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『プチ・ニコラ』(210)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 2022年5月20日
  • 読了時間: 6分

« La tondeuse à gazon », HIPN., vol.2, pp.342-349.

 動詞tondreは「〔織物・動物の毛などを〕刈り込む,短く切る」という意味で,その名詞形tondeur, -seはそれをする人を表します.でもよくあることですが,女性形の名詞で機械を指すので,tondeuseは「刈る機械」.gazonが「芝生」ですから,芝を刈るための機械というわけで,「芝刈り機」.そういえば,フランスに行って初めてtondeuse「〜を刈る機械」が,à gazonがついていなければ,床屋で使う「バリカン」であることが分かり,妙に感心したのを覚えています.そりゃそうですよね,ボーボーに生えたものを刈り取るんですから.

 というわけで,今回はパパがお隣のブレデュールさんに頭を下げて!芝刈り機を借りて,庭の芝を刈る話.だったら問題ないのですが,もちろんそんなにそんなにすんなり行く訳もなく,パパがお隣のブレデュールさんに頭も下げなければ,芝刈り機も借りず,ボーボーに草の生えた庭の手入れもしない話です.

 とにかくパパはめんどくさがり.庭の芝を刈りたくない.休日は肘掛け椅子かソファで新聞を読んで日頃の疲れを癒したい.それが唯一の望み,のようです.ちなみにパパが芝刈りを嫌がる理由は幾つかあるようなのですが,『未刊行集 第3巻』*に収録された,『プチ・ニコラ』の記念すべき第1話「復活祭の卵」では,「復活祭の卵がすぐに見つからないように隠すため」とされているので,パパはパパなりの理由があるようです.もちろん,言い訳とか口実であるとしても.復活祭が終わったらすぐに作業にかかるということもなさそうですし.

*Le Petit Nicolas Le ballon et autres histoires inédites, IMAV éditions, 2009, p.26.

 他方で,パパに芝刈りを頼むママンにもやっぱり理由がたくさんあります.


ママンがパパに,「芝刈りをしてくださいな」と頼んだ.「庭がまるで空き地みたいになったら恥ずかしいでしょ!」パパは芝刈りをしないですむよう,いつでも言い訳を見つけるんだ.でも実際のところ,単にパパはしたくないだけ.(p.342)


 いつものように観察の鋭いニコラです.パパの捲し立てる「言い訳」(複数形)の数々にも騙されず,ちゃんと真意を見抜いています.「単にしたくないだけ」.

 ところが今回パパは言い訳を一切しませんでした.なぜなら,ずばり芝刈り機が壊れていて,しかも新品を買おうにも日曜日でお店が閉まっているから.これ以上の口実はありません.と,パパは勝ち誇ったことでしょう.ところが,こともあろうか,ママンはブレデュールさんに借りてきたら,と提案します.ところがパパとブレデュールさんは目下ケンカ中で口もききません.いやこれは正確ではなくて,二人が口をきくのは,ほとんどケンカ(口論)中だけなのでは?そこでママンはニコラに借りて来させようとします.パパ曰く,「ブレデュールのやつが,借りたがっているのが俺だとわかったら,どう言って断るか見ものだな.」(p.342)というわけで,借りれるわけがないとたかを括って平気の平左.高みの見物.そのままソファで寝てしまいます.

 ママンに言われたニコラがブレデュールさんの家へ行くと,ブレデュールさんは貸してくれる代わりにパパへの伝言を頼みます.「男なら,自分の用事くらい自分で果たしに来るんだな!」KYニコラ,もちろん,そのまま伝えてしまいます.多分,一言一句間違えずに.そのくらいのことはやりかねん.イラスト1/3です.



 あ〜あ,またいつもの挑発です.パパがのらないわけがない.それに昼寝を邪魔されたんですから,機嫌ももちろん悪い悪い.すぐに,ニコラを連れてブレデュールさん宅に乗り込みます.ブレデュールさんの応対もすごい.「家に乗り込んでくるなんて,大胆不敵もいいところだ.犬でもいりゃ,けしかけてやるとこだ!」(p.344)

 二人はいつものように,子どものケンカを始めます.子どものケンカということは,つまり揚げ足取り.言われたことを繰り返す,喩えていうなら,お前のカーチャン,でべそ!に対して,お前のカーチャンこそ,でべそ!と返すような.

 そこで「犬」と聞いたパパは,犬で返します.


「犬だと?」パパは鼻で笑った.「哀れなやつだ.犬がお前になんかなつくもんか.犬には本能ってもんがあるからな.」

「間抜けめ!どっちみち,俺なら犬も飼えるし養ってもやれる.あえて名前は出さんが,誰かさんとは違ってな.」

「バカ野郎め.犬の一匹くらい,俺だってどうとでもなる.血統書付きだっ大丈夫だ.俺が飼ったら,うまくしつけて,近所のバカ者どもを噛ませてやるんだが.」(p.344)


 二人とも・・・大人になれよっ!もうすでに本題が見失われています.でも,この「犬」論争を聞いていたニコラが横からツッコミを入れます.「ほんとに?家で犬飼っていいの?」(id.)さすがKY.雰囲気,文脈,パパたちの剣幕そっちのけで,文字通り,言葉通りにしか受け取っていません.そんなの真に受けないだろー,普通.イラスト2/3です.


 眉間を釣り上げ,すごい剣幕のパパとブレデュールさん.犬を欲しがるニコラ.吹き出しの中の犬が「血統書」付きには見えないですが,それは置いておくとして.ところでニコラが涙か汗を浮かべて,必死に訴えているようです.これは次の場面を重ね合わせた表現でしょう.

 つまり,ニコラは喜び勇んで,ママンに報告にゆく.家で犬を飼うなど寝耳に水のママンがニコラと一緒に戻ってきて,パパに問いただす.


「犬ってどういうことですの?」

「犬〜?何だ,犬って?」

「パパが買う犬だよ.家に来るやつ.お回りして,近所のバカ者どもを噛むやつさ.ランスロって名前をつけるんだ.」と,僕が説明した.(p.346)


 ニコラは一所懸命説明しますが,パパは家に帰れの一点張り.横で聞いていたママンも,「私,家に動物がいるのが嫌ってご存知でしょう?」と,まるで状況を把握していません.パパに再度怒鳴られたニコラは泣き出してしまいます.これが上の涙の理由です.でも,ママンがいないので,やっぱり2場面in oneのイラストでしょう.

 次いで,泣き出したニコラを見て,売り言葉に買い言葉.今度はブレデュールさんにママンがくってかかり,それを聞いたブレデュールさんの奥さんが加わって・・・.イラスト3/3です.



 あわや大惨事となるところでしたが,そこはそれ,いつものように,ママンがうまく仕切って,全員を仲直りさせます.何と,しまいにはパパとブレデュールさんまで握手して大団円.素晴らしい!

 と・こ・ろ・が,です.このまま終わったら『プチ・ニ』じゃない!ということで,ニコラたちが戻ると,すぐにブレデュールさんがやってきます.ニコニコして.手に芝刈り機を持って.おぉ!仲直りの印ですね.いつもケンカしていてもやっぱりいいとこあります.


「そんなこんなで,本題を忘れているぞ.芝刈り機だよ.お前ん家の芝生用のな.」(p.348)


 誰がどう読んだって,この状況なら,仲直りの印でしょう.いいやつですよ,ブレデュールさん.何も言わずに,貸してくれるんだから.それなのに・・・


そこでパパがすっごく怒りだしたんだ.パパはブレデュールさんに,「何,首突っ込んでるんだ!お呼びじゃねーんだよ!それにな,芝刈りしたくなったら,自分で一台買うっつーんだ.近所のおバカに頭下げて借りたりしないんだよ!まったく,冗談じゃない!」,だって.(p.349)


 ケンカをするほど仲がいい.そりゃそうなんですが,ブレデュールさんが一つだけ理解していなかったこと.それは,パパが本気で芝刈りが嫌いだったということでしょう.いつも並べ立てていた,いわゆる「口実」は,その場しのぎの言い訳じゃなかったんです.ほんとうに嫌だったんです.


それでパパとブレデュールさんは,またもや口を聞かなくなったんだ.(p.349)


 人の親切を仇で返すとか,情けは他人のためならずとか,色々あるのですが,他人を知るというのは本当に難しい.

 
 
 

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