« Nicolas vous présente Pilote »(1964) repris dans Les plus belles histoires de Pilote De 1960 à 1969(les années 1960), Dargaud, 2012, p.20.
(たぶん?)最後の『プチ・ニ』シリーズ外作品は『プチ・ニ』が連載されていた『週刊ピロット』誌に掲載された本話「ニコラによる『ピロット』紹介」です.このお話が,シリーズ外作品(hors-série(2))のように<正方形版>に収録されなかったのは,おそらく著作権のせいではないでしょうか.でも,ゴシニの著作物一般を,今現在IMAV Éditionsが管理しているのなら,ゴシニが編集長を勤めていた『ピロット』誌なら,ボーナス収録できそうなんですが.
それはともかく,確かに本話は本来の『プチ・ニ』の物語というより,『プチ・ニ』の登場人物であるニコラが,ゴシニらが手がけている『ピロット』誌の紹介をする,つまり,創作の登場人物が他の創作について話題にするという,創作による創作の紹介ですから,やはり,ニコラの日常世界を描いた『プチ・ニコラ』とは明白に異なります.でも!ところが,です.これから少しずつ読んでゆきますが,ニコラだけではなく,クロテール,アルセスト,ウード,ジョフロワ,リュフュスなど,いつものメンバーも登場し,しかもいつものキャラに関連させて,話の展開がなされています.ですから,hors-série(1)と(2)のように,いつもの『プチ・ニ』と同じ文体,同じユーモアだけれども,登場人物はゴシニやサンペであったお話と比べると,ずっと『プチ・ニ』に近いのです.
とりあえず,本話を見る前に,本話が再録された本について,少し説明しておきます.
本書の題名は『『ピロット』誌名作集 1960年から1969年まで』(Les plus belles histoires de Pilote De 1960 à 1969)です.主にマンガの出版で有名なダルゴー社から2012年に出版されています.『週刊ピロット』は1959年に,ルネ・ゴシニ,アルベール・ユデルゾ(言うまでもなく『アステリクス』の作家ペア),ジャン-ミシェル・シャルリエ(1924-1989,ベルギー出身.後でお話に出てくるTanguy et Laverdureの著者),ジャン・エブラールらによって創刊されました.雑誌はすぐに大人気となったようですが,お金の問題は常について回るもの.翌年,1936年から出版業に乗り出していたジョルジュ・ダルゴー(1911-1990)が手を差し伸べ,雑誌を買い取ります.それで本書もダルゴー社から刊行されているんですね.1963年9月12日の203号からは,ゴシニとシャルリエが編集長となっています*.
*この辺の情報は本書の編集者が付した序文「『ピロット』の子どもたち」と,wikipédiaを元にしています.
『週刊ピロット』には,フランス語圏の人なら誰でも知っている名作が多数掲載されました.ゴシニもユデルゾとの『アステリクス』シリーズ,モリスとの『リュッキー・リュック』,タバリとの『イズノグッド』など,代表作であるマンガのほとんどを本誌に発表しました.1974年,ゴシニは雑誌を離れ,また,雑誌も月刊となります.1986年に『月刊シャルリ』と合併した後,1989年には廃刊となりました.大雑把に書くとこんな感じです.
さて本書に戻ると,本書の副題には,「1960年から1969年まで」とあります.でも表紙を捲ると,副題には「1960年代」とあります.一体,どちらが副題なんでしょう?それはともかく,きっとどっちでも意味は同じだろ,と思いますよね?そうなんですが,さすが,人を驚かせた,というか,楽しませた雑誌の抜粋集です.p.4に掲載された最初のお話である,クリスチアン・メジエール作Valérian(le fflumgluff de l'amitié)は,なんと1970年6月15日掲載分でした.どういうこった?
話を戻すと,本書にはダルゴーが関わってから,ゴシニが編集長を勤めていた時期の『週刊ピロット』掲載作品から,選りすぐりの作品が選ばれていることになります.「名作集」と訳しましたが,実際には「最も優れた物語」(les plus belles histoires)が収録されているのです.もちろん,編者自身が書いているように,この間に掲載された全ての作品を収録することなど,とてもできませんから,必然的に主観で選択された作品となります.ハッとするほど美しい色刷りの『リュッキー・リュック』や,その後大活躍するGotlib,Cabu,Bretécherといった風刺作家の作品がたくさん収録されていて,本当に素晴らしい.フランスやベルギー起源の,いわゆるBDは,吹き出しの中のセリフや説明文が長く,日本の漫画を楽しむようには気楽に読めないので,個人的には愛読してますとまでは言えませんが,それでも,いわゆるアメコミや日本の貸本の漫画,そして後の『ガロ』のように,ほぼ同時期に全世界的に広がった一つの文化表現として,いつも感心して眺めています.
少しずつ,『プチ・ニ』に近づいていきましょう.それで本書には都合3話の『プチ・ニ』が収録されています.本書のもう一つ優れたところは,恐らくは,掲載当時のまま再録しているところです.ですから,『プチ・ニ』が他のBDに混じって,どのような形式で掲載されたのか確認ができます.まず,本話「ニコラによる『ピロット』紹介」は次のようなものです.
題名に『プチ・ニコラ』とありませんから,その意味で『プチ・ニ』ではありません.でも,最初のイラストは間違いなく,あのニコラです.↓
本文中にクレジットはないのですが,初出情報を示す左側欄外(スキャナーの都合で,上のイラストには入りませんでした)には,「Le Petit Nicolas vous présente Pilote/Goscinny-Sempé/Pilote Hebdomadaire no 224 / 06/02/1964」とあります.つまり,そのまま訳すと,「『プチ・ニコラ』(ニコラちゃん)が『ピロット』を紹介する.ゴシニ−サンペ.『週刊ピロット』1964年2月6日,第224号掲載」となりますから,少なくとも,本書編者は『プチ・ニ』の1話として扱っていることがわかります.
お話の上下左右,すなわち枠をなしているのは,『プチ・ニ』に登場する人物たちです.他に本書に収録された2話を見ると,『週刊ピロット』には,どうやら常にこのような形式で掲載されていたことが分かります.
他の2話というのは,「お薬」(« Le médicament », p.117)と「僕はたくさんプレゼントをする」(« Je fais des tas de cadeaux », p.193)です.本ブログではそれぞれ,(133)と(118)のお話に該当します.(133)を見てみましょう.
Les plus belles histoires de Pilote De 1960 à 1969(les années 1960), Dargaud, 2012, p.117.
枠には,先程のような登場人物たちは用いられていませんが,それでも魚の骨とか,ヒトデのような装飾模様?で縁取られている形式は同一です.文のところどころにサンペのイラストが挿入されています.蛇足ながら,(133)で紹介した際には,『未刊行集 第1巻』を元にしてイラストの数を数えていましたが,このように初出時を,初出時のプレゼンテーションのまま実際に見ると,(133)に添えられていたイラストは3枚であったことが明確に分かります.イラスト3/4でアルセストが奥で話している二人と逆方向を向いているのは,右にもう一人話している人がいたからなのです.オリジナルを見ると,わかることもやっぱりあります.それに,右下に,赤い枠に囲まれて,『プチ・ニコラ』が「1963年,最も面白い書籍」に与えられる「アルフォンス・アレ賞」を受賞したことが書かれています.こうした情報は『プチ・ニ』を面白く読むだけなら不要かもしれません.でも,当時,どのように読まれ,どのような評価を受けていたのか,引いてはどうして『プチ・ニ』のような(マンガではなく)文章が長く愛読されているのか,そうした諸々を知るための貴重な情報ではあるのです.選集,論集のような,後から編集されたものは,一つの情報を特権化し,こうした情報を消し去ってしまうわけです.
では次回から,「ニコラによる『ピロット』の紹介」を読んでゆきましょう.(続く)
Comments