« Maixent, le magicien », t.IV, pp.57-63.
フランス語で「魔法,魔術,マジック,手品」はmagieで,女性名詞.それで「魔法使い,マジシャン,魔術師,手品師」はmagicien.これらの訳語はわれわれ(=大人)には,ほぼ同義なのですが,どうやら子どもたちにとってはそうではなさそうです.今回はニコラのクラスメートであるメクサンが「魔術師」になるというお話.もちろん,魔術キット(boîte de magie)を手に入れたから手品を見せるよという意味で「手品師」なんですが,最後には本物の「魔術師」になってしまうという驚愕のお話です.
イラストは3枚.今回も冒頭の装飾文字はカウントしないことにしましょう((25)からの抜粋を利用しています).
家に一度も友だちを招待したことのないメクサンから珍しくお声がかかります.でも今まで誰も呼ばなかったのは呼びたくなかったからじゃなくて,どうやらメクサンのママンが物を大切にする人らしいからなのです.でも今回はメクサンが「船乗り」のおじさんから手品道具の箱をプレゼントしてもらったのでお披露目のためにも,お母さんは仕方なく同意したようです.
誰も見てくれる人がいなくちゃ,手品したって面白くないもん.だからメクサンのママンは僕らを呼んでいいって許してくれたんだ.(p.57)
この辺り,「旅行するのは人に自慢話をするため・・・」と350年以上前に書いたパスカルを想わせます.そうなんですよ,手品や旅行が好きでも,それを見てもらったり,旅先の話を聞いてもらう人がいないと,やりがいがないしつまらないはずなのです.旅行行ったら写真を撮るのも同じで,自分で思い出したり記憶しておくためと思っているかもしれませんが,それを人に見せたり,人と話したりするでしょう?きっと人の性(サガ)なのです.
お話に戻ると,メクサンが手品を披露しようとするたびに,チャチャが入ります.まずはサイコロの手品です.メクサンはサイコロを取り出し言います.
「このサイコロ,バカでかいという以外は何の変哲もないサイコロで・・・」(p.58)と言いかけたところで,「お金持ちのパパがいて,何でも欲しいものは買ってくれる」ジョフロワがツッコミます.「それ空っぽで中にもう一つサイコロが入っててさ・・・」.嫌なやつです.どうやらジョフロワは以前に「綴字のテストで,クラスで12番を取ったときに」(p.58)パパから同じような手品キットを買ってもらっていたようです.
(イラストの中のセリフ)「それなら知ってるよ.教えてやるよ.」(p.58)
この時の会話がシュールです.
リュフュスが聞いた.「それじゃ,仕掛け(un truc)があるんだな?」
「いいえお客さま,仕掛けなんてありませんって!」メクサンが答えた.「クソッタレな嘘つきジョフロワがいるだけさ.」
「絶対に空っぽだね,そのサイコロ.クソッタレ嘘つきだと!もう一度言ってみろ!ビンタしてやる!」ジョフロワが返した.
「仕掛け」という語はtruc.「仕掛け,カラクリ,トリック」などのほかに,ぱっと言葉が思いつかない時にいう「あれ」の意味もあります.(「あの,あれだよあれ」みたいな)だから,ここでリュフュスは「仕掛けがある」のか聞くと同時に,「トリックがあるんだな?」,「何かわかんないものがあるんだな?」と問い詰めているともいえます.
ところがフランス語で読むと,「空っぽ」のサイコロですからジョフロワの言う通り中身は何も「ない」.ところが仕掛けは「ある」.ところがメクサンはトリックなんて「ない」,魔術なんだからと主張する.実際,あるのかないのかどちらなんでしょう・・・.
ここで怒鳴り合いを聞きつけメクサンのママンが心配して様子を見に来ます.ついでに壊されないように花瓶も移動.次にニコラとリュフュスが手品を要求,ジョフロワが解説,怒りのメクサン.ここでまたもやママン登場.今度はピアノの上に置いてあった小さな像を移動します.
サイコロに続いて,空の鍋を使ったマジックとなります.手品を始める前にまたも一悶着.ここで再三ママンが入ってきて今度はランプを移動.
ここには,ママンを除いて9人もいます!前話(59)に引き続き,どうやら名前の出てこない,ニコラの「あそび友だち」(copains)が結構いるようです.
さらに怒鳴り合いは続き,鍋のトリックは一向に始まりません.ここでママンが四度目の登場.買い物に出かけると告げつつ,心配でなりません.「箪笥の上の振り子時計には気をつけるのよ.」
それでメクサンのママンはもう一度僕らを見回して,天井に目をやり,(大丈夫かしらと)首を横にふりふり出ていった.(p.61)
ママン,気が気ではありません.もう少し子どもたちを信用しましょうよ.って無理ですかね.
最後に白いボールを消すマジック.始める前から,「それってトリックなのか?」と当たり前のことを聞くリュフュスに,「当たり前だろ,ボールを隠してポケットにしまうんだよ」とやはりタネ明かししてしまうジョフロワ.手品を理解しないウードに,本当に消すんだと主張し続けるメクサン.ついにメクサンが切れて,お前らなんて友だちじゃないと追い出そうとすると,それに怒ったジョフロワが,ボールを消すのは「本当の魔術師(un vrai magicien)じゃなくっちゃ.ろくでなしじゃなくってな.」と焚きつけます.
(イラストの中のセリフ)「あの鍋はそこが二重になっててな.」
したり顔・訳知り顔・ドヤ顔のジョフロワとイラつくメクサン.
それでメクサンは怒り狂って,一発食らわせてやるとジョフロワめがけて駆け出した.ジョフロワはムッとして,手品箱を地面に投げつけた.超怒っていたよ.それでメクサンとジョフロワは叩き合いを始めたんだ.僕らはやんややんやと大騒ぎ.そこへメクサンのママンが居間に入ってきた.ちっとも嬉しそうじゃなかったよ.(p.62)
そりゃそうですね.それでみんな追い出されて帰ることに.KYなニコラだけは,相変わらず状況が把握できていません.
それでみんな帰ったんだ.僕はがっかりしちゃったよ.すっごく楽しい午後だったけどね.だってさ,メクサンの手品が見たかったんだもん.(p.62)
さすがニコラ.
最後にクロテールがコメントをつけました.
「僕はね,リュフュスの言う通りだと思うんだ.メクサンのやつはテレビに出てくるような本物の魔術師じゃないね,やつは,ありゃ単なるトリックだね.」(p.63)
そうか,ニコラたちはテレビの「魔術師」は「本物の魔術」を使うと信じ込んでいたのです.「トリック=仕掛け」じゃなくて.彼らが「魔術」と「手品」を区別しているのは,もちろん彼らが未だ小さいから無邪気に信じているのだろうとも考えられるのですが,それではジョフロワはどうなのでしょうか.ジョフロワもテレビの魔術は信じており,仕掛けを知っている手品をバカにしているのでしょうか.
ところが翌日,メクサンはニコラたちに対してまだまだ怒っていたようです.なぜなら,
なぜって,メクサンが魔術キット(boîte de magie)を地面から拾ったら,白いボールが消えて無くなっていたからなんだ.(p.63)
ニコラたちのせいで,もらったばかりの手品道具を失くしたと言って怒っているのですけど,それでもメクサンは念願かなってボールを消して「本物の魔術師」になれたんだから,もう誰にも「手品師」扱いされず,怒ることなさそうなんですが.
そしてこれが題名の由来です.「魔術師メクサン」.「手品師」なんかじゃないと言うわけです.
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