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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(208)

« La pétanque », HIPN., vol.2, pp.328-335.

 パパがリッチなジョフロワがまたもや学校へ何か大きな包みを持ってきました.自慢げに.この度は(一部で)フランスの国民的スポーツともいわれるペタンクでした.私は自分ではほとんどしたことがないのですが,でも,色の剥げていない新品のペタンクの球はさぞ美しいのではと想像します.それにもう一つ,ペタンクというと鉄の重たい球を想い浮かべますが,朝,学校に,小学生のジョフロワが持ってくるくらいですから,今回は全て木製のペタンクのようです.木製でも,相手の球を弾いたり,勢いよく投げることができるのでしょうか.きっとできるのでしょう.私は自分ではほとんどしたことがないので,わかりかねますが.

 そういえば以前,(122)でニコラはマリ−エドヴィージュとペタンクをやっていました.そこでも私の妄想と合わせて説明を書いておいたので,どうぞご一読を.

 背景に校舎が見えますから,まごうことなく,学校の校庭です.生徒たちが見守る中,ブイヨンさんが球を投げようとしているところです.横にいるムシャビエールさんも左の後ろ手にボールを手にしています.この持ち方,それから投げる直前のブイヨンさんの,手のひらにボールを上向に持つ仕草,これらはともに,これぞペタンク!という姿です.しかし,的球(cochonnet)までだいぶ距離があります.これは文によると,ウードがむちゃくちゃ遠くに投げてしまった結果のようです.散らばる球のほとんどは黒に見えますが,緑や黄色の球だそうです.ブイヨンさんが投げる方向のさらに先には,食べ物を口にするアルセストが.ところが!今回はアルセストが2人?!?何やら兄弟アルセストが2人で何かむしゃむしゃ食べています.観衆の子どもたちのほとんどは,息を潜め固唾を呑んで,ブイヨンさんの投球に集中しています.しかしブイヨンさんとムシャビエールさんの背後では,子どもが2人,殴り合いをしています.穏やかでない.文章では,2人の生徒監がくる前に,ニコラたちがさんざん大騒ぎして(大騒ぎしていたから2人がきた!),ボールの取り合いやら,的球の設置やらで時間を潰し,ケンカをしていたので,実は前のケンカの場面が,後の大人がペタンクをする場面に重ねられて1枚のイラストになっているのです.2場面を1枚に描きこむというのは,『プチ・ニ』の読者にはなっかなかお馴染みなイラストです.いつもはもっとはっきり,異なる場面が共存しているのでわかりやすいのですが((70)とか(119)とか,もう無数にあります),今回は随分と控えめな表現と言えるでしょう.

 さて,あらすじについては,オチを除いて↑で記した通りなので,文の方はごく簡単に見てゆくだけにしましょう.

 まずジョフロワがペタンクを持って登校してきます.持ってきたばかりの大きな包みについて聞かれても,「ジョフロワは秘密にするのがすっごく好きだから(まったく,イライラさせられるよ!)」(p.328),休み時間にならないと教えてくれません.でも,まぁ,すでに書いた通り,ペタンクです.それで遊ぶことになりますが,ジョフロワはウードを指名して2人組になり,赤い球のチームとなると宣言します.赤は多分,目立つから.ウードの御指名はウードがスポーツが得意で勝てるから.なかなかの策士です.それでまずひと揉め.ムシャビエールさんが駆け寄ってきて,ケンカを止めたついでに,ペタンクもやめさせようとしますが,後からきたブイヨンさんから許可がおりてしまいます.これがp.329で,続くpp.330-331の見開き2ページに↑のイラストが配置されているので,ここで2人がペタンクを乗っ取るかと思いきや,2人はそのまま去ってしまいます.

 そこでまたもやニコラたちだけの協議が始まります.ペタンクをやる前の協議で,あえて書くなら,競技の前の協議といったところでしょう.・・・.

 いよいよ競技開始ということで,ウードがまずは的球を遠く遠くへ投げてしまいます.あまりに遠すぎたため,球を「投げる」(pointer)か,「弾く」(tirer)かで,またもや論争が起こります.ちなみに「投げる」というのは,自分の球を投げて的球に近づけること,「弾く」というのは,自分の球を相手の球に当てて弾く(押しやる)こと,だそうです.最後に的球に球が近かったチームが勝つわけですから,かなりシンプルなルールと言えそうです.

 ニコラたちが殴り合い,怒鳴り合いをしているところへ,ムシャビエールさんが再登場.ケンカを止めようと仲裁に入ります.ほらやっぱり,こいつら,騒ぎを起こしちゃったよ的な.ついでにブイヨンさんも到着.ニコラたちは2人にケンカの説明をします.それを聞いていたブイヨンさんは・・・


「ジョフロワがいけないんです!」ウードが大声を出した.「僕が投げるって言うのに,やつはここは弾くんだって言いやがって.」

「何,投げる?」と,ブイヨンさんはびっくりして聞き返した.「ダメダメ.おいおい,ここは弾くんだよ.」

「ほらな.わかったか,わかったかよ.」とジョフロワがウードに叫んだ.(p.334)


 ここでムシャビエールさんがジョフロワとウードを制止しますが,珍しく自分の意見を言ってしまいました.


「2人とも黙りなさい!」と,ムシャビエールさんが大声を出した.「意義を唱えるつもりは毛頭ありませんが,デュボン先生〔ブイヨンさんの本名です〕,私は・・・そのう・・・ここは投げる方が無難かと.弾くには,ちょっと遠すぎますし,それにこの木製の球では,そのう・・・.いえね,私は,ヴァカンスのときにね・・・」

「おやおや,ムシャビエール君,本気で言っとるのかね?ここを切り抜ける方法はただ一つ.わからんかな.ここで弾かねば,失点確実だ.間違いないね.」

「いやいや,ここであの球を弾くのは絶対できません!」と,ムシャビエールさん.

「できないかどうか,見せてやろうじゃないか.」と言いながら,ブイヨンさんはジョフロワの手から球を奪い取った.(p.335)


 ということで,↑の場面に至ります.そこへ校長先生が通りかかり・・・.校長先生曰く,試合の続きは「校長室で」となりました.ここからニコラのいつもの妄想が始まります.


それでね,きっと,校長先生が勝ったんだよ.だって,次の休み時間に,ブイヨンさんとムシャビエールさんはすっごくがっかりしたような顔をしていたもん.(p.335)


 「がっかりしたような顔」(des têtes bien ennuyées)はennuyer「困らせる,心配させる,退屈させる」という動詞の過去分詞形で,「困った,当惑した,心配した,退屈した」という意味になります.校長先生に叱責されてブルー入っていたわけですが,ニコラの解釈によれば,勝負に負けたから首をうなだれがっかりしていたように見えたわけです.

 あらすじ(ストーリー)もオチも実にあっさりしたお話ですが,フランス語のennuyerのニュアンスを知るには,面白い事例(勘違い?)ではないかと思うのです.

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