« La Montre », t.II, pp.20-26.
5枚のイラストのうち,1枚目は(23)の抜粋ですから,本話では4枚.
ニコラのママンのママンであるメメ(母方のお母さん)から腕時計が届きました.ニコラは大喜びするのですが,翌日は学校のない日.でもパパは仕事に出かけたので,きっと到着は水曜日だったのでしょう.ちなみに1880年代からフランスの学校では伝統的に木曜日と日曜日を休みにしていましたが,1972年以降は水曜日と日曜日になったそうです.それでニコラはせっかくのプレゼントをクラスメートに見せびらかすことができないのです.うーん,それではなぜに,ここでアニャン(たぶん)と,もう一人の級友が時計をはめたニコラの腕を,それも幾分不思議そうに眺めているのでしょうか.そういえばどことなく,ニコラも嬉しそうには見えません.大事そうに腕時計をいじってはいるのですが.
とりあえず謎はそのままにして,お話を読み進めていきましょう.
腕時計をもらって大満足のニコラは,食事を始めた時も(「7時32分」),食事の最後に「お昼の残りのケーキ」が出てきた時も(「7時51分」),食事が終わった時も(「7時58分」),就寝時も(「8時38分」),時計を肌身離さず時間を確認します.もちろん,お仕事の付き合いで外食したパパが帰ってきた時にも(「11時58分」).
当然予想できる展開として,朝一番に起きたニコラは(大方の子供って早起きですよね),いつも社長から遅刻を注意されるパパを思って起こしにゆきます(「5時12分」).まだ早いと,二度寝,三度寝をしたパパたちを起こしにゆきます(「5時47分」,「6時18分」,「7時2分」).親孝行な子です.
ようやく起きたけれども,パパもママンもまだ眠い.ママンは「コーヒーをカップに入れようとして,手が震えていたからオイルクロスの上にこぼした」りしたので,ニコラは病気かもなんて,心配までしています.息子の鏡です.出がけのパパの,「お昼には早めに戻るよ.玄関でタイムカード押すからね.」なんて意味不明な言葉にもしっかり耳を傾けています.ニコラには何を言っているのか理解はできませんでしたが,きっとパパはママンにパチンと片目で目配せをしたことでしょう.子どもの関心への,ユーモアに満ちおおらかな対応が微笑ましい場面です.
学校がないので,近所に住むアルセストに時計を見せびらかしに行きます.「この時計すごくよく動くんだ.半熟卵用の針もついてるし,夜は光るんだ.」というニコラの説明を聞いたアルセストはここでなぜか,「それなら,中身はどうなっているんだ?」と答えて,ナイフで開けてみようとします.本話第2の謎と言えるでしょうか.やはり「半熟卵」(« œufs à la coque »)に反応したのでしょうか?ナゾです.
アルセストが壊してしまうのではないか心配そうに見つめるニコラ.そして予想通り,アルセストは手を滑らせて時計を落として壊してしまいます.9時10分.そして今後は,ずっと9時10分のまま.
4枚目の絵では何やら不機嫌そうに時計を確かめている姿が描かれていますが,アルセストを責めるでもなく(たぶんケンカはしたでしょうが),動かない時計を手に,ニコラは泣きながら家に帰ります.絵に描かれた,何やらけげんそうな顔にはそぐわない描写です.
お昼に帰ってきたパパは,これ幸いと,時計が直らないことを宣言します.嬉し気な様子が目に浮かびます.(これでタイムキーパーに煩わされずにすむ!)
「お聞き,ニコラ.この腕時計はもう直らない.だけどこれで遊べばいいよ.むしろよかったんだ.だって,もう壊れる心配もないし,腕につけとけば,やっぱりかっこいいしな.」(p.26)
これでパパも満足,ママンも満足,僕も満足で,三方みな丸くおさまりました.ブレヒトか東山の金さんの名裁きのよう.それで今後,時計はずっと同じ時間を指したまま.4時.パパ,お昼に帰ってきたはずなのに,そんなにゆっくりしていて大丈夫でしょうか.
それでたぶん,後日譚.動かない時計を腕にニコラは学校へ行ってクラスメートに見せびらかすのですが,動かないものだから,アニャンたちも羨ましいのかどうか,反応に困るのではなないでしょうか.それなら,冒頭の絵も納得いきますね.謎は解けた!かも.
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