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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(38)

« L'île des Embruns », t.III, pp.30-37.

 このお話にも序文が一つついています.その序文についた絵を含めて合計6枚の絵が挿入されていますが,1枚目はp.24のホテルのホールからの抜粋で,他も見開きの34-35ページの大判の絵からの抜粋のため,このお話に付されているのは実質大判1枚だけとなります.

 序文にはニコラたちが泊まっているホテルの部屋から見える「アンブラン島」のことが書かれています.これが今回のお話の題名「アンブラン島」への導入となっています.

 この序文,案外面白いかもしれません.まず「アンブラン島」というのは架空の島のようですが,「鉄仮面」伝説に因んだブルターニュ地方にある「ベル-イル-アン-メール」(la Belle-île-en-Mer)をモデルにしているようです.ニコラたちの部屋の浴室では,滑らないように注意しながら浴槽のふちに立つと,窓越しにこの「秘密の島」(la mystérieuse île des Embruns)がきれいに見えます.「観光協会が発行した案内によると」,「かの鉄仮面が投獄されていたかもしれない」ところとされているようです.この「投獄されていたかもしれない」(le Masque de Fer a failli être emprisonné)という表現にはfaillirという動詞が用いられています.これは「危うく〜する」「もう少しで〜する」という意味ですから,文字通りには「鉄仮面が投獄されている状態になりそうであった」となるので,実際に投獄されていたかどうかは定かではありません.続く,「鉄仮面が閉じ込められていたかもしれない独房」(le cachot qu'il aurait occupé)も同様に条件法過去という時制を用いて,過去の推測を表す表現で,そのまま直訳すると,「鉄仮面が入ったであろう独房」とされています.何とも「秘密」(mystérieux)の匂いのする島ではありませんか.そんな秘密を漂わせた観光名所なのですが,序文は「売店ではお土産が売ってるんだ」と何とも商魂たくましい記述で終わっています.

 ちなみに「観光協会」(Syndicat d'initiative)というのは今では「観光案内」(Office du tourisme)といいますから,こんな言葉にも少し時代が表れているのです.

 1枚しかありませんから,まずそれを見てみましょう.


 島へはホテルから船に乗って移動します.船の進行方向を眺めるニコラ.後ろにいるのはママンでしょうかね.船の背後には今出発したばかりの港が見えます.文章では船からでもニコラたちのホテルがはっきり見えたそうですから,林立する建物のどれかがホテルでしょう.目印は浴室に干した,ママンの赤い水着.残念ながらそこまでは見えません.船尾近くで歓談しているのは同乗したランテルノーさんと,ランテルノーさんをあまり好きではないパパ.でも歓談してる?その横にはベレー帽を被り腕を組んでいる風の船長さん.なぜか,目を大きく開き,わざわざグッと口を閉じている様子です.

 ヴァカンスに来ているために,パパは四六時中,からかったり喧嘩したりしている大の仲良し?の隣人ブレデュールさんと会えません.それで寂しいかと思いきや,旅行先では早速,ランテルノーさんを見つけて,相変わらずたきつけあっています.というより,パパが一方的にモヤモヤしているようですが,とにかくパパ-ブレデュールに負けるとも劣らないカップルができました.

 どうもパパは船に弱いらしいのですが,ランテルノーさんに弱みを見せるわけにはいきません.それで,どちらが先に「船酔い」(le mal de mer)するかなんて,相変わらずおバカな賭けをします.意地を張った二人は一所懸命,食べ物の話をして,相手を吐かせようとします.ランテルノーさんが海そっちのけでパパに「ヴァカンスに来る前に行ったレストランでの食事」の話をしたかと思えば,パパはさらに遡って「初聖体」の式の時(何十年前なんだか・・・)の食事の話をします.そのうち,さらに具体的になって,「生温かいひつじの脂がたっぷりかかった料理」だとか,「生牡蠣の熱いチョコレートがけ」を持ち出して,何とか相手に負けないようにがんばります.しまいには虚勢を張って,島に到着寸前に「冷製エスカロープかサンドウィッチ」でも食べようじゃないかと言い出す始末.さて,勝敗はいずれに?

 ここで実際にサンドウィッチを持ち出し,船長さんに許可を求めたところで試合終了.船長さんが船酔いしてしまったために,到着寸前に引き返すことになりました.それで目を向いていたのね,船長さん.二人の話を聞いても何とか我慢していたのに.百聞は一見にしかず.やっぱりパパたちのせいでオチがつくという,『プチ・ニコラ』のいつものオチにオチつくのです.


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