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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(63)

« Les docteurs », t.IV, pp.83-90.

 今回の主役はニコラたちではなくて「お医者さん」.それも複数形だから,「お医者さんたち」.というと,Gメン75のような(古い・・・)颯爽としたお医者さんたちを想い浮かべてしまいますが,やっぱり主役はニコラたちでしょう.それも,今回活躍するはアルセストです.

 イラストは5箇所に配置されていますが,実質一枚のみ.あとは全てその一枚からの抜粋です.

 今回はニコラたちの学校にレントゲン(radio)車が来るという話なのですが,こうした場合,『プチ・ニコラ』では大人が愚弄されるというか,子どもたちに振り回されるのがパターンです.今回もすでにニコラたちのクラスを警戒している校長先生があらかじめ注意したのに,大丈夫です,「わたしら慣れてますから」((57)参照.そういえばあの時も「ラジオ」の人たちでした.ラジオ違いですが)とどこかで聞いたようなセリフで軽く考えていたお医者さんたちがしっぺ返しを食うというもの.でも,そんな全体のストーリーではなくて,細部(トリビア)がとっても魅力的なお話です.


① まずはヘンテコな伝言ゲームから.ニコラが学校に到着すると,ジョフロワが上級生から医者が来てレントゲンを撮るという噂を聞いてきたと言います.


「冗談だろ」とリュフュス.「上級生はいつも冗談言うからな.」

「冗談って何の話だ?」とジョアキム.

「今朝,お医者さんたちが来て,ワクチン打つんだってさ.」とリュフュス.

「嘘なんだろ?」とジョアキム.すっごく心配していた.

「嘘って何がさ?」とメクサン.

「お医者さんたちが来てさ,手術するって話さ」と答えたのはジョアキム.

「嫌だよ,僕は嫌だ!」メクサンが叫んだ.

「嫌って何のこと?」とウード.

「虫垂炎を取るなんて嫌だなってことさ」とメクサンが答えた.

「虫垂炎って何?」とクロテール.

それにアルセストが答えて,「小さい時にさ,とってもらったんだよ.だから,お前らが言うようにお医者さんが来ても,ちゃんちゃらおかしいぜ」とゲラゲラ笑った.(pp.83-84)


 どこかおかしい.話が噛み合ってない・・・どころか,全く話が横滑りしていってます.医者→ワクチン→手術→虫垂炎とだんだん話がずれてゆくのです.


② クラスで一番で先生のお気に入りのアニャンは医者が来ると言うだけで大騒ぎを始めます.


(担任の先生)「皆さん,今朝はお医者さんがいらっしゃって・・・」

先生は話を続けられなかった.アニャンが飛び上がったからだ.

アニャンが叫んだ.「お医者さん?お医者さんのところへ行くなんて嫌だ!お医者さんのとこなんて行かないぞ!断固抗議だ!それに僕は病気だから,お医者さんのとこなんて行かないんだ!」(p.84)


 そこまで嫌がりますかね.仮病を使ってお医者さんを拒否するなんて・・・シャレてます.


③ それで担任の先生はアニャンを説得しようと,地理を0点にするわよとまずは脅し.次にレントゲン車への移動を渋るアニャンに,「算数の時間」に当ててあげることを約束.まさに飴と鞭.アニャンは「分数問題?」とここぞとばかりに権利要求.先生,折れて了承.交渉成立.ようやく宥めたのも束の間,移動途中ですれ違った上級生に脅されて怖くなったアニャンは地面に転がり,病気に逆戻り.ブイヨンさんが保健室に連れてゆきます.


④ 校長先生は知っている.お医者さんは無知.


 校長先生は白いボードを手にしたお医者さんの一人と話をしていた.

「この子らです.お話した子らですよ」と校長先生.

「大〜丈夫ですって.校長先生.我々,慣れてますから.我々にかかれば,あの子らだって真っ直ぐ歩くというものです.万事,何事もなく済みますよ.」とお医者さん.(p.87)


 あ〜あ,言っちゃいました.このような自信を見せる大人は失敗を運命づけられているのです,『プチ・ニコラ』では.


 ここでイラストを見ましょう.左の校門の正面でメガネを飛ばして抵抗しているのはアニャンでしょう.お医者さんは怒っている様子です.あれっ?でもアニャンをトラックまで連れてきたのはブイヨンさんじゃなかったかな?ま,文とイラストの食い違いはいつものことなんで,無視しときましょう.列の7番目に並んでいるのはアルセスト.何か食べてます.それにしても,このトラックの絵,超テキトーですよね.どう見ても立体のようには見えません.でも今日の主役は題名の通り,「お医者さんたち」ですから.





⑤ まずはアニャンから.お医者さんがアニャンの腕を掴むとアニャンは離せ!と叫びながら蹴りを連発.それでもレントゲン車に連れ込まれて・・・


それでお医者さんはアニャンを連れてトラックに入っていったんだ.それでもまだ叫び声はやまず,そのうち,でっかい声が聞こえた.「動くな!いつまで足をバタつかせてるんなら,病院に連れてくぞ!」(p.87)


 これでアニャン退場です.


⑥ ニコラたちが大人しくお医者さんの指示に従うはずもありません.校長先生の言った通り.


「最初の5人,前に来て!兵隊さんのように整列してな.」

でも誰も動かなかったんだ.それでお医者さんが指さして,

「君と君と君と君と君だ.」お医者さんが言った.

「なんで僕らなの?あいつじゃないの?」とアルセストを指さしてジョフロワが言った.

「そうだそうだ!」リュフュスとクロテールとメクサンと僕が言った.

これを聞いたアルセストは「お医者さんはね,お前とお前とお前とお前って言ったんだぜ.僕じゃないんだよ.だから,お前が行かなきゃな.それにお前とお前とお前とお前だ.僕じゃない!」と言った.

「ああ,そうかい?お前が行かないってんなら,奴も奴も奴も奴も俺もいかないぜ!」とジョフロワが返事をした.

「いつまでやってんだ!お前ら5人だ.早く乗りなさい.」とお医者さんが怒鳴った.(p.88)


「君」だか,「僕」だか,「奴」だか,人称が飛び交っています.否が応でも臨場感が高まる場面です.


⑦ ニコラたちは物珍しさにトラックに登ったり降りたり.もう秩序どころじゃありません.


ジョフロワ,クロテール,メクサンはトラックから降りるので後ろに行ったんだけど,それで乗ってくる奴らとゴッタゴタになっちゃったんだ.(p.89)


 リュフュスは1周してまた乗ろうとするし,アルセストはリュフュスになりすまして,レントゲン受けたことにしちゃうし,虫垂炎はとったからもうレントゲンの必要はないって説明し始めるし.

 いよいよ時間切れで,運転手さんが痺れを切らし,お医者さんたちもアルセストは欠席と思い込んで,諦めて帰ります.

 ところがアルセストの話を聞いていたお医者さんは取り残され,代わりにジョフロワはトラックに取り残され・・・

 こんな風に収拾がつかなくなるなんて・・・やっぱり『プチ・ニコラ』です.





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