« Il faut être raisonnable », t.III, pp.72-79.
本話には序文の上に1枚,題字の上に1枚,文中に4枚のイラストがついていますが,最初のものは(23)で既出,2枚目は3枚目からの抜粋,5枚目6枚目は2ページに跨っていて,通常なら2枚と数えられるのでしょうが,どうもお話からすると1枚のようですので,そのように扱うと,合計3枚となります(3枚目(=2枚目),4枚目,5-6枚目).
『プチ・ニコラ』は最初に雑誌に連載されており,連載中に単行本にまとめられていきました.ところが単行本にまとめるにあたり,連載の順序は無視して,それも全てのお話を収録したわけではありませんでした.それで後に(2004年以降)『未刊行集』が幾つも出版されるようになるわけです.
とまあ,こんな説明から始めたのも,本話を読んだ人は驚いたでしょう?と書くためです.驚いたでしょう?私は驚きました.なぜって,前話(42)がヴァカンスから帰ったニコラが退屈してパパやママンを困らせる話だったのに,本話はもう1年経っていて,またもやヴァカンスに入る直前のお話だからです.説明を2度読みしてしまいました.
さてそんなわけで,またもやいつものクラスメートたちに別れをつげ,さまざまな賞を受け取り((34)を見てください),いよいよ夏休みです.ところがニコラ家では待ちに待った夏休み!ではないようで,行先を聞いていないニコラは不安になり,パパとママンはどことなくその話題を避けている様子.我が国だったら,もしかして・・・離婚か家族崩壊か一家離散の危機?!なんて悲痛で深刻な面持ちの3人です.
毎年この時期には,行き先をめぐって恒例のパパとママンのヴァカンス論争があるのに,今年はそれがないのでニコラは不安でたまりません.学校では専属の砂浜で砂の城作り放題というジョフロワの話や,英語留学に出かけるアニャンの話や,パパの肉屋のお友だちのところでトリュフを食べまくる予定のアルセストの話,それから海へ行くとか山へ行くとかおばあちゃんの家とか飛び交っています.ニコラも「ヴァカンスではなんたって,行く前と行った後に友だちと話すのが一番好きなんだ」(p.74)というくらい,話をしたいのに,家に帰っても一向にヴァカンスの話になりません.そりゃ,不安になりますよね.
それでママンに聞くと,「パパが帰ってきたら」と言われるし,パパが帰ってきて聞くと,急に顔が深刻になって「家の中で話そう」なんて,思わせぶりな様子です.この二人,何考えているの?と読者が思ったところで,本話の3枚目と4枚目が教えてくれます.
「ママン,ぼくのママン!!!」 「パパー,パパどこにいるのー?!」
というわけで,吹き出しを見れば,二人の考えていることが手にとるようにわかります.どうやら二人は今年,ニコラをコロニー・ド・ヴァカンスに一人で行かせるという一大決心をしたようで,二人ともそれぞれ,つまりママンはママンがいなくて,パパはパパがいなくて,ニコラが寂しがって泣き叫ぶ姿を思い浮かべ,胸がつぶれる思いをしていたというわけです.それでそんなニコラを思うとついつい口は閉ざされ,ヴァカンスの話もとうとう,終業式まで話せなかったのです.ちなみにコロニー・ド・ヴァカンスというのは,夏の林間学校のようなものです.親から離れ,子供たちだけで自然の中で夏休みを過ごすというアレです.
そしてそんな二人の想いなどつゆ知らぬニコラは,これから二人から引き離されるとも知らず,無邪気にどこに行くのか,知りたがってせがむのです.何と,悲痛な別離の場面ではないですか!
なかなか言い出せなかった二人の口は重く,どちらが言い出すか言い争いになり,しまいにはとうとう遠回しに説得を始めます.
「ニコラや,お前はもう大きくて,聞き分けがあるな?」とパパが話だしたんだ.
「もちろんよね!」とママンが答えた.「もう大人ですもんね.」
「もう大人だ」って言われると,どうも嫌な感じがするんだよね.だっていつも,その後には嫌なことをさせられるからなんだ.
「そうだよな,大人だったら海に行きたがるもんだな!」とパパ.(p.76)
こんな具合に,何とかニコラの同意を受け付けたいパパとママンは周到に話をしてゆきます.それでもママンは(たぶん?)目に涙を浮かべながら,時折「やっぱりだめ,だめじゃないかと思うの.やめましょう,やっぱり.来年になれば・・・」なんて言い淀んでいます.まさに愁嘆場.ヨヨヨ・・・😭
それでもさすがはパパ!最後に決定的な一言を発します.
「ニコラ,パパとママンはヴァカンスには一緒には行かないんだ.お前一人で行くんだ.大人のようにな.」
「えー?!ひとり?一緒に行かないの,パパとママン?」
「ニコラ,聞き分けておくれ(・・・)」(pp.77-78)
それでどうなるかというと,2ページに跨る最後のイラスト.通常このような2ページのイラストには文が挟まれないので,2枚別々の絵かもしれませんが,まぁ,見てください.
これまでの愁嘆場はどこへやら,ニコラは嬉しそうに駆け回り,パパとママンはそんなニコラを悲しそうに見つめています.
「やっったーーーー!」とぼくは叫んだんだ.それで居間で踊っちゃったよ.だってさ,本当にすごそうだもん,コロニー・ド・ヴァカンスってのはさ!」(p.78)
これまでの二人の心配は何だったんでしょうね.それにしても,ニコラが寂しがって泣くんじゃないかと胸の潰れる思いで過ごしていたんですから,計画通りになったし心配がなくなったしニコラは喜んでいるし,良いことだらけのようですが.何か?でも,それにそんなに喜ばれると,自分たちの存在が急に軽いもののように思われてきて悲しいんでしょうね.デザートも喉を通らなかったそうです.
「デザートのタルトはすっごくおいしかった.パパもママンも食べなかったから何度もお代わりしちゃったよ.それにしてもおかしなことに,パパとママンはぼくのこと,目を大きく丸くして見ていたんだ.なんか,ちょっと怒っているみたいにも見えたね.」(p.78)
ニコラ,相変わらずのKYぶり.
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