« Le concours », HIPN., vol.3, pp.63-71.
フランス語のconcoursを訳すときは困ってしまいます.辞書を引くと,「コンクール」.これなら困らない.だって,日本語でもピアノ・コンクールとか,優劣を競う催し事で,そのままフランス語を移入しています.Rの発音はだいぶ異なりますが.でもその他に,「コンテスト」もconcours.かの悪名高きミスコンこと,ミス・コンテストもやっぱり競争して1番の人を選ぶ催し.でも,この二つって,日本語では入れ替え可能なのでしょうか.ピアノ・コンテストと言われると,印象としては,物としてのピアノの良し悪しを判断するような?無線コンクールというと,無線を使って傍受したり,誰が一番早く正確にスパイできるかとか?なんて,そんなこんなありもしない夢想に耽るのはやめて,concoursに戻ると,さらに「選抜試験」の意味があります.競うのだから当たり前と言えば当たり前.でも,コンクール,競技,コンテスト,選抜試験・・・だいぶ単語から受けるイメージが異なるので,今回のように題名だけle concoursと書いてあると,中身の想像がつきません.しかも1枚目のイラスト1/5は題字と一緒に置いてあるのですが,これもconcoursの意味を理解するには,全く役立たない.
街中を学校カバンを持って,一人歩くニコラの姿.歩行者天国のように,路肩の右も左も,縦横に人が歩いているので,どちらが道路でどちらが歩道かも良くわかりません.そこへ持ってきて,この題名.わかりません.
ページを捲ると,p.65ページには,まるで合唱の指揮をしているかのような,ハンチングの少年が描かれています.おや,それでは音楽の「コンクール」で良いのかなと思いきや,これはパラパラとめくってもう少し先,p.68に出てくるイラスト3/5からの抜粋でした.
赤いセーターがニコラだとすると,運転しているのはニコラで,いつもの仲間たちが同乗しています.誰か一人だけ,車の外で指揮をとるような格好をしていますが,車の前でこの格好をすると,指揮ではなく交通整理でしたか.わっからね〜.
というわけで,concoursをめぐっては謎は深まるばかりですが,文の方ではこの難題はあえなく解決.新聞に掲載されていた記念碑当てクイズが,ここではconcoursと呼ばれているのでした.え〜!今見た『プチ・ロワイヤル仏和辞典 第4版』(旺文社)には,かろうじて,「(テレビなどの賞金(賞品)付き勝ち抜き番組」とあり,「賞品」と関係していますが,これでは「コンクール」も「コンテスト」も「選抜試験」も競技もダメですなぁ.
今回は,パパがいつも読んでいる新聞を眺めていたニコラが,写真の記念碑を見て一等賞の「自動車」を当てようという広告から夢想を広げるというお話です.
勝ち抜きクイズなんだけどね,毎日記念碑の写真が一枚掲載されるから,その名前と場所を当てなくっちゃならないんだって.それがさ,めっちゃ簡単だったんだよ.例があってさ,僕にはそれがすぐにエッフェル塔だってわかっちゃったんだ.パリのアレさ.僕ねぇ,僕は記念碑には詳しいんだ.いっぱい知ってるんだよね.(p.66)
最初の例のエッフェル塔がわかったニコラは,もう自動車は当てたも同然と自信満々で,この後知っている記念碑を二つ挙げます.が!「ジャン−ジュール・トランペ(1864-1930)」と「ポワリエ−ルマール」ですって.前者は「学校の側にある像で,髭を生やしていて鳩が群がってるやつ」,後者はパパとママンとヴァカンスでいった先にあった海賊の像とのことです.確かに,かなり詳しい.というより,カルトQレベル(古いテレビ番組です).どうもニコラが知っている,詳しいというのは,身近なレベル,というより,自分で見たり聞いたりした経験のレベルのようです.でも,そんな風に色々覚えていったら,さぞ物知りになれるでしょう.多少偏りはありそうですが.
ともかく,ビッグニュースとばかりに,ニコラは仲間たちと約束していたいつもの空き地に向かいます.おそらく,↑の題字の脇のイラスト1/5は空き地に向かうニコラでしょう.このイラストからconcoursが分かるわけがない.
空き地でクイズの話をすると,いつものように,リアクションはさまざま.さまざまとはいえ,それぞれの特徴に応じてですが.イラスト2/5は自慢げにクイズの話をするニコラです.
「すごいなぁ.ついてるな,お前」(アルセスト)
「俺のパパは自動車3台持ってるんだぜ.もう持ってるんだから,クイズなんてやる必要ないね」(もちろん,ジョフロワ)(p.67)
ここからはニコラとジョフロワの小競り合い.
「その車はお前のじゃないだろ!ところがこの新聞の車は,僕のもんになるんだ.独り占めだ.」(ニコラ)
「あ〜そうかい,それで,それ誰が運転なさるってんだい?」(ジョフロワ)(id.)
「お前運転できないだろうが!」(ジョフロワ)
「ほんとだ.ニコラは運転できないからな.」(メクサン)(id.)
もう当てたも同然.車は手に入るものとして,次は誰が運転するのかというところにスライド.
「それにさ,仮にお前が運転できるとしてもさ,そんなの法律違反だ.だってまだそんな歳じゃないからな.」(リュフュス.リュフュスのお父さんは警察官です)
ニコラの分が悪くなってきました.リュフュスのパパがニコラが運転しているのを見たら,「ピーーーーー!」と,ホイッスル鳴らして,違反切符をたくさん切って,自動車は没収だそうです.そりゃそうだ.それを聞いたニコラは怒り心頭.でも,この場合,どう考えても,友だちの方が正しい.でもそんなこと以前に,話がズレまくってます.
せっかくアルセストは味方についてくれたのに,ニコラは車の中でものを食べるな,カスが落ちるからと口にして,アルセストの機嫌を損ねてしまいます.そこへ仲裁に入ったジョアキムがアルセストとケンカを始めて・・・.ま,いつものゴタゴタです.
イラスト4/5は車の中で物を食べてはいけないと,アルセストに注意するニコラでしょう.
でも何だか,ニコラがアルセストが食べているバナナをくれと手を出し,アルセストはダメだと左手を後ろに回し拒否しているように見えるのですが.そう考えると,まるで文に関係なさそうな場面ですが,どうなのでしょう?
文に関係ないといえば,↑で既に見たイラスト3/5は空き地でみんなで車に乗っている絵でしたが,文では誰も車に乗っていないし,ずっと言い争いとケンカをしているし,一人だけ交通整理している傍観者もいなさそうです.ニコラは始終怒っているはずですし.↑は自動車を手に入れたニコラの夢想ということで良いのでしょうか.それにしては,空き地に捨てられていて,みんなの遊び道具になっている,車輪のない廃車にしか見えないのですが.
言い争いはさらに続きます.次は,違反切符の話.その次は,駐車場所の話.ついにニコラは怒って帰ってしまいました.「お前らの顔なんてもう二度と見たくない!」(p.71)そうでしょう,そうでしょう.これがイラスト5/5でしょうか.今回の最後のイラストはかろうじてお話とちょっと繋がりそう.怒るニコラです.
でも,走りながらニコラは考えます.友だちとケンカするのは好きじゃない.パパはガレージに僕の車を置かせてくれないだろうな.パパはママンに車を使わせてあげないから,僕の車を貸してあげたら喜ぶだろうな.でも,ママンが僕の新車のドアに傷をつけちゃったら,ママンにも貸してあげられないし,そうしたらママンは怒るだろうし.・・・なんてことを考えていたら,ついに!
僕はこんなに色々面倒な車にうんざりしてきた.どこに駐車しておけばいいのかもわからないし.(p.71)
まぁ,これだけ想像して楽しめたら,実際の車はいらないでしょう.それに面倒も想像しちゃったので,そんな結論に達してしまいましたし.
それでニコラは家へ着くなり,クイズの申込書を切り取って,その上に書いたそうです.
「おたくのクイズに参加することができません.ごめんなさい.だって友だちとは喧嘩になるし,家でも色々面倒で.それで自動車は別の人に上げてください.」(p.71)
やっぱりもう手に入れた前提で諸々,想像を膨らませていたようです.たくましい.
Comments