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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(25)

更新日:2020年11月29日

« À la récré, on se bat », t.II, pp.41-49.

「休み時間に僕ら,ケンカする」


 本日の絵はたった2枚.文章のそこかしこに二人組の「ケンカ」の絵がありますが,これらは全て2枚目から切り取ったものです.

 さて,題名にある通り,ケンカの話.でも,誰と誰が?題名にある「僕ら」は原文ではonという語で,フランス語では「僕ら,われわれ,私たち・・・」と1人称を含む複数形の意味で用いられることもあれば(他の人称もあり!),「人は[一般に]・・・」のように,一般の人を指す場合もあります(「特定のon」と「不特定のon」と呼ばれることがあります).ですから,この題名では,わざとぼかして,誰がケンカをしたのかわからないようになっているのです.それに,ちょっと深読みすると,「休み時間には,[人は一般に]ケンカをするものだ」と,休み時間に子どもたちというものはたいがいケンカをするものだと,まるで一般的な話をしているようでもあるのです.でも,そういえば,小学校や中学校で,休み時間といえば友だちと話たり,時に言い合いになってケンカしたりなんてこともありましたよね.陰湿ないじめや仲間外れに発展しては困りますが,互いに意見をぶつけて言い争いになるなんてのは,仲の良い証拠でしょう.仲の悪い人なら,ケンカなんてしないで,黙って無視して,はい終わり,ですから.

 以上はでも,文章が単独であって,どのように読めるか,訳せるかということにまつわる可能性の話で,実際には,本話を読み始めれば,冒頭から誰と誰のケンカか,とりあえずはすぐにわかります.


「お前は嘘つきだ!」と,僕はジョフロワに言ったんだ.

「もう一度言ってみろ!」ジョフロワが言い返してきた.

「お前は嘘つきだ!!」僕はもう一度言ってやった.

「はは〜ん,へぇそうかい?」とジョフロワ.

「そうだとも!」と僕.そこで休み時間終了のベルが鳴った.

それで整列している間にジョフロワが言った.「よし,次の休み時間に,白黒つけてやる(« on se bat »).」

それで僕は言ってやった.「いいよ.ことケンカに関しちゃ,二度同じことを言うなんてしつこいぞ.まったくもう!」(p.41)


 というわけで,まずは題名の「僕ら」がジョフロワとニコラであることははっきりしています.でも,ケンカになる前に「休み時間終了のベルが鳴っ」てしまいますので,未だ二人が争うのかはっきりしません.

 二人の勝負はとりあえず次の休み時間に持ち越しとなりますが,授業時間中にケンカの仕方を巡って,ニコラたちの間で議論沸騰,おまけにアニャンが先生にチクってしまうため,話は一時中断します.それでみんな授業に戻るのですが(もちろん居眠りしていて,自分が注意されたと寝ぼけて勘違いしてお仕置きコーナーに歩いて行ったクロテールを除いて),しかし,こんなお話を語れるくらい想像力豊かなニコラのことですから授業に集中できるはずもありません.



「僕はね,僕は困っちゃったよ.先生に居残りさせられたら,家に帰ってから面倒なことがたくさん起こるし,今晩のデザートのクリーム・チョコレートだって食べさせてもらえない.それから何って?わかんないよ.多分先生が僕を退学にして,そうなったら大変だ.ママンはとっても辛い思いをするだろうし,パパだって,パパが僕くらいの歳のときにはクラスでみんなのお手本だったって言うし,僕にちゃんとした教育を受けさせようと血の出るような犠牲を払うのがどれほど大変かとか,僕が将来非行に走るだろうとか,もう当分映画には連れてってやらないぞとかって言うんだ.」(p.46)



 1枚目の絵では,授業中にニコラがなぜか一人教壇に立って,ケンカの仕方についてのヒソヒソ話に耳をそば立てています.これはかなり不自然です.「フランスの河川」についての先生の質問に答えるために立ち上がったのが,アルセストであるだけになおさら.アルセストは席について,何か頬ばっているし.ついでにいうと,アルセストの横は仲良しニコラの特等席のはずなんですが,何故かアニャンが座っているし.でも,この絵のおかげで,ニコラたちがソワソワ授業に集中できず,密かに次の休み時間のための計画を練っている様子が伝わってきます.ニコラにしてみれば,自分に関わる重大事ですから,ついつい聞き耳を立ててしまう.だからこうしてみると,この絵の伝えることはほぼほぼ正確なのです.



 次の休み時間がきます.先生から注意されたし,家に帰って叱られてデザートのチョコレート・クリームが食べられなくなるし,諸々考えていたジョフロワとニコラはだんだん怖くなってきたようです.休み時間になっても,校庭へ飛び出して!なんて勢いはありません.イヤイヤみんなの「後について」行きます.他方,その他大勢はニコラたちのケンカのお膳立てを始めます.でもケンカを始めたのはその他大勢のほう.2枚目の絵はその他大勢が入り乱れてケンカとなった様子です.




 こうした場合冷静な観察者がいると,ゴタゴタ感が際立ちます.校門の外では通りかかった女性2人が目を丸くして校内の騒動を眺めています.口に手を当てているのが如何にも驚いているといった感じを出しています.そして,蚊帳の外に置かれてしまった,当初の当事者のニコラとジョフロワ,そしてアニャンがみんなの様子を茫然と見守っています.

 ケンカに参加しなかった三人は,先生からはみんなの「お手本の模範生」と褒められます.子どもの頃は・・・といつも自慢ばかりするパパの発言はどうにも疑わしいのですが,ニコラはまさに「模範生」となるわけです.それで終わり,チャンチャンとはなりません.自分たちだけ良い格好せず,互いに仲間思いなのがニコラたち.と言うわけで,最後のジョフロワの言葉に,ニコラが反応して元の木阿弥,またもやケンカになりそうな雰囲気でお話は閉じられます.


「ことケンカに関しちゃ,二度同じことを言うなんてしつこいぞ.まったくもう!」(p.49)






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