« Les boy-scouts », t.II, pp.101-107.
「ボーイ・スカウト」という題名から,ニコラたちがボーイ・スカウトに参加する話かと一瞬想像しましたが,全く違いました.ちなみに「スカウト」(scout)というのは元々英語の単語で,「斥候(監視するためにさしむけられた兵),偵察兵」などを意味しますが,現代の日本語では「芸能界にスカウトする」のように「勧誘」の意味で用いられます.しかしながら,語源からすると軍隊の「偵察報告する人」だったわけで,今から100年ほど前に「ボーイ・スカウト」として,青少年をアウトドアとサバイバル技能を教育する運動を指すようになったそうです.何だか少し怖いような.
それはともかく,フランス語でもboy-scoutと英語のつづりがそのまま用いられるのですが,ouを唇を突き出し尖らせて「ウー」と発音するフランス語の発音を取り入れて,「ボーイ・スクット」と発音されます.
これもともかく,今回はニコラたちが「ボーイスカウト・フィギュアを先生に」プレゼントしようとするお話です.これは最新版日本語訳の題名なのですが,確かに「ボーイ・スカウト」だけではパッと見,誤解しかねないですからね(私のように・・・).
挿絵は大小1枚ずつの計2枚です.題名の上のニコラ・アニャン・ジョフロワの3人組はすでに「休み時間に僕ら,ケンカする」(本ブログ(25).原文,p.45)の一部を転用した絵なので,ここではカウントしません.1枚目は「ボーイ・スカウト」の人形(フィギュア)を両脇に抱えたクロテールです.
文章とスペースを考慮したレイアウトの問題なのでしょうが,これは時系列としては,次の大判2枚目の後にくるはずの絵です.
ニコラたちは,怒っていないときには「とってもやさしくて,とってもきれいな」担任の先生のために,お金を出し合って誕生日のプレゼントを買いに行きます.お店での様子がその大判2枚目となります.
いや〜賑わっているというより,ゴタゴタしてます.テーブルの上にはいかにも高価な骨董品が所狭しと並んでおり,ニコラはいかにも興奮のていで書いています.
「お店の前に来たら,僕らまずはショーウィンドーを見たんだ.すっごかったんだ.すっごいプレゼントが山のよう.小さな像に,ひだの入ったガラスのサラダ・ボール・・・[などなど]」(p.102)
それ以外にも「繋がれているのが嫌いな2頭の馬を止めようとする,海水パンツのおじさん」の像(↑絵の左側中央.海パンは見えませんが)や,「弓矢を引いている女の人」の像(↑左下.「弦は張ってないけど」),これとぴったりの「背中に弓矢が刺さり,後ろ足を引きずったライオン」の像(↑右側中央のおじさんの足のあたり.もちろん,「女の人」が矢を放った先の方にあります)など,とにかく宝の山でいっぱいです.これはニコラたちでなくても,ワイワイ・ガヤガヤ,触って歩きたくなります.
「それにお店には虎も2頭いたんだ.真っ黒で,のっしのっしと歩いているやつ.それにボーイス・スカウトに小さな犬[↑ライオンの足下]にたくさんのゾウさん[↑海パンおじさんのすぐ右]におじさんも一人いたんだ.僕らをじろじろ見て,用心している感じの.」(p.102)
と,このように品物に混じって,お店の店主が登場しました.『プチ・ニコラ』では大人はいつも翻弄される存在.このお話でも店主は,店内がこれだけ子どもたちで賑わってしまったので,何か壊されたりしないかと冷や汗のかきどおしです.
さて,ニコラたちは漸く「ボーイ・スカウト」の像を2体買いますが,今度は誰が持って帰るのか,誰が先生に渡すのかで,いつものようにもめます.委細省略・・・.
結局翌日の授業後にクロテールが渡すことになります.なのですが,登校していつもの教室机の下にプレゼントを置いておいたクロテールは,先生に何か隠していると疑われてしまいます.いつもなら「僕のママンとほとんど同じくらいきれいな」先生に(p.107),クロテールがプレゼントを渡すと,先生は喜んで,クロテールは「真っ赤になって照れて」・・・となるはずだったのですが,そうした妄想はどこへやら.猛烈に怒った先生はプレゼント(になるはずだった像)を見て,言い放ちます.
「学校にこんなヘンテコものを持ってきてはいけないと言っているはずです!授業が終わるまで没収します!それに,あなた[=クロテール]には罰!」(p.107)
ものすごい勢いで捲し立てた先生の「こんなヘンテコなもの」(des horreurs)という一言で,「ボーイ・スカウト」の運命は決まりました.おまけにニコラたちは像を返しに行口のですが,お店の前でクロテールは手を滑らせ,像を壊してしまいました.だって,クロテールは「なんでも壊してしまう」と,前の方の文で予告されていたではありませんか・・・.
最後に「ヘンテコなもの」はhorreur.「恐怖,嫌悪,憎悪」を表すため,そこから引き起こされる「嫌悪感」や見た目の「醜悪さ」も意味します.ですから,先生は像が嫌悪感を催すほどひどいものと言ってしまったわけです.読者はニコラたちがお金を出し合い,うんと知恵を絞ってプレゼントを選んだことがわかっていますから(お店で買えたのが「ボーイ・スカウト」だけだったんですけどね),ちょっと残酷で,ニコラたちが可哀想なような気もするのですが,私たちと違って先生はそんなこと知る由もありませんでしたから.
Commentaires