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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』hors-série(1)-1

更新日:2023年5月4日

« La princesse et le photographe »(1960)(初出:Sud-Ouest dimanche, le 8 mai 1960).


 前回の(222)で『プチ・ニコラ』シリーズは,全て終了しました.『プチ・ニ』には,①雑誌掲載されたお話(初出),②1960年〜1964年に,それまでに雑誌に掲載されていたお話から選んで書籍(5冊)に収録したお話,③書籍(5冊)に収録されていなかった雑誌掲載分を収録した書籍(3冊),④これまで印刷されたことがなく,タイプ原稿で残っていたお話,以上の4種類がありましたが,(222)までで,<おそらくは>全て網羅できたはずなのです.<おそらくは>と書くのは,これからまだ原稿が出てくるかもしれませんし,雑誌に掲載されただけで,再録から漏れたお話があるかもしれないし・・・等々の可能性を考えてのことですが,繰り返しになりますが,おそらくはこれまでで出尽くしたことでしょう.こんな言葉がいつか裏切られることを期待していますが.

 さて,これから『プチ・ニコラ』の「シリーズ外」として,3話の紹介をします.これまでのところで『プチ・ニ』とは・・・と定義するなら,ゴシニとサンペの共同制作,ゴシニが文の執筆,サンペがイラスト担当,語り手が全てニコラの物語となるでしょうか.すると,ゴシニが他のイラストレーターと発表したものは,当たり前のことですが,『プチ・ニ』とは無関係ですし(『リュッキー・リュック』,『アステリクス』など無数にあります),逆にサンペが他の文章につけたイラスト(例えば,パトリック・ジュースキント文『ゾマーさんのこと』とか)も然り.さらに,物語を語るのがニコラでなければ,ニコラの眼と手(文)を通したことにならないので,やはり『プチ・ニ』じゃない.そんなの当たり前じゃないかと言われそうですが,これからご紹介する「シリーズ外」作品は確かに『プチ・ニ』ではないのですが,ほとんど『プチ・ニ』であるとか,『プチ・ニ』ファンが読まないのはもったいない作品なのです.

 但し,少しだけ制約があります.それについては,それぞれのお話について説明しながら,触れてゆきます.

 まずその一,「王女と写真家」です.これは『プチ・ニ』が掲載されていた『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌の1960年5月8日号に掲載されたお話です.(222)-2で紹介した初出一覧のサイト*を見ると,同じ年の5月8日に同誌(564号)**には,後に書籍収録時に「クロテールの腕」と改題されたお話が掲載されていたことがわかります.書籍第2巻に収録されたお話です.

** N° 564 (08/05/1960) : (sans titre), texte avec 4 ill. (repris dans Pilote sous le titre C'est pas juste et en album sous le titre Le Bras de Clotaire).


 すると,本話「王女と写真家」は本編である『プチ・ニ』以外に,さらに同誌に掲載されていたことになります.その意味でも,確かにシリーズ外作品なのです.

 このお話は,近年,『プチ・ニ』が14分冊として,<文庫版>と<正方形版>に収録された際に,『プチ・ニコラの悩み』(かつての『ジョアキムの悩み』(初版は1964年,第5巻))の,それも<正方形版>の方にのみ,ボーナスとして収められました.

Le petit Nicolas a des ennuis, Éditions Denoël-Gallimard, 2010, < format carré >.

 さらに,最新の日本語版(世界文化社版)が刊行された際に,全巻購入特典として配布された『第0巻』に,「王女と写真家 マーガレットの結婚 −ゴシニとサンペは結婚式に参列していた」として,小野萬吉先生の翻訳が掲載されています.

サンペ/絵 ゴシニ/文 小野萬吉/訳,「王女と写真家」(« La princesse et le photographe - Le mariage de Margaret - Goscinny et Sempé assistaient au mariage ») in 『プチ・ニコラ0』世界文化社,2020, pp.62-87(世界文化社版『プチ・ニコラ』全巻購入特典).




 フランス語の<正方形版>は現在(2022年),版元では品切れで購入できませんし,日本語でも特典の非売品に収録されたため,どちらも容易に読めるとは言い難い状態です.これはとても残念なことです.だって,すごく面白いんですよ.相変わらず,ユーモアと皮肉の効いた文とイラストで.

 ほんの少し脱線すると,「王女と写真家」という題名を英語に直すと,Princess and the Photographerで,これは1984年に公開された日本映画『ヨーロッパ特急』(大原豊監督)の英語題名です.この映画,かの有名な『ローマの休日』を下敷きにした作品で,王女と一般人である写真家のラブストーリーなのですが,本「シリーズ外」作品とは全く無関係です.

 本話は,1960年5月6日に行われた,エリザベス2世の妹・マーガレットと,スノードン伯爵(写真家アンソニー・アームストロング-ジョーンズ)の結婚式のルポルタージュです.というより,ゴシニが筆を,サンペがイラストを描いてルポルタージュの体裁をとった,ルポルタージュのパロディです.ゴシニ文・サンペ絵なら『プチ・ニ』となりそうですが,語り手が「わたし」こと,ゴシニなのです.ニコラも登場しなければ,その日常生活の描写でもなく,間違いなく,上記結婚式を関連して生じた出来事の記述なのです.ですから,「シリーズ外」とも番外編とも言えないのですが,書いたのがゴシニで,さらに次のようなイラスト1/4を目にしては,避けて通ることはできないような・・・.

 熱心にテレビに見入っているニコラ(らしき誰か).見ている画面あるいはそこから触発された妄想を表す吹き出し.間違いなく,『プチ・ニ』に通じた作品なのです.

 ところで,すでに触れましたが,このお話のフランス語版は雑誌掲載後に,<正方形版>にのみ収録されたのですが,現在入手が困難であることから,私はフランス語で読んでいません.これから紹介するイラストも全て日本語版『第0巻』から拝借しています.そこで大変残念ですが,ここでは日本語で表現されているユーモアについて紹介するとして,またいつか,フランス語版が入手できたときに,フランス語のユーモアについても改めて書きたいと思います.

 まずは序文にあたる,お話の紹介文をみましょう.


「ここでは現実の出来事をリポートする物語が問題となる.これは,フィクションではなく,子供向けの話でもない.これは,ルネ・ゴシニの筆とジャン-ジャック・サンペの挿し絵による非常に珍しいルポルタージュなのである.」(p.60)


 「現実の出来事をリポートする物語」というところ,気になります.つまり,「現実の出来事」の「物語」ではなく,それを「リポートする」物語というのです.さすが,ゴシニ.かなり捻くれた設定です.


「しかし,ジャーナリストである前にユーモア作家であった二人の著者は,スタンドプレーの愉しみに抗することができず,最終的には,ルポルタージュではなく,ルポルタージュのパロディができあがる.」(pp.60-61)


 つまり,出来事を報告しようとしながら,出来事を報告する姿を茶化して描いたパロディとなってしまったようなのです.


「物語が進むにつれて,主人公は,イギリス人でもロイヤル・ファミリーでもなく,それは,パリジャンであり,ユーモア作家であることが実感される!」(p.61)


 というわけで,本話の主人公は「王女」でも「写真家」でもなく,また,一般人との結婚に大反対したロイヤル・ファミリーでもなく,「パリジャン」にして「ユーモア作家」,すなわち,ゴシニとサンペこそが真の主人公となります.だって,ルポルタージュじゃなくて,そのパロディなんですから.(続く)

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