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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(47)

更新日:2021年3月30日

« La pointe des Bourrasques », t.III, pp.110-117.

「ブラスク岬」が題名ですが,「岬」(pointe)は「先端,尖った先」を意味する語で,「ブラスク」は固有名詞ですが,普通名詞では「突風」の意味ですから,よほど風の強い,崖のある場所なんでしょう.今回は臨海学校の責任者(校長先生でもいいかも?)であるラトーさんの提案で散策に出かけることになるのですが,目的地の先端どころか,逆風に見舞われ結局は元の出発点に戻ってお弁当を食べて敢えなく撃沈.突風や大人たちの思惑なんて嵐のようなニコラたちにしてみれば何でもありません.

 今回は5箇所にイラストが掲載されていますが,すべて3枚目の横長の大判からの抜粋ですから,1枚のみとなります.少し残念.でも,このイラストがめっぽう面白い.


  ラトーさんには大好きなものが2つあるそうです.それは「子ども」と「森の散策」.というわけで,臨海学校では毎年,ラトーさんの野心を満たすべく,お弁当を持ち,歩いて森を抜けてブラスク岬へ遠出が行われるようです.今年もラトーさんは夕食後に計画を宣言しようとうずうずしています.出発は朝6時!隣人の迷惑も何のその.お弁当配布にまつわる何やかやもクリアーして,ケンカを交えつつ,大声で歌を歌いながら森に向かいます.


「僕たちはキャンプ場を出発した.先頭はラトーさん,あとは班長さんとグループごとに整列し,みんなラトーさんの後ろについていったんだ.本物の行進みたいだったよ.」(p.114)


 このように書かれていますから,イラスト(↑)に羅針盤を想い浮かべているのは各班の班長さんたちでラトーさんではありません.相変わらずうじゃうじゃしてますね.みんな元気よく手を前後に振って歩いていますし,♪が散りばめられているので,よく見ないとわからないかもしれませんが,最後尾の列では,真ん中あたりの子どもが殴り合いをしています.でも,列は乱れていませんし,実にリズミカルな「行進」と言えるでしょう.でもまだ,森には入っていませんから,また後ほど.


「それから僕らは道を外れて,野原を横切ったんだ.でも牛が3頭いたものだから,みんなあんまり行きたがらなかったんだ.」(p.115)


 さていよいよ,森に入ると,何人か怖くなって泣いたり喚いたり.そこへラトーさんが来て,「大人の男らしく」振る舞うように諭します.森なんて怖くない,だって迷いそうになっても,「道を見つける方法はすごくたくさんあるんだからね.」(p.116)と.「まずは方位磁石があるし,太陽だって星だって木に生えた苔だって道しるべになるんだ.それに僕は去年行ったから道はわかっているし,さぁ笑うのはここまで*!前し〜ん,進め!」(p.116)

*assez ri comme çaという表現で私は[vous avez] assez ri comme çaと理解しましたが,やや破格な用法です.

 それでイラスト(↑)では班長さんたちみんなが方位針を想い浮かべているのですね.それでこのお話は他ならぬ『プチ・ニコラ』ですから,誰か,特に大人の発言はすべて裏切られ,裏目に出るようになっているのです.いつも通り.

 ニコラたちは森の中で道に迷います.いや,道に迷っているのはラトーさんと班長,大人たちです.ニコラたちは楽しそうにケンカをしたり,歌を歌ったり.さぁ,そのうち,方位針は効かなくなってしまいます(森の中では機能しないのは常識).森で,木が無数に生え茂っていますから太陽も星も見えませんし,暗いので「木に生えた苔」も見えっこありません(ニコラはすでに森の入り口で「読者の君らだって今までに見たことがないほど,すっごくたくさんの木が生えていて,森って本当にすごいんだ.葉っぱもたくさんあるから,空もあかりも全然見えないし,道だって見当たらないんだ.」(p.115)と指摘していたんですよ,まったく・・・).去年行ったからといっても,1年の間に変わったかもしれないので,道がわからなくなりました.

 それでイラスト(↑).大人は迷う.子どもは楽しそう.森には無数の木が生い茂り,道はあるのに,どうもくねくね曲がっていて.このくねくねを信じてたどると,左端奥から右の方へ,少し奥に向かい,また少し左へ.その後右に曲がってずーと伸びていますが,真ん中あたりで道が消えてしまいます.再び道が出てくるのはイラスト・右ページの真ん中あたりで,そこからさらに右へ,右端で一旦切れて,すぐに絵の中央を通り,左に180°曲がって右端まで来て手前に右カーブ.ようやく最後尾の子どもの背中が見えてきました.その子たちのさらに先には班長,別のグループの子どもたち,班長,また別のグループの子どもたちがいます.要するに,道だけ見ると,彼らはなんと!元の方向へ戻っているのです.

 子どもたちは道草ばかり.道を探して大人たちの目は血走ってイライラしています.もうどうにもなりません.


「クレパンが大笑いして,ベルタンとケンカを始めたんだけど,僕らの班長さんが叫ぶと二人ともピタッとケンカをやめたんだ.「いい加減にしろ!さもないとケツ叩きだ!」(p.116)


 「二人ともピタッとやめた」という表現で,どのくらい大声で,それも苛立った声で怒鳴ったのか想像がつくのですが,著者ゴシニーは,さらに次のように付け足して,緊張感を表現しています.


「僕らはみんなすっごくびっくりしたんだ.だって班長さんがこんなふうに怒鳴ったのなんて,聞いたことがなかったからね.」(p.116)


 うまい!さぞかしイライラしていたというわけですが,そのように直接書かなくても,子どもたちのリアクションで読者は状況が把握できるのです.

 それでニコラたちは元の道を戻り,再び野原を抜けて帰ります.雨にあたり,食事をし,歌を歌い,みんな楽しそう.大人以外は.

 でも懲りません.ラトーさんは「負けは認めない!明日か明後日,ブラスク岬へ行くぞ!」だそうです.でも条件つき.今度は「バスで・・・」なんですって.



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