« Le Nez de tonton Eugène », t.II, pp.12-19.
題名は「ウジェーヌおじさんの鼻」ですが,そもそもウジェーヌおじさんって誰?鼻がどうしたの?,と???だらけです.
『プチ・ニコラ』はニコラが日常生活を説明するというお話ですから,当然,ニコラの身の回りで起きる出来事や人物を中心に描かれます.そしてそれぞれの登場人物が一つの特徴を与えられていて,その特徴が何度も繰り返し紹介されます.例えば,アルセストといえば食べ物,クロテールといえばクラスでビリ,アニャンはクラスで一番で先生のお気に入りなどなど.ところが数多の登場人物の中でも一度だけしか登場しない人,あるいは名前だけが出てくる人なども時折見かけます.そうした人々は,お話の中では重要な位置を占めるのに,特徴や性格はというと,あまり詳しく語られないことが多い.例えば(20)で出てきた生徒監(見張り役)の「ムシャビエールさん」,それから,(18)に登場する「ボルドナーヴさん」などは他所ではほとんど出てきません.ですから私は長らく「ウジェーヌおじさん」もそんな名前だけの脇役の一人なのかと思っていました.ところが,2004年に『プチ・ニコラ未刊行作品集』の第1巻*(全2巻)を手にとって驚きました.そこに「ウジェーヌおじさん」というお話が収録されていたからです**.
*Histoires inédites du Petit Nicolas, IMAV éditions, 2004.
**「ウジェーヌおじさん」(『プチ・ニコラ サーカスへいく』,小野萬吉訳,偕成社,2006,<かえってきたプチ・ニコラ②>に収録).
それで今回のお話がよくわかるようになりました.今回のお話で,ニコラは学校へ行く途中,ショーウィンドウで見かけたおもちゃの赤い鼻を買ってくれとパパにせがみます.パパは一旦は無駄遣いを戒めるのですが「ウジェーヌおじさん」の名前を耳にすると,急に態度を変えて買ってくれることに.一度は渋っていたのになぜ?と思っていたのですが,その謎は「ウジェーヌおじさん」というお話で解けました.ウジェーヌおじさんはパパの兄弟(たぶん弟)で,いつも会えば二人で冗談を言いったりふざけたり.それも周りに迷惑をかけるほどの悪ふざけばかりしている,すごく仲よしの兄弟だからなのです.
もしかしたら鼻をせがむニコラにも,ウジェーヌおじさんの名前を出せば・・・という戦略が働いたかもしれません.そしてまんまとうまく「鼻」をせしめるのです.というわけで,ここでは「ウジェーヌおじさん」は登場せず,おじさんの鼻に似た,おもちゃのつけ鼻がお話の中心となります.それにしても,「大きくて,真っ赤な鼻」をみて「ウジェーヌおじさんの鼻みたいだ!」とニコラが叫んでいるので,是非ともおじさんに会ってみたいものです.実際に会ったら,まず鼻をみちゃいますよね,きっと.
「ウジェーヌおじさん」の名前を聞いて浮かれたパパは,自分でも鼻をつけて鏡をのぞき,ますます上機嫌.ニコラも鼻をつけてウキウキ.ついでに店員さんも鼻をつけてニコニコ.そんな幸せな店内の様子が1枚目からうかがえます.
学校では鼻で問題をおこさないようにと,パパは一応の注意をしてニコラと別れて会社へ向かいます.そしてパパの予告通り,ニコラは鼻をつけて学校で数々の問題をおこしてしまいます.パパの言葉はいつも裏切られる.それが『プチ・ニコラ』の法則ですから.まずはウード.ウードといえば,友だちの鼻に一発くらわすのが愛情表現の乱暴者です.で,ウードともめた後に,ル・ブイヨンに注意され,友だちたちもみんな居残りを言い渡されます.あぁ,もうすでに鼻が折れてます・・・.
教室に戻ったニコラはアルセストの挑発にのって鼻をつけ,今度は担任の先生を怒らせてしまいます.
3枚目は仲間内でふざけている場面ですから,きっとお話ではこの教室での出来事の前のことです.それにしても,ニコラの選び方は抜群だったということでしょう.鼻をつけるとル・ブイヨンさんと担任の先生を除いて,みんなが笑い転げていますから.
でも,叱られて泣き通しだったニコラは家に帰っても顔が青いまま.心配したママンに諸事諸々説明するのですが,ママンは何が何だかわかりません.そりゃそうでしょ,いきなり学校で,「ウジェーヌおじさんの鼻が・・・」と言われたって,何のことだか・・・.それでパパが帰ってきて相談すると,さすがパパ!万事お見通しです.
「ほら,やらかしたか!とパパが言ったのです.そうだと思ったよ,だから前もって言っておいたんだ!あのおっちょこちょいのニコラのやつ,ウジェーヌの鼻で揉め事起こしたんだろ?
これを聞いて僕らみんな怖くなっちゃった.だってママンの調子が悪くなってお医者さんを呼ばなくちゃならなくなったんだからね.」(p.19)
ママンはいつでも,パパとウジェーヌおじさんの悪ふざけの犠牲者なのです.
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