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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(221)

« Le théâtre », HIPN., vol.3, pp.139-149.

 フランス語のthéâtreには建物としての「劇場」の意味も,そこで演じられる見世物としての「演劇」の意味もあります.今回はニコラが観劇に行く話なので,どちらかというと,ニコラの「演劇」デビューかと思いきや,大騒ぎして,せっかく連れて行ってもらえたのに,何にも覚えていないようなので,「劇場」に感動したのかも.どちらの訳語を題名にするのが正解なのでしょうか.

 それはともかく,本話で『プチ・ニコラ未刊行集 第3巻』もおしまいです.切ないです.哀しいです.とりあえず,最初に刊行された書籍版の順序に従って第1話から読み進めてきましたが,今回の第221で終了.ということは,全221話となりそうですが,特別編があるので,次回以降は入手できる限りで,特別編を読んでいきたいと思います.というより,今思い立ちました.それはともかく,まずは本最終話を楽しみましょう.

 本話に挿入されたイラストは全部で6枚.そのうち,御多分に洩れず,本当に本話のための描き下ろしかしら?と不可解なイラストが2枚含まれます.

 イラスト1/6は題字の下の,おめかしするニコラ.


 劇場デビューですからね.おめかしします.見に行く方ですが.それでも.それにしてもネクタイまでするもんでしょうか?それとも,今でも,パリのオペラ座の初日には正装をしてゆかねばならないと言われていますから(真偽は確かめていませんが),ニコラの時代,普通の演劇であっても,きちんとした格好をしてゆくものだったのでしょうか.

 お話の冒頭にはウジェーヌおじさんが登場します.あの,ニコラ・ヴァージョンでは「探検家」で遠くまで旅していて,滅多に会えない,パパの兄弟です(111).ウジェーヌの名が出てくると,パパとママンのケンカの場面と相場が決まっているのですが,今回は二人ともケンカなんてしません.ウジェーヌおじさんは,パパとママンとニコラの3人にたくさんのお土産を持ってお昼を食べに来ました.イラスト2/6はカラー版ウジェーヌおじさんです.


 片手に何枚のネクタイを持っているんだか.鞄に入れてくればいいのに,とちょっと思いました.


「ウジェーヌ,今回はどのくらいいるの?」と,ママンが聞いた.

「ああ義妹様,わが内なる声に耳を傾けるなら,あなた様から一生離れるまい.」ウジェーヌおじさんが答えた.

 ママンはケタケタと笑って,ウジェーヌったら,相変わらずね,と言った.それから,本当のところはどうなの?ちゃんと答えてね,だって.(p.143)


 出発は明日の朝ということで,ママンはおじさんを夕食に招待します.

 ウジェーヌおじさんは,食事に来るたびに気前よく,たっくさんのお土産を持ってきますし(多分商品なのでしょうが),いつも一度はちゃんと遠慮するし,パパとの悪ふざけがすぎるという欠点を除けば(111),本当に優しくて明るくていい人のようです.今回も,食事のお礼にと,ニコラたち3人を食後にオペレッタに招待してくれます.ニコラは大喜び.パパとママンは夕食後にニコラに外出させるなんてと反対しますが,結局はおじさんに押し切られてしまいます.


「まあまあ.一回だけ大目に見てよ.絶対,ニコラは演劇が好きになるよ.」とウジェーヌおじさんが言った.

「もちろんだよ!」と,僕が大声で言った.「僕,演劇が大好きなんだ.世界で一番好きなものなんだ.」 

 そう言うと,みんなが笑った.(p.143)


 このように書かれているところを見ると,ニコラは観劇に行ったことがなく,演劇がどんなものかもわかっていません.それでも,夜に外出できることなんて,まさに千載一遇のチャンス.どうやらニコラの仲間たちも,事情は似たり寄ったりで,唯一演劇を見に行ったことがあるのは,ジョフロワだけのようです.ジョフロワは「去年」,ニコラの表現では「だいぶずいぶん前に」劇を見に行って,翌日は一日中,自慢話しをして,ニコラたちをうんざりさせたとのこと.金持ちの自慢話で,目的は嫉妬心を煽ること.普通に嫌なやつな気がしますが,それでもジョフロワが仲間外れになったり,シカトされたりといったことはありません.どうしていじめがないんでしょう?

 ともかく,それほど観劇が珍しいお年頃ですから,ニコラは興奮覚めやらず,クラスで早速自慢を始めます.


「おーい,みんな.僕ね,今晩,劇場に行くんだぜ.」教室に入るなり,僕は大声で言った.

「嘘だ!」と,ジョフロワ.

「本当ですとも,お殿様.僕のおじさん,あの探検家で,いつでも旅行ばかりしているおじさんがね,招待してくれたんだ.オペレッタを見に行くんだぜ.」

「オペレッタって何?」と,リュフュスが聞いてきた.

「そうだなぁ.演劇の一種だよ.超かっこいー演劇のな.」

「俺,知ってるぜ.」と,クロテールが口を挟んだ.「テレビでやってるもん.舞台上で,みんなが歌うやつさ.それでね,パパがテレビを消しちゃうんだよ.好きじゃないんだ.」

「あー,そんなこっちゃないかと思ったんだ.本物の演劇じゃないんだな.」と,ジョフロワ.(p.144)


 誰も「オペレッタ」を知りません.この後,いつものように話がズレていってしまいますが,授業が始まると同時に,ニコラは「もう一生涯,お前らとなんか話をするもんか」と,ケンカ別れ.それで授業中は,もう,演劇のことばかり考えて,ずっと上の空.幸い,授業中に当たることもなかったので,罰を喰らって,演劇がおじゃんということもありませんでした.

 今,私は結構詳細に,ニコラたちの様子を描いたつもりです.すると!イラスト3/6は不可解極まりない.



 授業前に「もう話をしない」と決めたわけですから,授業中に紙を回したり,それを見たアニャンが告げ口したりとかはありえない.どこからこんな描写が出てくるんでしょうか.謎だ.

 それと比べて,イラスト4/6はまさしく本話のためのもの.


 もう,完全夢想モードです.

 家に帰ってからもニコラは大騒ぎ.全然落ち着きません.ご飯中も,みんなが「すっごくゆっくりと食事をとっている感じ」がしてしまいます.わざとか?!その間,ニコラはずっと,「足をバタつかせて」いたようで,注意されています.とにかく早く行きたくて行きたくて.それでも,ママンにはちゃんとニコラの様子が見えています.


「この子ったら.」と,ママンが言った.「もう,疲れて今にも死にそうじゃないの.」(p.146)


 ニコラは,そんなママンの観察も否定し,ちゃんと櫛で髪を整えて出発準備万端.これが題字の下のイラスト1/6でしょう.

 そしていよいよ,劇場デビュー!


劇場は,ほんとうにすごかったよ.映画館のように大きくってさ.ライトでピカピカ.人も大勢いて,大きくて真っ赤なカーテンが付いていて,肘掛け椅子も,やっぱり真っ赤ですごくってさ.(p.149)


 興奮が伝わってくるようです.さて,それで話題のオペレッタはどんなものだったでしょうか.上の劇場の様子の描写から,いよいよニコラの感想に入ります.


劇場の中は暑かった.僕さ,すっごく嬉しかったよ.ママンが僕の横に座っていたから,僕はママンの腕に頭をもたせかけて・・・,それで,朝起きた時には,どうやって布団まで辿り着いたのか,全く覚えていなかったんだ.(id.)


 それって,布団どころか,オペレッタも何も覚えていないってことでは・・・.イラスト5/6は観劇中?!のニコラ.


 よくおやすみで.ママンの腕は見えませんが.せめて,いびきをかいて,お金を払ってくれたウジェーヌおじさん,そしてニコラの外出を許してくれたパパとママンに恥ずかしい思いをさせていないように.


すっごくよかったよ,演劇ってやつは.もっと何回もいけるといいな.(id.)


 あれあれ,せっかくのチャンスだったのに.でも,ニコラは「劇場」は楽しんだみたいなので,目的は達成したと考えるべきでしょうか.「演劇」鑑賞ではなかったとしても,ね.

 最後の6/6はやはり意味不明.要るかなぁ?



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