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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(32)

更新日:2020年12月19日

« Le bras de Clotaire », t.II, pp.108-113.

まずは題名の上に1枚目.


 まずはこの絵があって「クロテールの腕」が題名ですから,この黒い服を着て右手に鞄を持ち,左腕を骨折して固定しているのが「クラスでビリ」が枕詞のクロテールだということがすぐにわかります.あらあら,かわいそうと思いきや,なぜかクロテールは顔をニンマリ,あまり悲しそうではありません.なぜでしょうか.

 このお話に挿入された絵を並べてみましょう.2枚目,3枚目,4枚目,これで全部です.


 先生に撫ぜられて満足気なクロテール.悦に入っています.


 授業中にふんぞりかえっているクロテール.嬉しそう.


 馬跳びでやすやすと友だちを飛び越えるクロテール.怖いものなし!


 全ての絵で黒い服を着て腕を怪我しているので,簡単にクロテールであることがわかります.

 さて,どのクロテールも嬉しそうに見えるとすれば,それはきっと,その他のクラスメートがみんな不満そうな顔つきをしているからかもしれません.1枚目はクロテールだけですから,2枚目では先生に特別扱いされているので,ニコラたちのクロテールを見る目はかなり厳しい.クロテールのすぐ右側の男の子は睨むでもなく,しかし斜め後ろのクロテールたちの様子に目をやり,口をへの字に曲げています.その前を歩く3人も眉間にしわを寄せてかなり険しい顔つきをしています.

 3枚目でクロテールの横に座っているのはジョアシャンです.「書き取り」(dictée)のために,カバンからノートを片手で取り出そうとしていたクロテールを見かねて,ジョアシャンがとってあげようとするのですが,クロテールは「頼んでねーよ」とはねつけます.それを見ていた先生が「いいのよいいのよ,クロテール,休んでなさいな」と聞き取りを免除しました.クロテールは「書き取りができないのは,さも残念と行った様子で,悲しそうな顔をした」ようです.いつもなら「クラスで一番ビリで」,罰ばかり受けているクロテールがね.「菊」(chrysanthème)とか,「双葉類」(dicotylédone)などという難しいつづりの語が出てきて,アニャンを除いてニコラたちは頭を抱えてしまいます.「難しい語が出てくるたびに僕がクロテールに目をやると,あいつはヘラヘラしてるんだ.」(p.110)この絵でも,得意気なアニャン,不満顔のジョアシャン以外は,考え込んだり必死になって書こうとして,皆真剣そのものの表情をしています.

 4枚目では怪我で片腕しか使えないとはいえ,そんなことは全く関係なく,軽々と馬跳びをしているクロテールです.クロテールが休み時間にいつものように校庭に行こうとし,先生は止めるのですが,なんやかんや理由をつけてクロテールは出ようとします.心配した先生はまずはクロテールを行かせ,その後でニコラたちに友だちを気遣うようにと注意をしていたため,ニコラたちは休み時間が短くなってしまいます.いつも楽しみにしている休み時間が奪われたのですから,もちろん,ニコラたちは不満たらたら.ようやく校庭へ出ると,なんとクロテールは,他所のクラスの連中と「馬跳び」(saute-mouton)をしているではありませんか!

 閑話休題.ちなみに日本語では馬跳びですが,フランス語では「羊跳び」.兵士が軍馬に乗る練習をしたことからついた名称のようですが,フランスでは羊を飛び越えるイメージなのでしょうか.この話に関係ないですが.

 というわけで,4枚目で嬉しそうに跳んでいるのはクロテールで,馬(羊?)を作るのにしゃがんでいるのは,休み時間に先に出てきていた他所のクラスの子どもたち,その様子を眺めているのが遅れて降りてきたニコラたちというわけです.先生はニコラたちに,クロテールに「気をつけてあげるのよ」とさとしていたのですが,それどころではありません.ひょいひょいと片手で軽やかに跳ぶクロテールを目にしたニコラたちの唖然とした表情を想像してみましょう.ここでニコラたちの様子は描かれていません.そうなのですが,読者はそんなニコラたちの驚き,妬み,怒りの眼差しを共有しています.つまり,読者はニコラたちと一緒に,楽しそうに遊ぶクロテールをみているのです.驚きを通り越して,ニコラたちには怒りがこみ上げてきています.家に帰ったニコラが言い放つ言葉に,パパは「目をまん丸にして」驚きますが,読者にはニコラの言い分が十分に理解できるのです.


「まったく不公平だよ!なんで僕の腕はぜんぜん折れないんだ!(p.113)


 ニコラはふてくされて,自分の部屋に上ってしまうのです.


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