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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(212)-2

« L'œuf de Pâques », HIPN., vol.3, pp.23-31(suite).

 前回から『未刊行作品集』第3集に入りました.その第1話の「復活祭の卵」ですが,複数のエピソードを盛り込んで全体を構成しているタイプのお話であるため,話の筋(ストーリー)を説明しても面白くもなんともない.そこで,エピソードごとにネタとオチを見ていくことにしました.今回はその2回目.

 前回は,ニコラの家での毎年の復活祭の風景と,今年もやっぱり繰り返されるパパの失敗と自慢について書かれていました.今回は,ニコラが庭に隠した卵を探す場面から始まります.


前回のエピソード

1)ニコラ家の復活祭について

2)パパが卵に色をつける


今回扱うエピソード

3)パパが庭の芝刈りをしない理由

4)ニコラの友だちが来て,庭で卵探しをする.ついでにブレデュールさんの登場


次回以降のエピソード

5)ママンが子どもたちにチョコレートを振る舞う

6)虚脱状態のママンをパパが励まそうとする


 色をつけた卵を庭に隠して,子どもたちに探させる.復活祭の日常風景です.そこでパパは卵を隠し,ニコラが探し始めます.ところがなかなか見つからない.なぜなら,


草ボウボウでさ,なかなか卵が見つからないんだ.(p.26)





 イラスト4/6です.卵を隠し,子どもが見つけ,復活祭の習慣を身につける.何なら,大人も一緒に探したふりをする.ただそれだけのことなのですが,ニコラの家の庭には草が生い茂り,探索は難航したようです.なぜなら,


パパがさママンにね,「復活祭の卵を上手に隠そうと思ってね,それでしばらく芝刈りをしていなかったんだよ」って言っていたよ.(id.)


 そうですか,パパが怠けているだけかと思ったら,そんな風に,ニコラを喜ばせようと努力していたんですね.って,違うでしょ!きっとパパはママンに,お休みにゴロゴロしているくらいなら,お庭の芝でも刈ってくださいって,日曜日ごとに言われていたのでしょう.それなのに,めんどくさがりのパパは動こうとしない.その言い訳を,ここに持ってきますか?!KYニコラはそんなパパの言い訳を聞いて納得し,観察をそのまま読者に伝えるだけですが,書かれていない,パパのものぐさが伝わってきてしまうなんて.素晴らしい文章家です.

 ところで,このイラスト4/6.何か変.パパは箱に入れた卵を隠しているのか,拾っているのか.まぁ,隠しているのでしょう.それから木の上に,プレゼントの箱がのっています.子どもがすぐに見つけることができるようにという配慮でしょう.でも,パパが卵を隠しているのであれば,ニコラが見つけるのはまだ早い.それでニコラの方を見ると,懐中時計らしきものを手にしています.これが後々問題となる,ニコラからパパへの「さ〜ぷらいずプレゼント」なのです.

 さて,ここで問題発生.「でっかい犬」が卵の匂いを嗅ぎつけて,庭に入ってきてしまいました.パパは犬と格闘し,勝利を得たそうです.それしか書かれていませんが,犬と闘って勝つっていっても,いったいどうなったのでしょうか.もしかしてパパは血まみれ傷だらけでしょうか.想像すると,いかにも怖い場面です.

 そんなホラーな場面を避けるかのように,ニコラは卵探しを中断して,友だちを迎えに行っていたようです.「近所の友だちが卵探しの手伝いと味見に来てくれたから」なのです.

 ニコラの友だちはみんな「すっごいプレゼント」を持ってきてくれました.それは,「チョコの卵,チョコのめんどり,それに山ほどチョコのお菓子」.


ママンは,「こんなにたくさんのチョコレート,見ているだけで胸やけがしちゃう」なんて言っていたけど,僕はね,食べてから出ないと胸やけなんて起こさない.それにそもそも,チョコは大好物だし.(p.27)


 本当にニコラは言葉をそのまま,書かれた意味でしか捉えることができません.「こんなにたくさんのチョコレート,見ているだけで胸やけがしちゃう」というママンの発言を聞いて,本当に「胸やけ」がしているのだと思い込んだわけです.それで,自分なら食べた後じゃなくちゃ,胸やけしないんだけど,というわけです.大量のチョコを見て,思わず胸やけを想像したママンが繊細なのか,字義通りにしか受け取れず,正論をかますニコラに理解力がないのか.あるいはどっちも?

 近所の子どもたちが来たのを見て,パパは「さあ,みんな!卵を探すんだ!」と呼びかけています.犬との格闘は何ともなかったのでしょうか.

 ここでパパの呼びかけを受け,パパ思いのニコラはパパにも楽しんでもらおうと一つ「さ〜ぷらいずプレゼント」を用意していたのでした.


パパが言った.「さあ,みんな!卵を探すんだ!」それで僕はね,パパにさ〜ぷらいずプレゼントを用意していたんだ.いつもパパは僕らと一緒に遊んだりしないからね.(p.27)


 気になるでしょう?「さ〜ぷらいずプレゼント」.


僕はパパに言った.「パパもね,パパも僕らと一緒に探そうよ.芝の中に,パパの時計を隠しておいたんだ〜.」(id.)


 ニコラは素直な子ですから,決して悪意はありません.でも,わざわざ「芝の中に」と,ちゃんと付け加えています.あの,しばらく芝刈りをしておらず,卵さえなかなか見つからないほど草ボウボウの中になんて・・・.パパのリアクションは,


パパの顔は真っ赤になった.それで僕をギロッと睨んだんだ.もちろん,冗談だよって笑うためさ.それでパパも探し始めた.(id.)


 幼い子どもの無邪気な心遣いに感銘を受けたパパは,一瞬怒りを覚えたようですが,子ども相手に怒るなんてもってのほか.見つけるのが先決と,一緒に探し始めました.

 そこへ,あの,パパをからかうのが職業?のお隣ブレデュールさんが登場します.


「オマエさん,卵を探すにはち〜と成長しすぎじゃないのかい,なぁ?」そう言って,ブレデュールさんは笑い始めた.(p.27)


 ブレデュールさんは,パパがもうそんな,卵を探して楽しむ歳でもなかろうにとからかったわけですが,パパはカチンと来て,思わず言い返してしまいます.


「オマエなんて,鼻をかむのに鼻の場所がわからんのだろう? オマエさんのどでかい顔のど真ん中にあるんだよ,なんて誰かに教えてもらわにゃならんなんてな.」(id.)


 売り言葉に買い言葉.これもいつもの二人のやりとりです.これを聞いたブレデュールさんは,「オレなら30秒以内に卵を見つけてやるぜ」と鼻息荒くして,垣根を飛び越えてきます.すると,


ブレデュールさんは見事見つけたよ.だって,家の庭に着地した瞬間に,鹿皮の靴で卵を踏みつけた.(id.)


 「鹿皮」(en daim)というのは,被毛に白い斑点がある,スウェードの皮だそうです.高級品なのでしょうか.それが卵で汚れてしまうわけです.それにしても,一見無意味で些細なものまで,よく観察しています.ちなみにブレデュールさんの靴は「黄色と青になった」ので,パパはざまあみろとばかりに嘲笑っています.

 これがいけない.絶対に,パパにも何か怒ると思いました.


ブレデュールさんはパパをギロッと睨んで(冗談だよって笑うためじゃないよ),パパを突き飛ばした.パパは尻餅をついて,ギャって悲鳴をあげた.それはね,パパがもうすでに時計を見つけていたからなんだ.でも,その上に尻餅をついちゃったから,ちょっと壊れちゃった.(id.)


 後半部分の原文は次のようになっています.


Papa il est tombé et il a poussé un cri, parce qu'il avait retrouvé sa montre, qu'il a un peu cassé en s'assayant dessus.


 この箇所はフランス語の時制に注意しないといけません.「パパは尻餅をついた」→「パパはギャって悲鳴をあげた」.この順序は良いのですが,その後の理由説明の部分は「パパはもうすでに時計を見つけていた」と,いわゆる大過去形になっていますので,「尻餅をついた」り,「悲鳴をあげた」りする前に,時計が目に入っていたんです.ですから,パパは尻餅をつく瞬間に,どこに(時計の上)尻餅をつくか,そしてついたらどうなるか(時計が壊れる),わかっていたんです.わかっていたのに,尻餅だから防ぎようがない.壊れることがわかっていても,尻餅をつかないわけにはいかない.尻餅をついたらそこに時計があって壊れちゃったというのなら仕方ない.諦めもつく.でも,事前に時計が目に入っているのに,やっぱり防ぎようがなくてその上に倒れてしまうのでは,やるせなさの度合いが違います.悔しさ倍増.可哀想なパパ・・・.やっぱり人を呪わば穴ふたつ.ブレデュールさんに意地悪な笑いなんてするもんではありません.(続く)


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