« Les Invincibles », Histoires inédites, vol.1, pp.28-33.
「無敵の者ども」という題名ですが,これはジョフロワの提案で正義の味方の一味を作ることになったので,その名称です.
ジョフロワが読んだ本では,「同志が集まり団体を結成し,それでみんなですっごいことをするんだって.悪者から人を守り,弱きに手を差し伸べ,悪者一味をとっ捕まえて,みんなで高らかに笑うんだ.」(p.28)それで本に登場した一味の名前が「無敵の者ども」で,合言葉は「不屈の勇気!」となります.
このお話では「無敵」とか,「不屈の」のような言葉が使われています.日本語でも漢語(漢字)にすると,ちょっと難しくて,本当に強そう.「無敵の者ども」のフランス語はinvinciblesで,これはラテン語のinvincibilis「打ち負かすことができない」を語源としています.さらにこのラテン語はin-という否定を表す接頭辞と,vincere「打ち負かす」という動詞から派生しています.「不屈」の方はindomptable.否定のin-は同じで,domptableは動詞のdompter+可能を表す-ableの組み合わせでできています.dompterはラテン語のdomitare, domare「飼い慣らす,服従させる」から派生した語です.両方とも作りが似ていますね.この後お話の中では,クロテールがこのちょっと難しい合言葉を覚えられず,集合場所である空き地に入れてもらえません.ちょっと難しいですから,確かに.
クロテールの言い間違いを挙げておくと,「おかしな勇気」(« drôle de courage »),「すっごい勇気」(« courage terrible »),「ナイスな勇気」(« chouette courage »)となり,いよいよ4つ目でようやく「不屈の」(« indomptable »)が出てきます.すると,「勇気」が欠けてしまうのがクロテールらしいところ.ところが何度も間違いを聞いているうちに,門番のアルセストは正しい合言葉が分からなくなってしまい,ニコラたちに聞きに来るというオチです.
「大バカのクロテールがずっといろいろ言ってたから,覚えていられなくてさ.」(p.32)
この「ずっといろいろ言って」問答しているシーンが2枚目のイラストです.
「おかしな勇気?不屈の勇敢さ?ナイスな勇気?」とクロテールが並べたて,アルセストがそれを3回否定する場面です.文章では「不屈の勇敢さ」(« bravoure indomptable »)の代わりに「すっごい勇気」で,いかにもいかめしい表現が出てこない様子が可笑しかったのですが,イラストではbravoure(これはイタリア語起源の語)で少し違います.でも,ここでは列挙して,それがことごとく外れると言うのがポイントですから,文とイラスト(吹き出し)の食い違いなんて大したことではありません.背後の空き地では議論沸騰,「無敵の者ども」が何やら言い争いをしています.右奥で黒の帽子と黒のマントと黒のマスクできめているのが発案者のジョフロワです.それで「無敵の者ども」がこれからどんな正義の行いをするか話し合っているのかと思いきや,またもやいつもの意見の不一致で,一人去り,二人去り・・・終いには発案者のジョフロワさえも去り,ついにはクロテールとニコラだけが残されてしまいます.何でも,ジョフロワは自分一人だけの「無敵の者ども一味」を作るんだそうです.一人で団体(一味)?それも良いでしょう.
とりあえず,前後しましたが1枚目のイラストは結局揃わなかった一味が勢揃いした架空の場面です.
壊れてタイヤがとれた車が主のよう.木製の囲いはところどころ破れて出入り自由,捨てられた空き缶が転がっています.私が子どもの頃にも,こんな面白そうな,何か落ちていそうな空き地が家のすぐ目の前にありました.バット振ったり(野球はしませんでした),釣り竿振ったり(リールで投げる練習),草むらを踏みしだいて探索したり.どうしてああ言うものがなくなっちゃったんでしょうかね.
それはともかく,黒に包まれたリーダーを中心に,空き地の中から「一味」全員でスパイが入ってこないか見張っています.悪者が入ってこないように警戒しているのでしょうか.リーダーの傍には,食べ物を頬ばる,参謀のアルセストがいます.後ろで少し離れているのは,なかなか入れてもらえなかったクロテールかも.その他は大勢.誰が誰やらわかりません.ニコラさえ,どの子なんだか.
結局もろもろ意見が食い違い,決着がつく前にみんな帰っちゃいますから,イラストのようにはならなかったのですが,それでもジョフロワの「ナイスな」アイデアにみんなが賛同して集合したのですから(入れてもらえなかったクロテールを除いて),心の中のイメージではやはり一致団結していたわけで,それなら随分,正確な描写ですよね.
最後に,ようやく入れてもらったクロテールからビー玉を巻き上げ,ちゃっかり得をしたのはニコラでした.そういえばクロテールを入れてあげたのもニコラですから,計画的犯行では?
クロテールと僕と,二人きりになったんだ.それで僕がクロテールに合言葉を教えてあげたから,ほらこれで,クロテールもスパイなんかじゃない.僕ら,ビー玉で遊んだんだよ.
一味を作ろうなんて,ジョフロワのアイデアはナイスだったね.僕はビー玉を3つも手に入れたんだから!(p.33)
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