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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』hors-série(3)-2

« Nicolas vous présente Pilote »(1964)(suite).

 本話は次のように始まります.

 

『ピロット』はすっごくおもろい雑誌だ.僕ら,クラスメート全員が学校で読んでいる.クロテールなんて授業中に読んでいたから,罰をくらったよ.クロテールは地理の教科書の間に挟んで読んでいたんだけど,『ピロット』より地理の教科書の方が小さいもんだから,担任の先生は『ピロット』を見咎めて,クロテールに居残りを命じた.ヤツはいつも笑かしてくれるよ,クロテールはね.(p.20)*

*hors-série(3)-1で触れたように,1頁全面を用いて掲載されているので,掲載箇所は常にp.20です.


 ニコラが『ピロット』を紹介するという趣旨ですから,まずはどれくらい「おもろい」か説明するわけです.それは,毎週誰かが学校に持ってきて,クラス中みんなで読むのを楽しみにしているほど.私にも覚えがあります.高校生の頃,あれは『少年サンデー』でした.大体持ち回りで買ってきて,みんなで回し読みしていました.ある日のこと,ある人の家の近くの「自販機」では,公式の発売日の前日か前々日にすでに販売されていることがわかり,一刻でも早く読みたい僕らは,必ず彼に頼んで買ってきてもらうようになりました.雑誌名が『少年サンデー』であるのを覚えているのは,そこに上條淳士の『Toy』が掲載されていたからです.ロックと漫画の組み合わせ,日常目にする,リアルな新宿や中野の風景,インディーズの音楽とライブハウス・・・それはもう,毎週毎週が,『Toy』のために存在しているような日々でした.便利ですねぇ,今では↓のような紹介もすぐに見つかります.


 話はだいぶズレてしまいましたが,こういう経験があるので,ニコラたちが毎週『ピロット』を楽しみにしていること,学校での興奮が本当によくわかるのです.クロテールが授業中に教科書に挟んで盗み読みしていることも,今でいう「あるある」で理解できます.ここではクロテールがお間抜けすぎて,本の大きさの違いに無頓着だったことを笑うべきでしょうか,それとも,それほど早く読みたかったという熱量を読み取るべきでしょうか.いずれにせよ,「シリーズ外作品」とはいえ,ニコラの日常風景を描く『プチ・ニ』の世界そのものです.

 ちなみに「すっごくおもろい」はニコラの口癖であるchouetteの語.そんな語を耳にする・目にするだけでも,もうすでに『プチ・ニ』の世界に引きずり込まれてしまいます.

 第1段落冒頭で,ニコラは「すっごく」喜んでいます.なぜなら,校長先生から指名を受けて,『ピロット』の紹介をすることになったからです.これを聞いたら,「みんな悔しがるだろうな」.そうでしょうとも.なんでニコラのやつが・・・

 同じ段落で,校長先生もやっぱり喜んでいます.でもそれは,ニコラに大役を任せたからではなく,「ペラル」さん(Péralle)という人から,タバコとパイプをもらったからでした.前のパイプは無くしてしまったからちょうどいいそうです.ここで「ペラル」さんと,わざわざ固有名を挙げているのは謎.きっと何か意味があるのだと思うのですが,わかりませんでした.

 第3段落目から『ピロット』の紹介が始まります.


『ピロット』にはイラストのついたお話がいっぱいいっぱい掲載されているんだ.中でも,ガリア人が出てくるやつがあって,これには僕らみんな大笑いする.(p.20)


 最初に出てくるのは「ガリア人が出てくる」,イラスト付きのお話.これはもちろん,『ガリア人アステリクス』(Astérix, le Gaulois)シリーズのこと.ゴシニさん,ちゃっかり自作から宣伝しています.いえ,宣伝しているのはあくまでニコラなんですがね.

 登場人物?の中で,ニコラのお気に入りは「イデフィクス」.オベリクスの愛犬です.ウードはアステリクスとオベリクスの方が好きだそうです.なぜならお話中,この二人がウードと同じように,敵の鼻を殴るからだそうです.アルセストは猪の丸焼きに惹かれています.ごもっとも.というわけで,友だちの鼻を殴るのが愛情表現のウード,食べ物への執着のすごいアルセスト,それに(6)で犬を飼う気満々だったニコラ.同じ「好き」でも,それぞれの関心に従って自由な読書をしているようです.


 次にね,飛行機のパイロットのお話もあるんだよ.ブィーン.ジョフロワは,大きくなったら,ミシェル・タンギのようになるんだって.それですっごくお金持ちのパパに飛行機のおねだりをしてるんだ.(id.)


 飛行機のパイロットの話っていっても・・・よくありそうなと思ったかもしれませんが,おそらくこの当時,だいぶ話題になっていて,パイロットの話といえば,彼らにはすぐに『タンギとラヴェルデュール』(Charlier et Jijé, Tanguy et Laverdure)が想い浮かんだことでしょう.本書のpp.34-48には,1968年6月13日に『スーパー・ポケット・ピロット』第1号に掲載された「最初のミッション」の話が掲載されています.『タンギとラヴェルデュール』シリーズは当初,シャルリエ*の話に,『アステリクス』シリーズのユデルゾが絵をつけていたのですが,ユデルゾは段々と『アステリクス』で忙しくなり,ジジェが代わりに描くようになった作品だそうです.

*Jean-Michel Charlier(1924-1989)ベルギーのマンガ家,脚本家.『ピロット』の共同創始者.


 もうすでに有名になっていた作品であるため,「最初のミッション」のような誕生秘話が後から書かれたということでしょう.ユデルゾ時代ではなく,ジジェのマンガを載せているところが,本書のバランスの取れたところかもしれません.

 前回(hors-série(2)-1)で引用したp.20↓に,「飛行機に乗ったタンギとラヴェルデュール」「ブルン」と書いた,子どもの絵のようなイラストがあります.

 同じページのイラストですから,描いたのはおそらくサンペ???たぶん・・・.ニコラの紹介ですから,子どもが描いたような絵にしなきゃというわけです.飛行機の上に雪だるまが2体置かれている感じです.それに,車輪より下に機体があったら,着陸できないのでは?とか,ツッコミどころが多々ありますが,ともかく『タンギとラヴェルデュール』と書かれているのですから,かの有名なマンガの二人組のはずです.実物は↓.


 似ているはずもない.それはともかく,ほんの少し脱線すると,私の好きな映画に『終身年金』(Le Viager)という日本未公開作品があります.ゴシニが原作とシナリオを担当し,ピエール・チェルニアが監督を務め,ミシェル・セローが主演した1972年のコメディ映画です.大傑作!この映画の中に「終身年金とは?」と,子どもが紙芝居のように絵を用いて,用語の説明をする場面があります.この時の絵がすぐに想い浮かびました.私には全く同じスタイルで描かれたように見えます.ということは,あの映画にサンペも協力していたということでしょうか.それとも,子どもの筆を模したゴシニが描いているのでしょうか.次回DVDで見るときに確認せねば.

 だいぶ逸れてしまいましたが,飛行機乗りのミシェル・タンギ,かっこよくて,子どもたちの憧れだったのでしょう.少なくとも,そういう設定で書かれるべく,ジョフロワが登場しているのです.それに対して,リュフュスがジョフロワに「笑わせるな!」とツッコミを入れ,ケンカになります.これもいつもの『プチ・ニ』どおり.二人は「ブルン,ブルン」と飛行機の真似をしながら,「おまえの負けだ」と,はしゃいでいたそうです.

 お次は・・・続き・・・(続く).


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