« Le ballon », HIPN., vol.3, pp.113-123.
『プチ・ニコラ 未刊行集』第3巻*の題名にもなっている「風船」というお話です.
*Le Petit Nicolas Le ballon et autres histoires inédites, IMAV éditions, 2009.
ですから,かどうかは分かりませんが,本書の表紙や裏表紙などにもたくさんの赤い風船がふわふわと浮いています.でも,これはもちろん,編集者の,あるいはデザイナーのお仕事で,風船の種類はどうも限られているようです.表紙などにあしらえられた風船はもちろん,本作からの抜粋なのですが,本作の中の無数の風船も,実際に描かれたのはニコラに手に持っていたりする幾つかに限られています.つまり後は全てコピー.複製とか,再利用とかとも言えるでしょう.一番使用回数が多いのは多分,2/8↓の風船のようです.
かわいいなぁ.ニコラっぽくはないですが.
今回のお話は,ニコラがママンとお買い物に出かけ,デパートで風船をゲット.帰りに風船が割れたらニコラが大騒ぎするし,混み合ったバスで風船がゆらゆら揺れていたりすると,他の人の目が気になるし.多分そんな理由から,ママンはニコラと歩いて帰宅します.疲れ切って長椅子でぐったり休んでいたところ,パパとニコラは風船を割ってブレデュールさんを驚かせます.イタズラは大成功したのですが,起こされたママンは不機嫌に.それを見たニコラが相変わらずのKYぶりを発揮して,「ママンが,そんなにあの風船が好きだってわかっていたら,そんなイタズラ,するんじゃなかったよ.」(p.123)親の心,子知らずのパターンのお話でした.
さて,1/8はいつもの通り,題字に添えられています.
風船を持って歩いて帰ることにしたので,ニコラが風船を手にバスを見送っているのは文のまま.それにしても,バスに乗った人々.ぐしゃぐしゃというか,テキトーというか.でも,一人一人や人の形をしていなくても(運転手さんも),何となく,人で混雑している雰囲気が出ています.それにバスの後方部.もうフランスでも日本でも,こんなふうに後ろから飛び乗ることのできるバスは走っていません.この部分だけでも,ノスタルジックというか,かつての雰囲気を醸し出しています.
木曜日の午後には学校がないので,ニコラはママンとデパートに買い物に出ました.ニコラは買い物には気乗りしないようですが,エスカレーターが好きとのこと.それも逆走好き.子どもにはアルアルな風景です.
ママンが支払いに行っている間に店員さんが近づいてきて,「小さなお子様にプレゼントがあります」(p.116).ママンは先を予想してか,予感してか,断ろうとしますが,ニコラは赤い風船を手に入れました.店員さんは親切にも,無くさないようにと,指の先に括り付けてくれたんです.それで↑2/8のように,両手を広げても,飛んでいってしまわないのです.
「風船を割ってしまわないように気をつけるんだよ?」と店員さんが笑いながら言った.
すると,「努力はしますけどね!」と,ママンが笑わずに言った.(p.117)
この辺り,もうすでにママンの心配性が表れています.イラスト3/8は,注意されて,少しだけ気にしているニコラの図.
ほんの少しだけ.
ここでママンも少しだけ,無駄な努力をしてみます.つまり,うちに帰るまで空気を抜いておいて,帰ったらまた膨らませたらいいんじゃない?と.ニコラ,その手には乗りません.
ママンは大きなため息をついて,言ったんだ.「そう,それじゃあ,風船がどうなっても,絶対に騒いだりしちゃダメよ?」おっかしいね.ママンは僕と一緒にお店に来ると,すっごくカリカリしてるんだ.(p.119)
帰りのバスを待っていると,同じように小さな子が風船を持っています.この子,風船に顔を近づけて一噛み.バンッ.当然割れてしまい,子どもは大泣き,連れていたお母さんはいたたまれぬ様子.泣き止んだ子どもは気に入らないものだから,その辺に当たり散らし,お母さんに咎められ,またもや号泣.最後には,ペシッ.お母さんの一撃.
そんな様子を目にしていたママンは,とても人ごととは思えません.不安に駆られたママンは歩いて帰ることを提案します.ここら辺の様子については何と豪勢な!4枚のイラストが添えられています.
4/8風船で前が見えず,おじさんにぶつかってしまうニコラ.ママンは後ろでハラハラ.バスもすごく混んでいます.
5/8人混みの中を平然と歩くニコラ.ママンはやはり不安げな様子.
6/8帰りのバスの列に並んでいるところ.不安で不安で,いよいよ我慢しきれなくなったママンが歩いて帰ることを提案.そんなに荷物を持っているのに.文にはないですが,イラストで,ニコラの前に並んでいるおじさんのタバコが風船と今にも接触しそう.ママンはドキドキハラハラ.
7/8ニコラは楽しそうに歩いていますが,ママンは気がかり.荷物も多いし.それに歩いて帰るのはいいのですが,ニコラによると,デパートからお家まで,だいぶ遠かったようです.
ようやくついた頃には辺りは暗くなり,二人はクタクタ.パパもだいぶ心配していたようです.ママンはすぐに長椅子に腰掛け休むのですが,お隣との境の生垣で作業をしているブレデュールさんを見たパパは,ニコラとヒソヒソ,イタズラを仕掛けます.バンッ!作戦は大成功で,生垣の向こうからブレデュールさんの悲鳴が聞こえました.おまけにブレデュールさんは,生垣から真っ赤な顔を出して見せてくれます.赤い風船の代わりに,赤い顔ですか.それも茹で蛸のような.怒って真っ赤な.だいぶおかしかったでしょうね.
パパと大笑いしながら家に戻ると,ママンが長椅子から立ち上がって,目を見開いて二人を睨みつけていたようです.
ママンは一晩中,僕らに怒っていたんだ.ママンが,そんなにあの風船が好きだってわかっていたら,そんなイタズラ,するんじゃなかったよ.(p.123)
「ママンが,そんなにあの風船が好きだってわかっていたら」(Si on avait su qu'elle y tenait tant que ça, au ballon, maman !).原文ではtenir àという表現なので,文字通りには「こだわる,執着する」となります.だから,ニコラはママンがあの風船が大事で大事で,それで帰りも割ってしまうのを心配して,歩いて帰ってきたかったんだな,と推測するわけです.ママンの拘り.それにしても,親が思うほどには,子は物に執着していない.それに,結局のところ,風船が割れて大騒ぎしたり泣き喚いたりして,バツが悪い思いをするのは,実は親のほう.だから,ママンはニコラを心配していたというよりも,自分が嫌な思いをしたくなかった保身ってやつ.思わぬ誤算で,ブレデュールさん同様,ニコラたちのいたずらにしてやられたとしても,自業自得では?あるいは,因果応報かも?
ところで,最後に,またもやよくわからないイラストがついています.8/8です.
指に結んで持って帰ってきたし,ブレデュールさんを驚かすために割ってしまったし,赤い風船は1つしか登場しないし.このお話用のイラストではないと考えるのが妥当でしょう.それに本巻で時々挿入される,複数のニコラのイラストを見てください.↓
真ん中のカバンを投げ上げているニコラに注目すると・・・,もちろん,↑の8/8はカバンを加工して風船に置き換えているというのが分かりますよね.ですから,本話には実は7枚のイラストしかないのかも.
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