« Nicolas vous présente Pilote »(1964)(fin).
前回の最後では,2015年のテロで命を落としたマンガ家キャビュについて触れました.想えば,本作でゴシニは『大人物デュデュシュ』(Le Grand Duduche)を推薦しつつ,「大人物」(le grand)と「大人」(un grand)に置き換えたシャレを用いて,子どもの眼で大人を批判しているわけで,それはキャビュの目指すところだったのかもしれません.風刺と皮肉を武器に,ジョークの解らない大人の社会を茶化し批判して,ほんの少しだけ(できることなら)人と社会を変える.彼もまた,生涯,ニコラと一緒に怒っていたのではないでしょうか.
それにデュデュシュがいる.あれは大人だ.僕らの学校にいる大人たちよりずっと笑える.学校の大人たちときたら,休み時間になると,僕らからビー玉を取り上げて喜んでる.まったくもう,うんざりだ!だから僕らみんな集まって目にものを見せてやるんだ.<仕返し団>をバカにするなってね.ほんとうさ!何だってんだ,まったくもう!冗談じゃないよ!(p.20)
<仕返し団>(« la bande des Vengeurs »)は,(81)と(82)に出てきた,ニコラたちの秘密でない結社です.ビー玉を返せくらいならまだしも,故なくビー玉を取り上げるか,故はあるけど,自分たちの決めたルールの押し付けで取り上げる大人たちに対する結社なら,それはもう,かなり本格的です.
ニコラの紹介は,掲載されているマンガや物語の内容ではなく,ニコラたちによる受け止め方,楽しみ方の説明にズレてゆく傾向があるようです.それもそのはず.それぞれの掲載物が,客観的で,誰が読んでも同じ印象を与えることはないのです.飛行機が好きな人,アステリクスに興味を持つ人,ジャーナリストという職業への憧れ,大人になりきれない子どもへの共感等々,読み手はそれこそ好き勝手に,見たいものに注視します.ニコラが紹介するのであれば,ニコラのフィルターを通して,ニコラ(たち)の楽しみ方が示されるというわけです.また,そうでなければ,面白くないでしょう.誰が読んでも同じように感じる,物語の最大公約数をとった文学紹介や事典を読んでいても,何も興奮しないのと同じです.お勉強にはなるでしょうが.
それはともかく,いよいよ最終段落です.ここでは今見てきたように,語り手としてのニコラの興奮が伝わってくるようです.
すっごくラッキーなのはクリスチアン・ルコントだよ.やつはアルバラデジョの友だちになるんだってさ.僕はね,もう少し大きくなったら,企画に参加してアルバラデジョの友だちになるんだ(僕はラグビーが大好きなんだ.ロジェ・クデールの解説なんて最高だよ).ジョフロワはパパに頼んで,アルバラデジョを買ってもらうんだって言ってたよ!(p.20)
最後の最後まで,謎な固有名詞ばかりなり.さぁ,もう一息!クリスチアン・ルコントはどなたか分かりませんでした.恐らくは編集部にいた,ゴシニたちの仲間の一人かな,と.それとも,掲載作品のどれかの登場人物でしょうか.それはともかく,本話が掲載された1964年2月6日発売,『ピロット』の224号には,「concours」として,「Opération Pilote 64」という企画が掲載されていました.
そしてその題名が「クリスチアン・ルコント,アルバラデジョの友だちになる」(« Christian Lecomte devient l'ami d'Albaladejo »)です.concoursは通常なら,「コンクール,コンテスト,選抜試験」のように訳される語です.ですから,雑誌のプレゼント企画のようなものと思われます.どんな内容かは,私は未読のため,分かりませんが,想像するに,応募してきた読者の中から抽選で「アルバラデジョ」と握手できるとか,そんな感じでしょうか.
アルバラデジョさんは,ピエール・アルバラデジョさん(1933-.).1954年から1964年までの間に30回も代表となった,最強のラグビー選手だそうです.現役を引退した1968年にはラジオのゲスト・コメンテーター,1975年以降はテレビで解説者となりました.強い人,スポーツ選手に子どもは憧れますよね.大人も好きでしょうが.ですから,1964年,本文を執筆しているニコラにしてみれば,「アルバラデジョ選手の友だちに」なれるなんて,本当に夢みたいな企画だったでしょう.ちなみにカッコ内は,ゴシニのツッコミなんだか.とにかく当時の<熱狂的な解説>をするロジェ・クデールさん(1918-1984)に心酔していたことが伝わってきます.
そして最後のオチは,やっぱりジョフロワ.繰り返しが『プチ・ニ』の基本ですから.それだけに,マンネリにも陥りがちとも言えますが.ジョフロワは「アルバラデジョ」が人の名前であることが分かっていないというオチなのですが,今やスポーツ界ではトレードという名目での「交換」や受け入れはごく普通のこと.その際に何と交換するかといえば,それはもちろんお金です.対象となる選手個人としては,より条件の良いチームに「身売り」するのは当たり前.言い換えると,これは大概,「より高い金額」を提示したチームとなるでしょうか.そう考えると,「選手を買う」というジョフロワの発言は,極めて現代的で,かつ何だか怖いような気が.
以上で「ニコラの『ピロット』紹介」は終わりなのですが,hors-série(3)-1で示したページ全体の中で,唯一典拠に確信が持てないイラストを挙げておきます.余白の枠組みをなすイラストを除けば,計7枚あるのですが,その内イラスト5/7↓がそれです.
« le lieutenant Craig sur son cheval ». さて,レフェランスは何でしょうか.これは恐らく,hors-série(3)-3で紹介されていた『ナヴァロ砦』に登場する「クレイグ中尉」なのだと思います.この物語,主人公は「ブルーベリー中尉」なのですが,どうやら登場人物にもう一人の「中尉」が出てくるようなのです.読めばわかるのかもしれませんが,手元にないもので,どうにも・・・.その他のイラストは,キャプションに作品名が挙げられていたのですが,これだけは登場人物名のようなのです.それにしても,この馬の足・・・.鳥じゃないんだからってツッコミたくなります.帽子も変だし.馬の尻尾なんて3本でオバQか!「中尉」さんの手も足もテキトーだし.でもテキトーなりに,全てのイラストで,この子どもっぽい絵の特徴が共通しています.この人(誰?)に描かせると,アステリクスとオベリクスも↓のとおり.
« Asterix et Obelix et le men(h)ir »
やっぱり(わざと?)綴り字も間違えたりして,子どもらしさの演出が本当に見事だと思います.「と」(« et »)を3回入れるのもテクニックのうちです.文もイラストも,書いている/描いているのは,本話の語り手であるニコラですから,本作は一貫した設定に基づき,非常に良くできた紹介という名の物語だと思うのです.
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