« La nouvelle librairie », t.IV, pp.91-96.
「新しい本屋さん」.近くに本屋さんができると,ドキドキしますよね.私の場合にはむしろ新しい古本屋とか,新しい中古レコード屋とかの方がテンション上がりますが.
とはいえ,題名からほぼ展開は想像できてしまうのが『プチ・ニコラ』.きっと物珍しくて,みんなで押しかけて,ワイワイ騒いで,営業妨害して,店主を困らせる・・・そんな感じでしょう.でも,『水戸黄門』や『刑事コロンボ』と同じで,(勧善懲悪ってわけではありませんが),パターンは同じでも,いつでもどんな話でも楽しめるのが古典の良いところ.さぁ,ニコラたちと一緒に新しい街の本屋さんに入りましょう.
ニコラたちがお店に入ると,店主がニコニコと迎えてくれます.
「おやおや,お客様のご来店ですな.横の学校に通っているのかい?わたしらきっと,仲良くなれるね.私はエスカルビーユというんだ.」(p.91)
ここで『プチ・ニコラ』の読者なら,この笑顔が最後にふくれっ面に変わることが予想できます.あ〜あ,かわいそうなエスカルビーユさん.それにしても,変な名前.
最初はニコニコしていたエスカルビーユさんも,ニコラたちへの対応で最初のお客さんを逃してしまった頃から,顔つきが変わってきます.
イラストは2枚で1枚目ではすでに・・・
エスカルビーユさんが指を立てて注意しているようですが,誰も気に留めていません.自由だ.そうそう,大人からしたらこんな状況困りますよね〜.子どもたちが大勢わちゃわちゃして収拾がつかない感じ.それにしても,フランスの本屋さんはワクワクします.天井までぎっしり本の詰まった棚.脚立を使わないと絶対に取れません.クリップで挟まれた色刷りの版画,絵本,回転式本棚・・・お店に置いてある紙物は大事で愛おしいからこそ,エスカルビーユさんの顔も険しくなってきます.当然です.それに,ニコラたちには最強のアルセストがいますし.
案の定,アルセストの手はいつものタルチーヌでベタベタの状態.よりによって今回は,100頁の真新しいノートに興味津々.何とか制止しようとするエスカルビーユさんと攻防戦を繰り広げます.その間,ニコラたちは各々それぞれのやり方でエスカルビーユさんの邪魔をします.もちろん,奴らは楽しく話をしているつもり.そしていよいよ,あのいつも迂闊なクロテールが!
「みんな!」エスカルビーユさんが大声で叫んだ.
すると,すっごく大きな音が聞こえて,本と回転式本棚が床に落ちたんだ.
「僕,ちょっとしか触ってないんだ.」クロテールが真っ赤になって言い訳した.
エスカルビーユさんは全然嬉しそうじゃなかった.(p.95)
そりゃそうですな.かてて加えて,アルセストが!
「99,100っと.スッゲー.本当に100ページあったよ,このノート.嘘じゃなかったんだね.すっごいなぁ.僕,買おうかな.」(p.95)
この「僕,買おうかな.」(moi je l'achèterais bien)という表現は条件法で書かれていますので,「絶対に買う」というよりは,「買おうかな,買うだろうな」と少し和らげた言い方です.さらに,文末にbienと付けると,フランス語では文のニュアンスを少し弱める言い方になりますから,「あ〜,たぶん,買っちゃおーかな〜.どうしよう?」くらいのニュアンスでしょうか.
もうすでに不機嫌の絶頂にあるエスカルビーユさんがアルセストの手からノートを取り上げます.ここでニコラの鋭い観察眼が冴えてます.
「エスカルビーユさんがアルセストの手からノートを引ったくったんだけど,それがもうスルッと.だってアルセストの手は相変わらず油汚れで滑りやすかったからね.」(p.95)
エスカルビーユさん,怒り心頭!「50フランだ!」でもアルセストはそんなことお構いなし.
「は〜い.でも今持ち合わせがないんだ.家に帰って,お昼にパパにねだってみるよ.50フランくれないかなぁって.でもね,多分ダメだね.だって昨日ちょっと悪さしちゃったから,パパはお前には罰だって言ってたからね.」(p.96)
それで仲良く,悪気もなく,ニコラたちは揃って去ってゆきます.
「またね,エスカルビーユさん!」でも,エスカルビーユさんは返事もしませんでした.なぜって,「エスカルビーユさんはノートをみるのに忙しかったからなんだ.アルセストが買う!かもっていってたやつね.」(p.96)
最後にいつもKYなニコラがママンの言葉を想い出します.
「お店の人とはいつもお友だちにならなきゃダメよ.お友だちになったら,お店の人も顔を覚えてくれて,サービスしてくれるんだから.」(p.96)
友だちにもなったし,顔は覚えてくれるでしょうが,エスカルビーユさん,次回からサービスしてくれそうな顔には見えません.
アルセスト,まだ何か食べてるし.
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