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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(220)

« École de loyauté », HIPN., vol.3, pp.127-135.

 今回は困りました.というのも,イラストが8枚もついているのに,本話に直接関係してそうなのはたったの2枚.う〜ん・・・サンペは今回のお話のために描き下ろしたので,恐らくはまずはお話を読んでいるはずなのですが.そりゃ,文の進行と違ったって,文と矛盾していたって,これまででもそんなイラストはたくさんありました.だから,文が先か,イラストが先に描かれたかなんて,不毛な議論だと思っていましたし,むしろ矛盾とかニアミスから生まれる,ある種忠実さに感心もしていたのですが,今回は1枚を除いて,あまりそんな文と絵の葛藤が見られない.というより,わからない.どうなんでしょうかねぇ.

 題名は「公正・忠実を学ぶ場」くらいの意味でしょうか.écoleはフランス語学習で最初に出てくる単語の一つで,「学校」と習うのですが,「派閥」を意味する「〜派」の意味もありますし,今回のように比喩的に「〜を学ぶ場」という意味で用いることもあります.loyautéは形容詞loyalの名詞形で「忠実さ,誠実さ」などと訳せます.個人的な語感でテキトーにいうと,「忠実」と「誠実,公平」はだいぶ異なるような気がするのですが,仕方ありません.今回は,パパとjudoを見に行ったジョフロワがニコラたちに報告するというお話で,judoがécole de loyautéと呼ばれています.judo,すなわち「柔道」です.当時は未だ,物珍しかったのでしょう.それにしても,柔道がloyautéの学習の場と言われても.「忠実さを学ぶ」というのは,またもや個人的には違和感がありますので,「誠実さ」あるいは「公平性」を学ぶ場くらいでしょうか.この辺のところがオチにもつながるようなのですが,ボツになったということは,いかにもパンチが弱かったのかもしれません.ややオチがわかりにくい.

 まずはここ数話のお決まりで,題字に合わせて,イラスト1/8がついています.

 サーカスでするように,ベンチの上をバランスをとりながら歩くニコラ.それを眺める仲間たち.独りアニャンだけは授業の予習に余念がない.場所は公園でしょうか.でも・・・.今回は公園も出て来なければ,綱渡りの場面もない.アニャンは全く登場しません.何のためにこのイラストがついているのでしょうか.スッキリした水彩で,嫌いではないですが.

 イラスト2/8は誰かが追いかけられている図.


 誰か悪さをしたのでしょうか.走って逃げています.背後から鞄や拳を振り上げて追いかける3人.奥の木の影に誰か隠れて,その様子を伺っています.すると,鬼ごっこかも?でも,今回,鬼ごっこの場面もないんです.誰か一人が追いかけられることも,そいつを殴ろうと鞄を振り上げることもないんです.う〜ん・・・.

 このイラスト2/8のすぐ下から文が始まります.まずはジョフロワが登場.


「やったぞ!みんなー!」休み時間になると,ジョフロワがすっごく自慢げに僕らに話しかけてきた.「来年,俺,ジュードーを習うんだ.」

「ジュードーって,どんなんだ?」と,ジョアキムが聞いた.

「俺,テレビで見たことあるよ.」と,クロテール.「何かパジャマみたいなの着た人たちがさ,絨毯の上にいて,パジャマを掴み合うんだ.それで相手を転ばせようとするんだよ.相手を転ばせた方が勝ちだったよ.」(p.129)


 ジョフロワのパパは前日にジュードーの学校に招待されたので,ジョフロワを連れて行ってくれたそうです.そこでジュードーの先生が,ジョフロワは未だちょっと若すぎるけど,来年大きくなったら,弟子にしてあげると言って,ジョフロワのパパもそうしなさいと同意してくれました.「前日」のことですから,ジョフロワはもう,やる気満々.すでに習い始めた気でいるようです.ここでイラスト3/8,欄外挿入.


 走って逃げていた子が捕まり,殴られている様子.文とは,まるで繋がらない.どういうこっちゃ?

 文に戻って,「ジュードー習ってどうすんだよ?」とは,メクサンの質問.


「そうだなぁ,ジュードーやると,お前より強い相手に対してもな,無敵になんだよ.攻撃を受けたら,相手をつかみ手でつかんで,バタン!それで勝ちだ.敵が何人いても,バタン,バタン,バタンと,そいつら,つかみ手でもってさ.それで勝ち.先生がやって見せてくれたんだ.凄かったぜ.絶対先生が勝つの.」

「つかみ手って何だ?」と,リュフュスが聞いた.(p.130)


 そもそも見てきたジョフロワにしてから,ジュードーがよくわかっていなさそう.1950〜60年代のフランスでは,物珍しいスポーツだったわけです.judoもわかっていなければ,「つかみ手」(une prise)とか,「パジャマみたいな」服とか,でも,分からないなりに,彼らは強さを感じ,何とか彼らの言葉で説明しようとしているのです.

 ジョフロワはアルセスト相手に「つかみ手」を実践しようとしますが,重すぎて動かず.それでまた,クロテールにからかわれたり.分が悪くなったジョフロワは,先生の言葉を反復して切り抜けようとします.


ジョフロワが僕らに説明した.先生によると,ジュードーってのは,公平・誠実を学ぶ場なんだって.「だから,戦う前に相手同士挨拶するんだよ.どっちもに本当に誠実だって相手に見せるためなんだ.」

「どうやって挨拶すんのさ?」と,ジョアキム.

 それを聞いたジョフロワはやって見せてくれた.まず膝をついてしゃがみこむ.それから地面に手をついて,宙返りするみたいに体を傾けたよ.(p.131)


 この場面のイラスト4/8は,確かに本話のためのものでしょう.


 確かに,地面に手をついて,お辞儀していますから.でも,背後から鞄で叩こうとしている少年は,何?なぜに?でも,ま,この場面のイラストが文と揃っていなくても,全く問題ありません.ジュードーが「公平・誠実を学ぶ場」と,先生から聞いたことをそのまま繰り返したジョフロワに対し,そんなことやっている間に背後からやられちゃうじゃんかとばかりに鞄を振りかざすのは,まさに卑怯で不誠実な振る舞いですから,ジョフロワをからかうにはもってこいの行いかも.

 そこへブイヨンさんが通り掛かりますが,別にケンカをしていたわけでもないので,やっぱりこいつら理解不能とばかりに,首をふりふり遠ざかっていきました.

 この後,ジョフロワは昨日仕入れてきた教えをひけらかし,マウントをとりに.もちろん,そんな偉そうな態度をみんなが許すはずもなく,まずはウードと言い争い.あくまで口ケンカです.それなのに・・・イラスト5/8と6/8では,みんなだいぶ発奮して手まで出しているようです.それにこの人数ったら.久しぶりにうじゃうじゃしているのを見ました.




 5/8ではまたもやアニャンが登場しています.本を読みながら,我関せずで一人歩くアニャンを背後から叩こうとする少年.右手前には,友だちを後ろから蹴る少年.右奥は木に隠れて騙し討ち.真ん中は不意打ちでしょうか.関係なさそうと書きましたし,実際文とはかけ離れているのですが,5/8の方は,こうして不誠実のオンパレードになっていますから,「公平・誠実を学ぶ場」という表現への皮肉になっていると考えて良いでしょう.6/8もその系譜とすると,まぁ説明もつきます.でも,ちなみに,ここまでのところで,一度も格闘はありません.

 銃を持っている相手にもジュードーで勝てると自負するジョフロワをみんながからかい,ジョフロワは押され気味.


「お前,おじけづいてんな.」とウードが叫んだ.「お〜い,みんな.ヤツは怖いんだぜ.」

「ジョフロワはおっそれてる.おっそれてる!」僕らみんなではやしたてた.

「俺が怖がってるだって?笑わせるな.第一な,俺ら,ジュードーやるかっこしてないだろ.それに誠実な勝負とは言えないじゃないか,それから・・・」

「何で,誠実な勝負だって言えないんだ?」と,ウードが言った.「来いったら.卑怯者じゃないんならな.それに,ほらな,俺が誰よりも誠実な男だって見せてやんよ.挨拶すっからな.」

 そう言ってウードは,さっきジョフロワがしたみたいに,膝をつき,地面に手をついて頭を傾けた.それを見たジョフロワはウードに飛びかかり,ポカポカ殴り始めた.ウードが立ち上がれないでいると,ブイヨンさんが走ってきて怒鳴った.(p.135)


 これはイラスト7/8でしょうかね.



 ちゃんと挨拶していたウードに,卑劣にも飛びかかったジョフロワ.でも普通に殴り合っているようにしか見えませんが.とは言え,だからこそ,ここまでのイラストで,仕切りに「不誠実」の振る舞いを,これでもかというほど描いていたのでしょうか.この7/8が不誠実な攻撃に見えるように?

 

休み時間が終わって,教室に戻ろうと列に並んでいるときに,ウードが言った.「ジョフロワのつかみ手は本当に凄かったよ.やつは俺らにジュードーのレッスンをつけてくれるって約束したからな.おれらみんな,やつと同じくらい無敵になるぜ.」(p.135)


 負けず嫌いなジョフロワの攻撃はめちゃくちゃで,だいぶ卑怯に見えますが,ウードはやられてしまったことに,むしろ感銘を受けている様子.それにしても,「公平・誠実を学ぶ場」であることは最後まで理解されず,「つかみ手」も単なる強さの証拠となっているようです.「ジュードー」は何をもたらしたのでしょうか.

 それにしても,冒頭に戻ると,ジュードーを習うのは来年からのはず.未だ習ってもいないのに,「つかみ手」の名手で,無敵になっています.すると,オチは誠実を求める場での彼らの「不誠実」な振る舞いへの皮肉でしょうか,それとも,習っていないはずのジョフロワのジュードーにみんなが感心したところでしょうか.やや焦点が定まらない感じです.

 イラスト8/8は相変わらず,本話と無関係そうな添え物感を出していますが,一応見ておきましょう.



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