top of page
検索
執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(66)

« Les athlètes », t.IV, pp.105-110.

題名の「運動選手(複数形)」はもちろん,ニコラたちのこと.もうこれまでにも何度も登場している近所の「空き地」が舞台のお話です.

 何曜日かわかりませんが,ニコラたちはみんなで空き地に集まり遊ぶことにしました.とはいえ,アルセストのサッカー・ボールは学期末まで没収ということで,ボール遊びはできません.それで,みんなでアイディアを出し合うのですが,もう予想がつきますよね.どうせ話はまとまらないでケンカ始めるんです.でも,ニコラたちにしてみればケンカや言い争いも,いつも「すっごく楽しかった」と遊びになるんですから,それで良いのでしょう.

 まずはリュフュスの提案で戦争ごっこ.敵役選びでいつもケンカになるからと,ウードのダメ出しで却下.次はクロテールが陸上競技会の提案をします.競技会というぐらいですから,種目がいっぱいあって,誰もが同時にたくさんのことして,それでチャンピオンを決めるんだそうです.それでチャンピオンは表彰台に登ってメダルを受け取って・・・

 ここでジョアキムが,表彰台とメダルをどうするんだとツッコミを入れます.ここから急転直下,話がズレていくのはいつものことでしょう.

 まずはクロテールが高跳びを提案.タルチーヌを食べているところだから跳べないというアルセストの反論は置いておくとして,高跳びだから跳び越えるための紐が必要.でももちろん誰も持っていない.それでジョフロワがベルトで代用しようと提案します.これにももちろん反論が寄せられ,とにかく話が進みません.いつものことですが.

 次にジョフロワが紐を探す代わりに,「逆立ち」で歩く案を提示します.これが1枚目のイラストです.


 早速逆立ちで歩き始めたのは,もちろん提案者にして得意なジョフロワ(のはず).皆顔も格好も似たり寄ったりなので,確信は持てませんが.

 しかしこの逆立ち案にもクロテールがそんなの陸上競技じゃないと反論.思わず,「バカだなぁ」と漏らしたために,ジョフロワの逆鱗に触れ,二人はケンカ.運動ならなんでも良さそうなものですが,彼らにはこだわり,あるいはテレビでみた競技みたいじゃなくちゃと明確なイメージがあるようです.それじゃ,↑のイラストで,右手で後ろ向きにジョフロワを指し,左手でおでこのあたりをくるくる動かしているのがクロテールとなりますか.ここでリュフュスがケンカを止めるのですが,その言葉が素晴らしい.


「おいっ,みんな.ケンカや悪ふざけならわざわざ空き地に来ることないだろ.そんなことなら学校でできるじゃないか.」(p.107)


 そうなんです.空き地では空き地でしかできないことをしようというのが,みんなの共通認識なんです.それで二人はぴたりとケンカをやめるのですが,気持ちの収まらないクロテールが「怖がらせてくれるぜ,ビル.牧場にゃ,お前のようなコヨーテの扱いには慣れてるんだぜ.」(p.108)西部劇はカウボーイ風のセリフで決めます.

 ついでなぜかメクサンが「紐なしの高跳びなんか見たことあるか〜?」(p.108)と,「紐」に話を戻そうとしますが,ジョフロワはすでにカウボーイ・モード.「バン,バンッ」と撃つとリュフュスが「やられたぜ,ト〜ム.」(p.108)ともうすっかり西部劇.この話の横すべり具合ったら.

 クロテールが発想転換で,高跳びが無理なら競争にしようと提案すると,メクサンが「紐さえあれば,障害物競走ができるのに.」(p.108)とあくまで「紐」にこだわります.

 それじゃ,100メートル走にとクロテール.100メートルあるか〜とウードがツッコミを入れ,便乗してメクサンが,そんなのほんとの100メートル走じゃない,本物ならゴールに「紐」があるはずだと,まだまだ「紐」にこだります.まぁ,ありますけどね.あのゴールにピンと張っているやつ.でも,その紐がないから,高跳びも障害物競走もできないって話でしょうが.


クロテールがメクサンに言った.「お前,紐,紐ってうるせーんだよ.」メクサンがクロテールに言い返した.「紐がないんだから,陸上競技大会始められないだろ.」それを聞いたクロテールが,「紐はないけどな,この手があるんだから,お前の顔にくれてやるぜ.」とメクサンに言った.(p.109)


 こうしてケンカが始まりました.↓これが2枚目.


 でもイラストでは,すごい勢いでケンカをしているのは二人だけで,後のみんなは素知らぬ顔で話し合いを続けています.そこへジョアキム登場.「針金」を見つけてきます.きっと自慢げに真ん中でみんなに話しているのがジョアキムでしょう.みんな嬉しそうだし,すっかり尊敬の眼差しです.それでクロテールも機嫌が治って,高跳びも競争もうんざりしていたところだからと,「ハンマー投げ」を提案します.「紐」を巡ってニ転三転,とにかくできそうな競技にたどり着きました.もちろん,これが3枚目のイラストです.


 でも,クロテールの説明だと,「ハンマーは,本物のじゃなくて,重しを使うんだ.それを紐にくくりつけて,すごい勢いで回して,それから手から離すんだよ.」(p.109)あれっ?ここは本物のハンマーじゃなくていいのね?!「重し」はフランス語ではun poids.「おもり,分銅」の意味のほか,「砲丸」なんて意味もありますから,それじゃ,「ハンマー投げ」じゃなくて「砲丸投げ」じゃない???さすが,「クラスでビリで,先生に聞かれるといつも休み時間抜き」になるクロテール.何か,2つの競技が入り混じっています.でも,クロテールが投げたハンマーならぬ砲丸はかなり勢いよく飛んだようで,クロテールは「どうだ,俺様こそチャンピオンだ!」と自慢するのですが,実際には勝負がつかなかったようです.なぜかって?

 それでも優しいKYなニコラはクロテールの腕を認めています.


でも僕はやっぱりクロテールがチャンピオンだって思うんだ.みんなが投げたって投げなくたって,クロテールが勝ってたさ.だって,クロテールの砲丸はすっごい勢いで空き地から,コンパニさんのお店のショーウィンドーまで飛んでいったんだから.(p.110)


 そりゃ,他の誰も投げられなかったわけです.



閲覧数:2回0件のコメント

Bình luận


bottom of page