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『プチ・ニコラ』(44)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 2021年2月20日
  • 読了時間: 4分

« Le départ », t.III, pp.80-91.

「出発」.何とも物悲しい題名です.題名だけ見て,すでに涙が溢れそうです.本文前の説明の上には前話(43)からとられた,喜んで走り回るニコラの姿が見えるとしても.

 ニコラがパパとママンと離れて過ごす初めてのヴァカンスです.いくら準備は順調とはいえ,メメからは17回も心配の電話がかかってきますし,ママンにも何か異変が起こっているようです.

 

 「一つだけおかしなことがありました.(そうか,この序文=説明はニコラ以外の誰かが観察しているのですね)ニコラのお母さんの目には始終何かが落ちてくるのです.それでお母さんは落ちてくるたびにチーンと鼻をかむのですが,どうにもおさまらない.」(p.80)


 私は一読,何のことだろうと思ってしまいましたが,本文を読み進め,とりわけイラストを見てゆくうちにようやく理解できました.何ともはや・・・.

 イラストは7枚配置されていますが,1枚目は前話(43)から,2枚目は6枚目から,3枚目は4枚目からの抜粋なので,純粋な新作?は4, 5, 6, 7枚目の計4枚です.

 いよいよ,コロニー・ド・ヴァカンスへ出発の日が来ました.でもパパとママンは「ちょっと寂しそう」.ママンはニコラの持ってゆくスーツケースの準備をしています.半シャツやらショートパンツやらバナナやら海老取り網やら電気機関車やら・・・.パパはニコラに出発を急かされますが,のらりくらりとかわしてなかなか出発したがりません.ニコラも気を使って「喉にすっごく大きなボールが詰まって」いるって言い出せません.三者三様,互いに想いを秘めているというわけです.

 ようやく3人は出発します.まずは忘れ物,それから駐車場探し,最後にスーツケースの置き忘れといつものように多難なニコラ一家.駅はごった返していました.こんな時に駅員さんに話しかけてはいけません.でもそれをするのがパパ.

 3人は人でいっぱいのホームを掻き分けかきわけ,ほぼ最後尾のY号車まで進んでゆきます.それで4枚目の大判イラスト.


 ホームに人がいっぱい.それどころか,電車も子どもたちでいっぱい.なだけではなくて,電車の扉もいっぱい.なぜこんなに混むのかといえば,イラストをみればすぐにわかります.もちろんヴァカンスの季節で,どこの家庭もニコラの家のように子どもを臨海学校に出すからなのでしょうが,それが親と子が離れる臨海学校だからという方が主な理由のようです.だって親は皆揃って指を立てて何か指示だししているでしょう?これから1ヶ月離れて暮らす子どもたちが心配で心配で仕方ない.それで文字通り,一々事細かに「ああしなさい,こうしなさい」と注意をするんですよね.子どもたちも立ち止まってそれを聞く.あるいは電車から窓越しにそれを聞く.というわけで,ホーム上の交通は滞ってしまうようです.海老取り網に傘を引っ掛けてしまったおじさんの声も聞こえないほど,ホームはガヤガヤ,騒然としています.駅員さんの顔が「真っ赤で,帽子が斜めに傾いている」のも頷けようというものです.



 5枚目には列車の扉のところでスーツケースの中身をぶちまけてしまった子も描かれています.それでも,お父さんたちは指を立てて,注意をやめません.よほど心配なのでしょうか.この2枚目の大判では半数のお父さんお母さんがハンカチを目にあてているようです.

 ニコラたちがようやくY号車にたどり着くと,ニコラの入る「ヤマネコの眼」班の受付けをしていました.ここで班と列車とホームを間違えたお母さんがいたのはご愛嬌.ニコラは無事,列車に乗ることができました.いよいよ出発.出発の合図の「ホイッスルの大きな音が聞こえます.子どもたちは「叫びながら」電車に乗り込み,そこら中で「おバカな子どもたちがホイッスルを吹き」,降りる人と乗る人が押し合いへし合い,「パパたちとママンたちが何やら叫び」ながら,依然,子どもたちに注意を促しています.「泣いているやつら」もいれば,「叱られているやつら」もいます.どうです?すごい騒音でしょう?それで「制服をきた駅員さんがホイッスルを鳴らしたのも聞こえなかったんだ.」(p.90)駅員さんのその時の顔つきといったら,「ヴァカンスから帰ってきたばかりみたいに,真っ黒な顔をしていたんだよ.」さっきは「真っ赤」だったので,今度は疲ればかりか,思いっきり吹いたので「真っ赤」を通り越して「真っ黒」になってしまったんでしょうね.お気の毒に.

 ニコラが窓の外を見ると,パパやママンやその他のパパやママンが「いってらっしゃい」とばかりにハンカチを振っています.


 やはり題名の通り,愁嘆場です.ニコラも「すっごく悲しかった」そうです.「それで少し泣きたくなっちゃったんだ」.でも泣きませんでした.「だってさ,ヴァカンスは笑って楽しむためにあるんだからね.きっとうまくいくよ」(p.91)だそうです.この切り替えの速さがニコラの優れたところ.スーツケースはどこかに置き忘れたようですが.

 最後のイラストは出発後.もうすでにワゴン車の中はいつもの学校の中と変わりません.


 だからもちろん,場所やクラスメートが変わっても,最愛のパパやママンがいなくても,「きっとうまくいく」に違いありません.ニコラがそう言うんですから.








 
 
 

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