声で.ゴシニはもうすっかり諦めモード.到着すると,大小さまざま,色もとりどりの洗濯機がズラリ.中を除くと,洗濯槽の中には「洗剤を混ぜた数百リットルもの水の中で,何トンもの真っ白な洗濯物がグルグルと回っているのが見え」ました.幾ら何でも大袈裟でしょ.それに,既に真っ白なら洗う必要もないし.そりゃ,展示用のデモンストレーションですから,実際に汚れた下着とか入れてないでしょうがね.


「こんな事細かな展示方法が家電市の開催日までに日々練り上げられていたのだ.それも,ありとあらゆるシミから衣類を解放すべく・・・.そして今や,われわれの眼前にはズラリ.それらが開陳されている.」(p.152)


 相変わらずですが,ゴシニには文明の利器など目に入っていません.家電市に合わせて用意された洗濯物,洗剤を混ぜた水,そして洗濯機をズラリと並べて,一挙に洗濯している様子を見せつける展示方法,そんなことばかり気になっています.

 少し前に私も(というか,同居人が)洗濯機を買い替えましたが,その際に洗濯槽でグルグル回して洗濯すると,シャツのボタンが取れてしまう・・・なんて,考えもしませんでした.これは本文が書かれた半世紀以上後の現代の洗濯機では既に解決された問題なのでしょうか?販売員さんはゴシニたちに,洗っていても「ボタンはとれませんよ」,なんてわざわざ請け合っています.それで隔世の感があるなぁと思っていたら,さらに先がありました.ゴシニによると,1)洗濯時にボタンがとれない→2)ボタンがとれた時につけておくクリップの生産がされなくなる→3)洗濯に出すと(今だとクリーニング屋にあたるのでしょう),洗濯をしてくれる女性が(女性の職業だったのですね),ボタンのとれたシャツをきちんと畳んでおくのに使うクリップが入手できなくなる→4)「愛想も良くて,あれほど賞賛に値する仕事をこなす」洗濯女さんが困る→5)結果として,洗濯屋さんをよく利用する自分のシャツが「ピシッとたたんで」おけなくなるから,自分も困る.

 文章ではシャツのボタンがとれた時のクリップの使用は「おそらく一昔前のやり方」とされているので,もう既にこの当時にはそんな習慣は廃れているし,ゴシニが洗濯屋さんを利用するのは確かとしても,何となく古臭いやり方が守られていて,クリップをつけたシャツが帰ってくると,思わず微笑んでしまう.そんな感じだったのではないでしょうか.あぁ〜,未だこんなことしているんだなあ・・・ふふふ,と思わずニンマリ.ですから,クリップ「業界」に郷愁を覚えたとしても,それがなくなっても惜しくも何ともなかったのではないでしょうか.それなのに,そんな大昔の習慣を実践している「愛想の良い」洗濯女,「あれほど賞賛に値する仕事をこなす」女性のことを想った瞬間,ゴシニは怒りにかられてしまいます.

 とはいえ,ゴシニはあくまで理性的な文明人です.機械文明が従来の生活を破壊する,悪いのは機械だ!(rage against the machine!!!)とばかりに洗濯機を破壊してまわるとか,悪魔の手先とか何とか吠えて,販売員さんの首を絞めるとか,そんな無意味な暴力に訴えたりはしません.


「おいっ!サンペ.君は洗濯機を買うつもりか?」,と私は怒りながら言った.

するとサンペはビクッと大きく目を見開いて言った.「俺が?そんなもん,どうするってんだよ.俺は結婚してるんだぜ.」

「それなら」,と私が大声で返した.「いつまでここにいるつもりだ!」

「オーライオーライ.分かったよ.」サンペが不満げに言い,われわれ二人は出口へと向かった.(id.)


 まずサンペの返答(「俺は結婚してるんだぜ」)が気になるところです.それって,洗濯は女の仕事とばかりに,奥さんにやらせてるってことですよね〜.自分ではやるはずないだろーって.う〜ん,モヤモヤしますな.

 それはともかく,なぜゴシニが突然怒り出したのか,サンペには皆目見当もつかなかったことでしょう.でも,何か察したサンペは「オーライオーライ」とゴシニを宥め,そして従います.信頼関係が表れているところかもしれません.

 それにしてもきっとゴシニには,身近な人,愛想良く働く人,「汚れ」?仕事に従事する女性,昔からの習慣を信じて守る人,その人たちに廃れかけた道具を提供する人々(クリップ産業の人)・・・,文明の利器よりもそんな人たちのほうが大切そうです.面白おかしく書いてはいますが,芋づる式に描かれる職業(業界)とそれに従事する人たちへの敬意(リスペクト)が溢れている箇所ではないでしょうか.



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