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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(50)

更新日:2021年6月9日

« La soupe de poisson », t.III, pp.134-141.

スープ・ド・ポワソンは一般名詞で,魚から出汁をとっていれば何でも「魚のスープ」となってしまいそうですが,フランスで一度でも食べたことのある人なら,ブイヤベースやカスレ,シュークルートのような,フランス料理の独特な一品として想い浮かべるのではないでしょうか.魚のエキスが凝縮され,ドロッとして濃厚で,癖はあるけどやめられない,あの絶品料理です.でも,味も定義も定まっているわけではなさそうで,やっぱり魚を使っていればみんなスープ・ド・ポワソンなんでしょうね,フランスでは.

 「前書き」では,いつもニコラたちに振り回されひどい目にばかりあっているジェラール・レストゥーフ班長さんの甘美な夢が出てきます.「釣りには間違いなくイライラを和らげる鎮静効果がある.」雑誌を読んでいて,そんな文章を目にした班長さんはその夜,夢を見ます.穏やかな波にゆらゆら揺れ動く12の浮き,注意深く監視している自分,言葉もなく微動だにしない12人のちびっ子たち・・・さあ,これはレストゥーフ君の希求か願望か,はたまた正夢なのか・・・

 「前書き」についた魚とり網をもった泥だらけの少年(1枚目)は本文に関係なく,


 題字の上の釣竿を持って歩く少年(2枚目と3枚目は同じもの)もほとんど本文に関係なく,


 3枚目(数としては4枚目)からがいよいよ本番なのですが,文に沿って理解するなら,次の4枚目(5枚目)が先でしょうか.ちなみに数えで6枚目は4枚目(5枚目)から抜粋して反転させたおじさんの図ですから,本話にはイラストは実質4枚となります.



 ニコラたちのわんぱくぶりに翻弄され,きっと毎晩悪夢にうなされているはずのレストゥフ君.たまたま目にした雑誌の一文に「鎮静効果」があったらしく,珍しくぐっすり,安らかな眠りを得られたようです.それで翌日は他の班から離れて,ニコラの班の独自行動を思い立ってしまいました.果たして正夢となるやいなや.

 釣りに行くぞ!の号令一発,ニコラたちは釣竿と餌を手に海釣りに出かけます.でもどこへ行っても騒ぎを起こすでしょ?いつものことです.というわけで4枚目はワイワイガヤガヤ,子どもたちの集団が近づいてくるのを見て目を丸くしたおじさん.少しずつ大きくなってくる騒音に,魚も逃げるし,落ち着いて釣りもできないしというので,おじさん,おそらく早々に移動した・はず.文章にはそんな説明はないのですが,次のイラストは雄弁です.


 到着早々,ニコラたちに大声で注意点を叫んでいたレストゥーフ君に,おじさんは一喝.


 「まだ終わらないのか.」とでぶっちょのおじさんが言った.

 「何ですか?」 と班長さんはびっくりして聞いたんだ.

 「ケナガイタチのように叫ぶのはまだ終わらないかと聞いてるんだ!そんなにがなりたててリャ,お前さんの声にクジラだって震え上がるってもんだ.」(p.136)


 「ケナガイタチのように叫ぶ」(« hurler(crier) comme un putois »)というのは,「大声で叫ぶ,激しく抗議する」という慣用句ですから,実際に毛が黒っぽくてすっごく臭い液体を放出するというケナガイタチは実際には出てきませんし関係ありません.ま,レストゥフ君はそのくらいバカでかい声でクドクド注意を与えていたんでしょう.そのくらいしっかり注意しないといつもいうことを聞かないというわけで.

 それで出鼻を挫かれてしまうのですが(もちろん,これも慣用句で「出鼻」が出てくるわけではありません),そんな大人のやりとりなどどこ吹く風で,早速「この辺にはクジラが出るの?」とベルタン君.相変わらずパパ,ママンの元に帰りたいと泣き出すポーラン君.去年はこーーーんなでっかい魚を釣ったぜと自慢(ホラ)話をするアタナーズ君に,嘘つきやがれとケンカをしかけるベルタン君.さぁ,いつも通り,収拾がつかなくなってきました.

 ポーランは虫が怖くて餌をつけられないし,アタナーズとベルタンは釣り糸を絡ませ,ガルベールとカリクストは餌用の虫のレースを始めるし,「しっかり浮きを見張るんだ!」という班長のいうことなど誰も聞いてません.魚がかかった竿ごと海に落としてしまったポーラン,それを拾おうと危険な岩間に降りる班長,班長を助けようとして転んでしまい班長に助けられたクレパン,ニコラが釣った魚をとろうと,針で指を怪我した班長,「針で刺しちゃうんじゃないかなぁと思っていたんだよ.」と他人事のように冷静に観察しているニコラ・・・「釣りには間違いなく鎮静効果が・・・」ありましたか,レストゥフ班長さん?

 結局ガルベールとニコラだけが魚を釣りあげ,晩のおかずの「スープ・ド・ポワソン」(la soupe de poisson)を提供したのでした.


 夕食後,僕は料理長さんに聞いたんだよ.どうしてスープに入っていた魚(ポワソン)(les poissons de soupe)はあんなにでっかくて,あんなにたくさんだったのかって.そしたら調理長さんは大笑いして,魚ってヤツは料理すると膨れ上がるのさだって.料理長さんはすっごくいい人なんだ(chouette).ジャム入りタルトをくれたんだ.」(p.141)


 ニコラお気に入りの語chouetteが出ました.料理長さんのことがよほど好きなんでしょう.





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