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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(77)

« Leçon de code », t.V, pp.72-81.

題名にあるcodeというのはフランス語で「法律,法典,法規」のこと.その他,「掟,規則」や「コード(記号の体系)」なんて意味も.有名な「ナポレオン法典」(code Napoléon)なんて仰々しい使い方もすれば,街中の道路の交通規則を記した「道路交通法」(code de la route)にも用いられています.そんな「法典」のレッスン,つまり授業なんて,やっぱり重々しい印象を受けますが,相手は小学生ですから,そんな大袈裟なものではありません.これがパパたちのような大人相手なら,道路交通法違反,免許取り消し,罰金等々,なんだか見るだけでうんざりするような規則の話かと思ってしまいますがね.既訳では「交通規則の学習をしたけれど・・・・・」と,話のオチに踏み込んだうまい題名がついています.つまり,「学習をしたけれど・・・・」(した意味がなかった・・・・)と,即座に想像できるのです.

 さて,このお話にイラストは5枚ついていますが,1枚目と4枚目,5枚目は他の2枚からの抜粋なので実質2枚.うち1枚は(74)に引き続き,珍しく水彩で描かれているようです.これが本話での2枚目となります.


 道路にはお巡りさんが立っていて,交通整理をしています.警棒を手に,ホイッスルを鳴らして,進んでよし,止まりなさいと,全て手動で采配していたのです.今ならもちろん,信号機の役割となってしまいましたから,交通整理のお巡りさんはお役御免で,どこか牧歌的で懐かしい風景となりました.右端にはニコラらしき子どもが蝶々が飛んでいるのを眺めています.こんな風に何かに気を取られていると,車にも気づかず,危ないですよね.今は全て信号に任せてしまっていますが,お巡りさんの交通整理は大切な役割だったのです.でも,お巡りさんだってずっと立っていなくてもよくなったんですから,素直に技術の進歩を喜んで良いようなものですが,でも,どうでしょう.以前,随分遅い時間(夜中の3時過ぎ)に私は帰宅途中でした(夜に友だちと呑むお酒は格別に美味しいですから).結構大きな通りですが,人っ子一人なく,車も通りません.そりゃ,そんな時間ですから.ところが,右見ても左見ても通る人も車もない真っ暗な歩道で,何と!人が信号が青になるのを待っているんです.もちろん,規則は規則.信号守って何が悪いというのは確かですが,それを見ながら私は何とも言いようのない寂しい気持ちになりました.それって必要?初めにルールありきで,判断は後回し.それがどうにも気になるのです.

 さて,今回のお話では,まずニコラたちが遅刻寸前なのに路上でふざけながら登校してきます.折しも,学校付近で大きな事故があったとのことで,「文法」の授業の代わりに,交通ルールの勉強をすることになります.それでいつもなら,脱線につぐ脱線で話が進まないとなりそうなんですが,そうでもありません.確かに担任の先生の話の途中,話を聞いていられないジョフロワは友だちにチャチャ入れているし,ちょっと呼ばれただけのクロテールはいつもの癖で教室の隅に自分から立ちに行ってしまうし,メクサンは免許を取れないお母さんの話をし始めるし,いつもお母さんに手を引かれて登校していると揶揄われたアニャンは怒り出すし,色々大変なんですが,それでも先生はしっかり説明し,ニコラたちもしっかり聞きます.それでニコラは20点満点中18点の好成績.15〜18点だった他のみんなに差をつけます.それでは,このお話のオチは?というと,これが1枚目のイラストにはもうちゃんと表れているのです.


右側には学校が見えます.学校の前が幅の広い道路になっていて如何にも危ない.それでお巡りさんが真ん中に立って,交通整理をしています.もちろん子どもたちを見かけると,車を止めて渡らせてあげるのです.でもこのイラストでは,お巡りさんは少しかがんだ様子で,目を丸くしています.まるで目の前で展開していることが信じられないといった感じです.では目の前に何があるかというと,子どもたちがはしゃぎながら道路を渡っています.大人しく歩いている子もいれば,カバンを放り出している子,追いかけっこをしているもちらほら.渡る前に道路脇にカバンを置いてきている子もいるようで,校門に向かって右斜め前にカバンが一つポツンと.これがお巡りさんが目を丸くしている風景なのですが,ところがお巡りさんの背後では,何と,あろうことかまた学校へ戻っている子どもたちの姿が見えます.えっ?下校時間で帰宅の風景のはずなのに・・・.

 無事授業が終了し,警察から注意を受けていた校長先生も,これで一安心と教室を出てゆきます.担任の先生は子どもたちを見送ります.


校長先生が教室から出て行った.僕らはまた座り直して,その後終了の鐘が鳴った.僕らが帰ろうと立ち上がったら,担任の先生が言ったんだ.

「急がないで,急がないで.階段はゆっくりと降りてちょうだいね.皆さんが道路を渡るのを先生,見てますから.今の授業がちゃんとわかったのか確かめましょうね.」(p.80)


 先生が見ていますから,ニコラたちは,「すごくゆっくりと,みんな並んで渡ったんだ.それで道路の反対側に渡り終えたところで振り返ると,担任の先生は歩道でお巡りさんと笑いながら話をしていた.校長先生は校長室の窓から僕らを眺めていたよ.(p.81)


 先生,ここで安心してしまいました.これが先生の詰めの甘いところです.


先生が僕らに大きな声で,「よくできました!」と言ったんだ.お巡りさんも私もとっても嬉しいわ.じゃあ,また明日ね!」

 それを聞いた僕らは全員,先生とお別れの握手をしに道を引き返したんだ.(p.81)


 それでお巡りさん,背後で何か感じ,目を丸くしていたんですね.し,信じられん・・・とひたすら目を疑うばかり.

 でも,私たちとしては,そんなニコラたちを見る先生の表情の方が気になります.まさに,茫然自失.痛恨の一言でした.






 


 





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