« On a fait un test », t.II, pp.114-119.
題名にあるtestという単語は英語から借用された男性名詞で「テスト」.日本語でいう期末テストなど,いわゆる試験の場合には,examenの方がよく用いられるようで,手持ちの辞書(『ロワイヤル仏和中辞典』)でも,「1.(心)[知能・適性などの]テスト,2.[一般に]テスト,試験,検査,試金石,3.・・・」と出ていますが,学期末試験のような例文は出てきません.というわけで,ここでは「僕ら,テストをした」ではか〜なりの誤解が生じますので,「僕ら検査を受けたんだ」と訳さないといけないようです.
実写版映画第一作目を見た人は「身体検査」のシーンがあったのを覚えているのではないでしょうか.咳をしてみて,と言われたアルセストがお医者さんの顔にパン屑を飛ばしたり,インクのしみをみて想像したものを話すテスト(ロールシャッハ・テストですね)で,ジョフロワが永遠,お父さんの話をしたり,同じテストでニコラが見事な物語を想像(創造)したり,メガネを外したアニャンが引っ叩かれたり.あの場面の元ネタはもちろん,このお話です.ニコラたちのクラスでは,とにかく何でもいつでも,うまくいったためしがない.このお話でも,お医者さんたちはニコラたちに,ほとほと手を焼いてしまいます.文章版と映画版では多少の違いがありますが,本話を基にした映画版では,そんなお医者さんの困る様子,検査のカオスとゴタゴタ感が本当によく描かれていました.
さて,挿絵は5枚ありますが,題字の上の絵はまたもや既出の絵からの抜粋です(p.44).それで実質4枚.1枚目は服を脱いでケンカを始めた二人.これは本文からジョフロワとウードだということがわかります.
それにしても,これはお国柄なのでしょうか,歳のせいでしょうか,それとも,「この」時代だからなのでしょうか,服をすべて脱いで,スッポンポンで検査を受けるのですね.靴や靴下が椅子の下に散らばっていますし,この様子だと,両側の椅子の上の一番手前に広がっているのは下着(パンツ)のようです.確かに脱いだ順においてゆけば,パンツは一番最後になりますから.実に正確な描写です.
もうこの時点で,アニャンは泣き叫ぶわ,付き添いのお母さんたちは互いに張り合うわ,ウードに殴られたジョフロワは鼻血を出しているわ.それで,お医者さんが「ここは無料診察所どころか,野戦場か!」怒鳴るのもよくわかります.
先取りして4枚目の絵をみてください.
先頭の子が泣いていて,それもメガネをしているから,これがアニャン.ウードに殴られたジョフロワは鼻血をたらしています.なんと,痛々しい・・・
閑話休題.ホンのちょっとお話を戻ると,子どもたちが一斉に裸になったのをみたお母さんたちのリアクションって,一体どんな顔だったのでしょうか.わかる方,是非教えてください.
「僕らみんな,服を脱いだんだ.みんなの前でスッポンポンになったら,なんか変な感じになったんだ.ママンたちは,よそのママンたちをじろっとみてね,それからママンたちみんながふくれたような顔をしたんだ.まるで魚を買いにいった僕のママンが,お魚屋さんに『これ新鮮じゃないわね』という時の顔なんだよ.」(p.116)
「ママンたちは,よそのママンたちをじろっとみてね」は,原文では« Chaque maman regardait les copains des autres mamans »なので文字通り訳すと「それぞれのママンが,自分以外のママンたちの友だちを見回した」となります.これはもちろん,自分以外の母親にもla mèreという語を用いず,ママンといってしまうニコラの幼さが表れています.そして,「よそのお母さんがたのお仲間」,ずばり「お母さん同士」というところを,/ニコラー友だち/という図式に当てはめて,/ママンーママンの友だち/と言ったもので,このもってまわった表現にもやはり,子どもっぽさがうかがえます.こんな子ども言葉を書くことのできるゴシニーという作家に感心するばかりです.
さて2枚目は身長測定の行列.8番目に位置するのはアルセスト,後ろの方で力こぶを作っているのはニコラでしょう.それにしても,みんな裸でも全然エッチじゃありません.むしろ清々しいような.
3枚目は最初に思いついたことを絵にするという,お医者さんからのお題です.
ニコラは二段重ねのガトー・オ・ショコラ(チョコレート・ケーキ.ドイツではザッハトルテでしょうか?),アルセストはトゥールーズ名物のカスレを絵にします.「アルセストが僕にそう言ったんだ.そうでなきゃ,みただけじゃ誰もわからなかったもの.」(p.119) ウードとメクサンは「馬にまたがるカウボーイ」,ジョフロワは「お城とそれを取り巻くようにずらりと並んだたくさんの自動車」.ずばり「僕の家」.「先に言っといてくれなきゃ」描けないと言いだしたのはクロテールで,リュフュスの画題は「アニャンは先生のお気に入り」(« Agnan est un chouchou »).それをみたアニャンが泣き叫び,ウードはメクサンが真似したと怒り,二人はケンカになり,そこへジョフロワの執事のアルベールとママンたちが突入してきます.最後にお医者さんがぐったりと「診察台の端っこに腰を下ろし,にこりともしないで,何度も大きなため息をついて」,「拳銃の絵をたくさん」描き殴った気持ちもよくわかります.それに対して「このお医者さん,頭おかしいんだよ」ってのはあまりにも酷というものです.
ところで,そんなお医者さんの絵をどうしてニコラは見ることができたんでしょうかね?
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