top of page
検索
執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(49)

更新日:2022年8月19日

« Jeu de nuit », t.III, pp.126-133.

 「夜遊び」,ん?と思いきや,臨海学校の話の続きですから,もちろん,「真夜中のゲーム」と訳さねばなりません.小学生だし.

 相変わらず,第3巻に特有のお話の前の「前書き」が置かれています.前話の前書きがニコラからパパとママンに宛てた手紙の抜粋だったのに対し,今度はパパとママンがニコラに出した手紙の抜粋です.子ども一人で臨海学校に行かせた両親らしく,いい子にするのよとか,聞き分けよくとか,先生のいうことは絶対よとか,アルアル文言はさておき,ちゃんと前回の手紙も読んだことが仄めかされています.曰く,「算数の問題はね,パパには答えはわかっていたんだけど,お前が自分で見つけて欲しかったんだよ,だって.」何とも泣かせる親心じゃないですか.小学生の算数で,パパには難しくなかったでしょうからね!

 さてイラスト.今回は4枚ついていますが,最初2枚は3枚目と4枚目の部分ですから,実質2枚です.それも今回は白黒のみ,というか,『プチ・ニコラ』は2009年に刊行された3冊目の未刊行集と2017年にまとめられた初期マンガ集以外は全て2色刷りですから,いつも白黒なんですが,今回は「夜」のお話ですから,暗くて何も見えない状態が表現されているのです.読者に,「今は夜ですよ〜」と言わずに,真っ暗な夜であることを理解してもらうには(そもそも初めから白黒だし)難しそうなのですが,見た目一発,即座に真夜中であることが分かるのです.すごい!


 まるで木版画のように黒の部分はベタっとしています.人影もベタっ,小屋もベタっ.暗闇を子どもたちが右往左往しています.子どもたちの頭の上の短い横線,そして子どもたちの跳ね上がった腕と脚で,右へ左へと無秩序に動き回っている様子が手にとるようにわかります.それだけですと,横の動きだけのようですが,小屋に入る子どものシルエットで,縦の動き,つまり奥行きが出ています.この時には頭上の孤線はありませんね.私は最初にこの絵を見た時,それこそ木の木目が生かされた木版画のような印象を受けたのですが,これは「真夜中のゲーム」が始まってしばらくしてから降り出した雨のようです.それでなおさら子どもたちが大慌てで小屋に戻ろうとしているということでしょう.でも暗くて方向がわからずパニック状態なのかもしれません.上からは雨(縦),右往左往する子どもたち(横).真夜中で真っ暗な周囲.聞こえてくるのは子どもたちの叫び声と,逃げまとう足音.これらの動きと状況が本当に一眼で分かるなんて,ほんとうにすごい絵です.

 2枚目も同じ原理で切り絵風の黒のベタ塗り.


 『プチ・ニコ』にはお馴染みのゴタゴタした子どもたちの様子です.ケンカをしている子どもたち,指差してそれを楽しんでいる子供達,注意する大人.いつものイラストをベタ塗りにして,輪郭だけ取り出したような絵ですが,しっかりと状況が理解できます.ゴタゴタ感もいつも通り.

 お話は,謎々をもとに,旗を手にした会計係のジュヌーさんを探せ!というものでした.企画は面白かったのですが,あたりは真っ暗ですから,当然のことながら,各班入り乱れて収拾がつきません.


「ハイ,静かに!班長はちゃんと指示を出して.班をまとめてからゲームを開始するんだ!」

 それがちょっと大変なお仕事だったんだ.だってあたりは真っ暗だったから,みんなちょっとずつ入り混じっていた.僕らの班には「鷲」班のヤツが一人と,「勇者」班が二人いた.うちのポーランは「インディアン・スー族」班に紛れていたけど,すぐに見つかったよ.だって泣き方で分かるんだ.カリクストは「罠をはる猟師」班に偵察に行ってた.あいつらは班長を探していたんだ.面白かったよ.そこへ急に激しい雨が降り出した(p.133).


 突然の雨でゲーム終了.結局誰もジュヌーさんを見つけられませんでした.誰も?いえ,近くの農家の人が見つけてくれたんです.旗を持って森に隠れていたところ雨に降られてずぶ濡れで帰ろうとして森で迷子になって溝に落ちて水浸しになって叫んでいたら犬に吠えられ,おかげで農家の人が駆けつけてくれたというわけです.ついてないんだか,ついてるんだか.

 それにしても,第一発見者の農家の人は賞金のチョコレートを独り占めしたんでしょうかね?





閲覧数:3回0件のコメント

Comments


bottom of page