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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(99)

« Clotaire déménage », HIPN, vol.1, pp.110-117.

 「クロテールが引越しする」そうです.本話にはイラストは大判見開きの1枚だけ.



 確かに引越しの風景です.各部屋の開いた扉の向こう側には,筋肉ムキムキの引越し屋さんが大きな家具を運んでいる様子が見えます.右側の奥には二人.一人は専用箱(caisse)に荷物を入れています.今は緩衝材として,紙や通称プチプチを間に入れて物が壊れないようにしますが,この頃は「藁」(paille)だったようです.汚れるかもしれませんが,たいへんエコロジックでした.もう一人は誰かと一緒に大きな戸棚か箪笥を運んでいるようです.物持ちの良いフランス人のこと,きっと先祖伝来,何十年も大切に使ってきた家具なんでしょう.それにしてもあの木材の家具,かなり重いんですよ.

 真ん中の扉の向こうには大きな家具と額縁を運ぶ引越し屋さんが2人います.3番目の扉の向こうには,巻物(絨毯でしょうか)をいくつも抱えて運ぶコストーなおじさんの後ろ姿が見えます.手前の,居間らしき空間には引越し専用の箱が並んでいます.この頃は木箱で,釘で打ち付けて蓋をしていたんでしょうか.

 そして4番目の扉,向かって一番左側の扉の向こうには・・・うじゃうじゃと子どもの群れが・・・.嬉しそうにマスト(帆柱)のついた大きな船を掲げる子,自動車を見つけて喜ぶ子,その他それぞれが箱をまさぐり,おもちゃを引っ張り出しているようです.この,扉の向こうの狭い空間で,おもちゃを出すのとおもちゃをしまうのと見た目ではっきり区別させるのは難しそうですが,床に消防車やトラック,汽車なんかが散らばっているところを見ると,お片づけしているんじゃないですね.それに箱は,さっきから何度も出てきている引越し専用箱で,荷造りをするのは引越し屋さんです.「プロですから」が口癖の.ですから,せっかく箱に入れて持ち出すまでになっていた箱を開けて,おもちゃを取り出しているところなんです.「みんな手伝いに来てくれたんだよ」(p.114)だそうですが,邪魔しに来たんだよ.の間違いでは?

 ここでちょっと深読みすると,「みんな手伝いに来てくれたんだよ」(« ils viennent aider »)には目的語(「〜を」)がありません.誰の,何の手伝いをしに来たんでしょう.後でクロテールに入れ知恵して,電動式の電車の箱を開けさせに行ったりするので,きっとクロテールのお手伝いなんです.でも,こんなとき,子どもは手伝いもしないし,ウロウロしていると邪魔だし,大人がイライラするのもよくわかります.でも,ニコラたちの解釈は違ったようです.


家に帰ってお昼の時間に,「クロテールのパパとママンが僕たちに引越しを手伝いに来て欲しいんだって」と話すと,ママンは驚いていた.

「おかしなこと思いつくわね.でもまあいいわ,遠くもないし,あなたがやりたいっていうんなら.でも服を汚しちゃダメよ.それに早く帰ってきてね.」(p.111)


 ママンの口癖とも言える「おかしなこと思いつくわね」(« c'est une drôle d'idée »)が出ました.まぁ,そりゃそうでしょう.でも,時すでに遅し.クロテールの両親にできることといえば,子どもたちをクロテールの寝室に閉じ込めて,被害を最小限に抑えることくらいです.

 それで,何が起こったかというと,


1)メクサン「あっ!お前の消防車だ!」(p.115)(電池切れでしたが)

2)クロテール「初お目見えの砦だ.インディアンもいるぞ.ウーリディスおばさんのプレゼントなんだ.」(id.)(箱の底にありました.→つまり箱のもの全て出してしまった)

3)みんなでマストのついた帆船を解体し,しまうのを手伝った.

4)ジョアキム「お前の電動式の電車はどこだ?なかったぞ.お前ついてるぜ,俺たちが調べなかったら大変だったぞ.」(学校で停学をくらった際にパパに没収されていたため,すでにトラックに積み込まれた別の箱に入れてあった.それにしても,クロテールがちゃんと把握していたので驚き)(邦訳はここのところ,誤解があるようです)


 それでリュフュスの勧めに従い,電動式の電車をとりに行きます.


クロテールが説明した.「電動式の電車ね.パパとママンの箱に入れたままだと,パパとママンの棚に戻しちゃうでしょう?それだから僕ね,僕の箱の中に入れておこうと思ってさ.だって以前のアパートで没収されたものを次のアパートでも,パパとママンが没収したままっておかしいでしょう?それでね,取り返しておけば居間で遊べると思ってさ.」(p.116)


 理屈は通っているんですが,何かおかしい.どこかおかしい.案の定,クロテールの説明を聞いたクロテールのママンも何が何だか分からなかったようです.

 クロテールが諦めて部屋に戻ったところで,クロテールのパパが入ってきます.超怒っています.「お前,ここにある箱からほとんど全部出しちゃったじゃないか.」(p.117)そこへ今度は引越し屋さんが入ってきます.超怒っています.「何してやがんだ.荷を解いちゃったのか?」


「すぐに全部元に戻しますから.」と,クロテールのパパが言った.

「俺ら,責任は持てねえっすよ.」と,引越し屋さん.「あんたがたが自分で荷造りするんじゃ,責任が取れねえっすから.あっしら,プロですから.」(p.117)


「あっしら,プロですから」(« nous, on a l'habitude. »)は文字通りには,「慣れている,習慣である」という意味で,引越し屋さんの自尊心を表す口癖です.

 クロテールのパパはもうどうしていいかわかりません.きっと泣きそうな顔をしているんでしょうね.それで,子どもたちにはお引き取り願おうと申し出ますが・・・


「おじさんさえ良ければ,僕たち明日も手伝いに来るよ.」と,僕が言ったんだ.そしたら,クロテールのパパはすっごくイカしてたよ.「明日は日曜日だからね.今日はよく働いてくれたよ.クロテールにお小遣い渡すから,みんな一緒に映画に行っておくれ.」(p.117)


 いわゆる,厄介払いというやつですが,KYなニコラによれば,クロテールのパパによる「イカした」(chouette)気遣いということになるようです.何せ,ニコラの語彙の中で,chouetteは最大の褒め言葉ですから.

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