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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(34)

« La distribution des prix », t.II, pp.120-125.

「賞の授与」とそのまま訳すのもありでしょうが,どうやらフランスでは夏休み(夏のヴァカンス)の前に一年の締め括りとして「修了式」があり,そこで子どもたちの士気を高めようと,様々な「賞」を与えるようです.がんばったで賞とか,もういいで賞のような?!?

 例によって題字の上の1枚目の絵は他のお話に添えられていたものですので(p.44),これを除いて本話には計3枚の絵がついています.

 ニコラの「修了式」はもちろん,「すっごい修了式」(« une chouette distribution des prix »)でした.パパたちやママたち,校長先生に担任の先生・・・.きっと,『プチ・ニコラ』の登場人物総出演だったことでしょう.このお話にブイオンさんが登場しないのは残念でしたが.みんな,「青のスーツに,パパのネクタイのようにピカピカ光る綿の白シャツ」(日本だったら「紺のブレザーに,おニューのシャツ」といったところでしょうか)でめかしこみ,「髪にを整髪料でなでつけ,爪を切りそろえ耳も掃除して」います.ニコラはどうも,髪が「立って」いるようですが*.

*邦訳では「みんな,整髪油で髪の毛をきちんとなでつけ(ぼくは帽子をかぶっていたんだけど),耳も清潔にし,つめも切ってもらっていた.こう見ると,ぼくらも,捨てたもんじゃないよ.」となっています.原文は« On avait aussi les cheveux collés sur la tête — moi j'ai un épi — et puis les oreilles propres et les ongles coupés. On était terribles. »で,そのまま訳せば,「それに髪が頭に張り付いていて,ー僕は逆毛だー,それに耳は清潔,爪は斬られていた.僕らすっごかったんだ.」となります.épiと言う語に「帽子」の意味はないようです.おそらくは「なでつけた」(collés)が「紙などを[ノリなどをつけて]貼る」と言う意味の言葉なので,それに対して「貼りつけられていない」=「毛が立っていた」(「逆毛」(épi))となっているのだと思います.



 ところでニコラたちの関心は用意されている「賞」ではなく,式の後の「ヴァカンス」にあるようです.ニコラも何日も前から,「もうすぐヴァカンスなの?」とか,「最終日まで学校へいかなきゃだめ?」とか,質問責めでパパを困らせていたようでしたから.

 さて,表向き(?)一番大事な賞の授与ですが,もちろん重要な賞は「クラスで一番で先生のお気に入りの」アニャンが総なめ状態.2枚目の絵にはぜったいに持ちきれないだろうというほどの賞品の本が山積みされています.校長先生はにこやか,アニャンも誇らしげです.




 ウードは「体育賞」,アルセストは「皆勤賞」(prix d'assiduité),ジョフロワは「グッド・ファッション賞」(prix de bonne tenue),クロテールは「友だちで賞」(prix de camaraderie),ニコラは「雄弁賞」を受け取りました.これにはニコラのパパも大興奮!ただ,「雄弁」の「質」ではなく「量」に対してと言う受賞理由を聞いて少しガッカリしています.

 2枚目は誰なんでしょうね.ウードかなぁ.得意げに手をあげて,歓声に答えている様子です.




 担任の先生もたくさんの「賞」(prix)を受け取りますが,これはどちらかというと,日本語では「[父兄からの]お礼」とか「褒美」となるのでしょうか.でもニコラの語彙では,同じ「賞」という単語で表現されています.

 さて最後の3枚目も誰なんでしょう.何やら,客席の親たちに,拳を振り上げ一言申し上げているような.校長先生の顔もやや険しい.親たちも,心なしか,詫びるような顔つきですまなさそうに口をつぐんで,その子の方を見ています.でも,2枚目の子や,3枚目の子,いろいろな子がいて,反応もいろいろで.それだからこそ学校で.そうでなきゃいけません.


 式の後では,親同士の子ども自慢が始まったり,ジョフロワのパパがみんなに葉巻を配ったり,1年間の子どもたちの失敗話で盛り上がったり.ニコラはそのそれぞれに,いつものように冷静にツッコミを入れてゆきます.無垢な皮肉全開です.怒涛のような1日が終わり家に帰る途中,ニコラにはふと,1年間の想いがこみ上げてきます.


「家に帰りながら,僕考えたんだ.あぁ楽しかった.学校も終わったんだ.これで授業もないし宿題もないし罰もないし休み時間もないし,それで何ヶ月も友だちに会うこともないんだな,一緒にふざけたりもしないし,そしたらすっごくひとりぼっちなんだ・・・.」(p.125)


 「休み時間もないし」と思った瞬間から,長期の休みが楽しいことばかりではなく,当分は友だちと離ればなれになるという,悲しいことの方へとシフトしたようです.それで泣き出してしまうのです.パパには「どうにも理解できん」のですが,みなさんは思わずもらい涙したのではないでしょうか.

 話は以上ですが,ここで振り返って3枚目をもう一度見直してみると,この子は親に何やら抗議したのかもしれないと,ふと思いました.こじつけのような「〜賞」が発表されるたびに,大人は思わず笑ってしまうかもしれません.でも子どもたちにしてみれば,それぞれが納得のできる「賞」を「全員」がもらうのですから誇らしいわけです.大人の揶揄いに対して,その子は嬉しくて真剣そのもので,周りのクラスメートは下心なしにそんな彼を称えている.訳知り顔した大人の常識に対する,腕を振り上げての抗議とはとれないでしょうか.



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