« Nicolas vous présente Pilote »(1964)(suite).
ジョフロワとリュフュスのケンカはよそに,ニコラの解説は続きます.
この二人以外,僕らはみんな『カリブの悪魔』ごっこが大好きだ.これは海賊の出てくるかっくいー話さ.船や大砲(ボムッ!)もいっぱい出てくる.(p.20)
海賊と船.船の上に立っている片目の海賊はどう見ても巨人.せっかくの帆船も何だか串焼きのよう.それにお子様ランチの旗までつけてます.「船上のカリブの悪魔」.「船」の文字の綴り字を間違い,書き直したところが,子どもの筆記っぽく見せるためのテクニック.
ちなみにこのお話,「カリブの悪魔」と呼ばれる片目,赤ひげの船長さんの冒険物語のようです.本書には,1968年6月13日に掲載された「サン・クリストバルの金塊」というお話が収録されています(pp.100-107).作者はシャルリエとユビノンヴィクトール(1924-1979),ベルギーのBD作家).それでオリジナルは↓.
色刷りできれいなんですが,何せ台詞が多い.読むのに疲れてしまう.文字を追っていたら,絵の方に集中できないような.個人的には.それでもニコラたちの間で人気があったようです.
でもこの遊びには欠点がありました.だって,「だ〜れも,敵の海賊役をやりたがらない」んです.しかし欠点を欠点でなくしてしまうのが,遊びの創造性たるゆえん.ニコラ曰く,「その方がいいんだよ.」なぜなら・・・
僕らが戦いをするとね,勝利を得るのはブイヨンさんなんだ.それでいつも僕らに,そんなことしていると,おまえらみんなガレー船送りになるぞっていうんだ.(id.)
ガレー船とは,人が漕ぐ櫂(かい)で進む船のことで,特に地中海では罪を犯した徒刑囚に漕がせていました.ガレー船送りになるというのは,犯罪を犯し刑務所に入れられ,ついにはガレー船で働かされるぞという,子どもに対する脅しな訳です.閻魔さんに舌を抜かれるよ,のような感じでしょうか.ブイヨンさんが来ると誰も逆らえず,せっかくの遊びもそこで終わりになってしまう.だからいつもブイヨンさんが勝つというわけですが,加えて,ブイヨンさんのいつもの説教に,「ガレー船送り」が出てくる.それでニコラは連想が働いて,ブイヨンさんと船と海賊ごっこを結びつけたのです.う〜ん・・・あまり面白くないシャレかも.
次は『ナヴァロ砦』.今度はカウボーイ,拳銃,インディアンが登場する西部劇です.これはいつもの空き地でやる遊びになるそうです.『ナヴァロ砦』(Fort Navajo)を探したのですが,パッと目についたのは本書p.197に挿入された広告でした.
すると『ナヴァロ砦』の副題が「ブルーベリー中尉の冒険」とあります.何だ,この広告より少し前に掲載されている『ブルーベリーの秘密』(1968年11月1日号)は,その誕生譚だったのか(pp.153-167).というわけで,原作はまたもやシャルリエ.そして絵がジロー(Giraud).誰かと思いきや,Jean Giraudが本名で,又の名をメビウス(Mœbius)と聞けば,あのフランスBDの巨匠のことか,とようやくわかりました(1938-2012).どうりでニコラたちが興奮するはずです.ちなみにこのお話,南北戦争中に北軍のブルーベリー中尉の活躍が描かれ,40年以上も継続されていたそうです.すごいなぁ.
続いてニコラの話は「放浪者ヴァランタン」.作者はジャン・タバリ(Jean Tabary(1930-2011))で,1962年から1977年まで『ピロット』に掲載され大ヒットしたマンガです.
当初の案はゴシニが出していたようですから,共作とみなせるかもしれません.でもタバリ−ゴシニのタッグからは,他に世紀をまたいだ大傑作『イズノグード』(Iznogoud, 1962-2004)があり,本書に収録されたのも,『イズノグード』の一編でした.カリフにとって代わってカリフになりたい腹黒の宰相「イズノグード」を描いたコメディですが,題名がIs no good(悪い奴)のもじりというのまでは書かずもがなでしょうか.
いつもの空き地にはね,放浪者ヴァランタンにすっごく似たおじさんがいるんだよ.クロテールが僕らに言うんだ,「大きくなったら,あのおじさんみたいにね,年がら年中,空き地をほっつき歩いていたいな」ってね.そしたらジョフロワが,パパに空き地を買ってもらおうかな,だって.で,リュフュスが笑わせるなって言ったら,ヴァランタン似のおじさんが二人の間に入って止めたんだ.すっごくいい人だね,このおじさん.(p.20)
(続く)
Comments