« Crépin a des visites », t.III, pp.142-149.
フランス語のvisiteという語には「訪問,来訪,見学」などの意味があります.今回の「前書き」は臨海学校の校長先生であるラトーさんからクレパンの両親に宛てた手紙の抜粋でしたから,クレパンに「訪問」があるとすれば,両親が会いに来たのだろうと思いました.それにしても,題名のフランス語ではdes visitesと,不定冠詞で複数形が用いられています.avoir une visite「訪問がある」,avoir la visite「[両親の]訪問がある」では???と一瞬考えましたが,visiteには人,すなわち「訪問者」を表す用法もあるので,「クレパンに複数の訪問客がある(あった)」という意味となります.でも,お話を読めば,やっぱりご両親なので,2人だけなんですけどね.
ラトーさんの手紙を要約と解釈をすると,クレパンはいっぱしの大人気取りでリーダー面するし,とにかく乱暴でしきりたがり,すっごく押しが強いので,仲間たちは,その押しの強さに感心している(皮肉)と言いたいようなのですが,ご両親にそんなストレートには書けません.表現を和らげ,オブラートに包んで,(実際には手を焼いているのに)褒めるような言い方を選び伝える,まことに体面を取り繕った「大人の」慇懃な文章のお手本のようです.
ちょっと面白いので裏を読んでみましょうか.
「 お父様,お母様,
クレパン君は大変元気にしております
→元気すぎて手を焼いてるよ.(「大変」が肝)
私どもとしましてはクレパン君に大変満足していると喜んでお伝えします.
→満足を通り越して迷惑なほどだよ.(やはり「大変」が肝)
お子様はここでの生活に完全に馴染まれ,
→この子は合宿を自分の家と勘違いしてるだろ!
お友達とも大変うまくやっております.
→みんなを従えてしまっている.(「大変」がやはり肝」)
クレパン君は時折のことですが,おそらくほんの少しだけ「怖いもの知らず」を演ずる傾向があります.どうぞ,このような物言いにはご容赦ください.
→クレパンは時折といわず,いっつも「手に負えないならず者」なんだよ!(「時折,おそらく,ほんの少しだけ」は奥歯に物の詰まったような言い方.jouer au « dur »は文字通りには「猛者(与太者,きかん坊)のふりをする」)
友だちには大人として,そしてリーダーとして認められたいのです.
→俺は大人で(お前らは子どもだ),(だから)俺様がリーダーなんだぞと認めさせたがる.
クレパン君は自主性という語を大変推し進めた意味で活発なお子様で,
→自主性をさらにさらに推し進めた結果,主導権を握ろうと乱暴を働き,(また「大変」という強調です)
小さな仲間たちに大変強烈な影響力を持っています.
→同じくらいの歳のまだ小さな仲間たちに,強烈に支配しようとしています.(相変わらず「大変」)
お仲間たちは無意識のうちに,クレパン君の平衡感覚に感心する次第です.
→周りの子どもは,口にこそ出さないが心の底で,いつも一定して偉そうにしているその態度に,すげーなぁと感心しています.(あいつ,いっつもそうなんだよなぁ・・・)
お近くまでお越しの際には,是非ともお目にかかれれば幸いに存じます.
→こっちに来るなら,絶対に顔を出してください.(つまり呼び出しです)」(p.142)
→後のように読むと,クレパンはいわばジャイアンのような子でガキ大将.ご両親は近くまで来たどころか(「私たちはちょっと立ち寄っただけですから」(p.144),呼び出しを受けたのではないかと疑ってしまいます.だって,「予定通り今晩中に目的地につきたければ,すぐにでも出発しないと」(p.149)と,急いで立ち去る前に言った発言を字義通りに受け取ると,近くどころかどうやら「今晩中に」遠くまで行かねばならないようなのです.到着先はおそらく「ホテル・ブラヴァ」(p.145).ヴァカンス中でしょうか.この発言をしたのが「昼食」のすぐ後であるのもポイントです.よほど遠くから「車」で来ているのでしょうね.
冒頭の校長先生の呼び出しがあまりに面白く上手く書けているので忘れかけていましたが,これからが本文です.ま,クレパンの両親の訪問があった,だけなんですけどね.
1枚目は3枚目からの抜粋,2枚目,4枚目,6枚目は5枚目からの抜粋ですから,実質イラストは2枚のみです.
ある日,ニコラたちが昼食の席に着くと,ラトーさんがクレパンの両親を連れて食堂に入ってきます.上のイラストは,クレパンが友だちとレストゥフ君を紹介した場面でしょうか.レストゥフ君,やっぱり顔色がすぐれません.夜もよく眠れない感じ?
それはともかく,昼食にクレパンの両親も加わることになりました.
それで2枚目(5枚目).右端がクレパンの両親,一番手前は会計係のジュヌーさん.ラトーさんも同じテーブルのはずですが,姿は見えません.両親の目線(睨みをきかせている感じ?)を追うと,その先にはこれだけのカオスの中,一人大人しく食事をしている子どもがいます.クレパン君でしょうね,おそらく.背を向けていますが,両親の方に目も向いていますし.食事中,お母さんに色々注意されて,クレパン君,かなり気にくわない様子です.絵ではわかりませんが.
それにしても,画家サンぺは子どもたちが遊んでいる様子,それも複数入り乱れてごちゃごちゃふざけている様子を絵にするのが好きなようです.細かく見てゆくと,本当によく観察していることがわかります.食べ物は投げるはこぼすはひっくり返すは.水をかけあいじゃれあいケンカをする.ありとあらゆる悪ふざけが事細かに描かれています.そのうち,昼寝をするしないで言い争いが始まり・・・すっかりすねて駄々を捏ねたクレパンを宥めて両親は早々に帰路に着きます.クレパンのママンによると,「親から離れていると,子どもはほんの少しだけ神経質になる」のだそうです.親の欲目???
結局全員がお昼寝をすることになるのですが,ここでベルタンがクレパンに余計な一言を言ってしまったがために,全員がケンカをする羽目に・・・.ケンカの場面のイラストはありませんが,上の2枚目からどんな様子か想像がつこうというものです.
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