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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(207)

« Le réfrigérateur », HIPN., vol.2, pp.320-327.

 フランス語を習いたての頃,le réfrigérateur「冷蔵庫」の発音に苦労しませんでした?省略したfrigoの方がよく使われるし,発音しやすいし,覚えやすいしで,それならなぜ,rérrigérateurが残っているんだろ?本当に覚えなきゃいけないのかな?など,何度思ったことか!未だに,prestidigitateur「手品師」と合わせて,二大発音困難ワードです.prestidigitateurだって,magicienとほぼ同じ意味なのに.

 そんな発音上の難点はとりあえず置いておくとして,réfrigérateurはréfrigérerという動詞から派生した語であるのは,すぐにわかります.réfrigérerといえば,「冷却する,冷凍する」という意味で,手元の『ロワイヤル仏和中辞典』には「cf.congeler」つまり,congelerと比較せよと出ているので,そちらをみると,congeler「凍結させる,冷凍する」とあります.ところが,réfrigérerの方もcongelerの方も,出ている例は一緒で,「〜de la viande,肉を冷凍する」.それじゃ「比較」にならないじゃないか!とツッコんでしまいました.確かに,フランスでの生活経験からすると,le réfrigérateurは「冷蔵庫」で,congelateurはむしろ「冷凍庫,フリーザー」.「冷凍食品」はsurgeléで,その元になる動詞はsurgelerで「急速冷凍する」.なんだか,どれも似たような気がするんですが,日常の場面では使い分けがあるようです.ちなみに語源を調べてみると,refrigerare(« refroidir, rafraîchir »)<re-+frigus, -oris,そしてcongelerはcon-+gerare(« descendre à une température qui provoque le gel »)でだいぶ異なります.そうか,congelerの元はgerareだから,今アイス(・クリーム)を指す「ジェラート」や,ゼリー状のものを指す「ジェル」と語源が同じなのですね.なるほど.冷たくして,固める(凝固させる)ということでしょう.でも,結局のところ,現代の使い分けまでは分かりませんでした.慣れて使い分けるしかない!のかなぁ・・・.

 ややっ!本文冒頭にはもう一つ,glacière「冷凍庫,冷蔵庫,アイスボックス」を意味する語が使われているではありませんか!それも,本文ではréfrigérateurの言い換えとして.謎は深まるばかり.

 今回はニコラの家に「新しい冷蔵庫」が来るお話です.「新しい」とあるところから,これまでに既に一台あって,それを買い替えたということでしょうか.でも,テレビ,洗濯機,冷蔵庫という三種の神器が普及するのが,ちょうど連載の頃の1950年代末から1960年代にかけてのこと.やっぱり,ニコラの家でも初めての冷蔵庫に興奮しているのでしょうか.(15)や(197)でも冷蔵庫が登場するのですが,今の『プチ・ニコラ』の版本では,雑誌での掲載順序が分からないので,こういうときには困ります.

 いずれにせよ,新しいものを買ったりすると,嬉しくて自慢したくなるものです.

 

木曜日,昼食のすぐ後で,男の人たちがトラックから冷凍庫を出してきたのをみて,パパが大声を出し始めた.

「ブレデュール!おお〜い,ブレデューーール!早く出てこいよ.」(p.320)


 こともあろうか,パパ,家族へのお披露目の前に,ブレデュールさんに自慢しようと大声で呼びつけます.そういえば,テレビを購入したときにも(96),ブレデュールさんをわざわざ呼び出して自慢していました.前話のバーベキューセットのときもそう(206).反対に,(202)では,ブレデュールさんが8ミリを買って見せびらかしにきていました.まったくこの二人は!完全にガキです.

 見せびらかしたいだけと思いきや,パパは,今日は早めに帰ってきて,「好きなだけ氷を入れたアペリチフ」をご馳走しようと提案するので,やっぱり二人は仲がいい.お互い様ってところでしょうか.でも,親切心をおこすとしっぺ返しを食うのがパパと『プチ・ニ』の法則です.それはオチのところで.

 冷蔵庫が設置され,ウキウキのパパは今日はいつもより早く帰るようにするよと言って会社に戻ります.ママンは買い物があるということで,ニコラはアルセストとお留守番をすることに.冷蔵庫→アルセストというのが,食べ物ネタ繋がりで,十分に予想できるところ.

 案の定,ニコラはアルセストに新しい冷蔵庫を見せびらかし(イラスト1/4),アルセストは中の食べ物の点検をします(イラスト2/4).冷蔵庫そっちのけで.

 

「何して遊ぶ?」と,アルセストが僕に聞いた.

「新しい冷蔵庫を見にこいよ.」と,僕が答えた.

「新しい何だって?」

「新しい冷蔵庫だよ.冷凍庫の中が光るんだよ.」と,僕が説明した.

「お肉屋さんのやつみたいに?」(p.322)





 なるほど,イラスト2/4をみると,上の製氷機のところに確かに灯りがついています.でも,アルセストの関心は食べ物のみ.

 そんな食べ物にしか興味のないアルセストに,ニコラもやはり相変わらずのKYぶりで,誰も聞いていないのに,一所懸命説明を続けます.


「それにさ,ほら見てよ.ドアがほとんどひとりでに閉まるんだ.」

 そう言って僕はドアを押した.カチッという音がして,元通りに閉まったよ.ちょっとパパの車のドアみたい.でもパパの運転席側のドアはそんな風には閉まらないんだ.事故があってね.でも事故って言っても,相手が悪いんだ.警察の人はパパのせいだっていうんだけどね.(p.323)


 これから二人で開けたり閉めたり.よほどツボにハマったのでしょう.


アルセストがやってみたいって言って,ドアを開けたんだ.面白かったよ.僕が閉めて,アルセストが開けるんだ.(id.)


 そんなことしていて怖さないかな〜と,読む方はハラハラしています.イラスト3/4はまさにこの開けたり閉めたりごっこの様子です.



 繰り返される開け閉めを1場面で表すのは確かに難しい.まるでブレた写真のように扉がいくつも描かれています.

 ニコラはいつまでも冷蔵庫を見ていたかったようですが,アルセストが自動車を持ってきたので,部屋で遊ぶことに.その後,電動の列車に切り替えます.


僕ら,電動の列車を走らせるレールを敷いて,列車と車両をつけて遊んだんだ.車両といっても,一つだけ残っているやつで,まだ車輪が全部ついているやつさ.もちろん,もう列車はね,電気では動かないんだ.パパが遊んでいたときに,でっかい火花が散ってさ.それが最後だった.(p.324)


 電動のはずですが,多分ショートか何かして,もう動かないようです.これはおそらく,(116)でも触れられた,BD版のエピソードのことでしょう.


マンガ版(BD版)『プチ・ニコラ』(p.15)*.

*本ブログでもたびたび触れていますが,マンガ版については,以下の論考で紹介しています.https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00051038

 動かなくなった電車の修理をしようとして,ショートさせ,挙げ句の果てに,ヒューズを上げに地下室に行って,階段から落ちて怪我をしてしまう話です.ニコラは,パパの失敗はよく覚えています.

 電車の小ネタを挟んだ後,またもやアルセストの提案で,冷蔵庫に入っていたチョコレートケーキを食べに行きます.しかし・・・


僕らは下に降りて台所へ行った.冷蔵庫のドアは,わざわざ開けなくてもよかったよ.だって,さっき開けっ放しにしちゃってたからなんだ.僕らはチョコレートケーキの端っこをちょっとずつ掴んで,指で直接切って分けた.ハンカチで指を拭いたけどさ,その後ハンカチが鳥肉の上に落ちちゃった.(p.324)


 もうやりたい放題です.ついでに,アルセストのさらなる提案で,灯をつけずにドアを開けた状態にするという高度な?技に挑戦することになりました.でも何度やっても,ドアを開けると灯りがついてしまう.しかしニコラが解決策を思いつきます.「電動の列車と同じだ.電源を抜くしかないな!」(pp.324-325)そりゃそうでしょ.それなら消えます.そこへママンが帰ってきたので,二人はそのまま抜いたままで放置.でも,パパが帰ってきたところで,電源のことを思い出し,ニコラは急いで台所へ走って行って,危うくセーフ.見つからずに,元通りに接続します.

 今日ばかりは,早退けまでして,楽しみに帰ってきたパパ.冷蔵庫を開けると,イラスト4/4です.



 ガーン・・・不良品だった・・・後ろでは,ブレデュールさんがグラス片手に氷を待っています.それとも,氷ができていないじゃないかと,不良品をつかまされたパパを嘲笑っているのかも.いずれにせよ,パパの怒り心頭に.


ブレデュールさんは台所の流しに保たれて,大笑い.あんまり笑ったものだから,しゃっくりまでしていたよ.パパは冷蔵庫を買ったお店に電話して,怒鳴りまくったんだ.「明日の朝,冷蔵庫を交換するか,修理しないなら,大ごとにしてやるぞ!」パパはすっごく怒っていたよ.(p.327)


 これを見ていたニコラの感想で本話は締めくくられます.


本当にパパの言う通りだよ.だって,まったく,冗談じゃないよ.そりゃね,ドアを開けると小さな灯りがついてさ,そりゃきれいだよ.でもね,氷ができないんじゃ,そんな冷蔵庫,一体何の役に立つっていうんだ!ねぇ,そうでしょ?(p.327)


 口調(文体)からすると,ニコラもすっごく怒っているようです.パパのために,一緒になって本気で怒るニコラ.麗しい親子愛,と言いたいところですし,どうやらニコラは本気でそう思って怒っているようなんですが,でもねぇ・・・.これでお店の人が来て,正常であることがわかって,またパパが恥をかく.そんなパターンでしょうか.

 ニコラ,相変わらずやってくれます. 

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