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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(206)

« Le barbecue », HIPN., vol.2, pp.314-319.

 barbecueは語末が-eなのに男性名詞で,発音も英語風に「バーベキュー」.フランス人の口に登ると,英語というより英語を真似した感じ.聞きようによってはちょっとすかしたような.それはともかく,日本でも最近(2022年),キャンプとか,ソロキャンプとか人気ですから,BBQセットなんてのもよく見かけます.お店で炭火で焼肉というのもたまにはいいですが,用意があって多少の不便はあるけれど,青空の下,友人たちとBBQなんてのも,やっぱりたまにはしたくなります.それにしても,綴り字と発音の違和感から,うすうす英語起源だろうとは思っていましたが,今回調べたら,フランスでの最初の用例が1913年で綴りもbarbacue,その後1954年には現在のbarbecueの綴りが確認されるそうです*.

*Alain Rey direction, Le Robert Dictionnaire historique de la langue française, t.I, 1998.

 1938年の用例では「アメリカにおいて,ピクニック」の意味だそうです.つまりアメリカ英語からの借用だったわけです.元の英語はハイチのアメリカインディアンの言葉のbarbacoaで,焚き火の上に肉をかざして乾かしたり,燻製にするのに掛けておく木の杭なんですって.それはともかく,18世紀のアメリカでは特に「肉を焼くピクニック」を指す用法が出てくるので,現在の日本語,フランス語でいうBBQはこの用法が直接のご先祖様となりそうです.

 ですから,今回のお話では「焼肉」というよりは,「ピクニック」と結びついているのがミソです.『プチ・ニ』の連載時期を考えれば,1950年代のフランスでは,この語にピクニックの意味が強く残っていたのでしょう.繰り返しになりますが,焼肉じゃなくて.オチもその方向で設定されています.

 さて,今回はバーベキューセットを買ったパパが庭で焼肉をすることを提案.なぜか,いつもよると触るとケンカばかりのブレデュール夫妻も招待することに.もちろん,新しいものを買ったので,自慢したいというパパの魂胆ミエミエですが.


パパが大きな包みをたくさん抱えて嬉しそうに車から降りてきた.「よしよし.準備万端.明日は庭でバーベキューだ.」

「バーベキューって何?」と,僕が聞いたら,ママンが説明してくれたんだ.なんでも外でお肉を食べたい人たちのための,外でお肉を焼く道具のことなんだって.

「ピクニックみたいな?」と,僕が言った.そしたらパパが答えてくれた.

「まぁ,大体そんなようなものだな.」

 それで僕はすっごく喜んだ.だって僕はね,僕はピクニックが大好きなんだ.(p.314)


 大人の誰かが発した言葉が罠になるという,『プチ・ニ』のいつものパターンからすると,ここでピクニックを指して,「まぁ,大体そんなようなものだな」という発言に注意すべきでした.しかしまさかそんな展開(オチ)になるとは・・・.全く予想がつきませんでした.

 そりゃね,2枚あるイラストだけ見れば,乗り気のパパは失敗するという鉄則通りだと思うわけで,実際その通り,焼肉は大失敗に終わるのです.まずは,見てみましょうか?イラスト1/2です.


 炭火で真っ黒になったパパを見て泣き出すニコラ.

 イラスト2/2は,

 ひどい煙.通りすがりの夫妻もハンカチで口を押さえるほど.こんなはずじゃなかったと,くず折れ跪くパパ.立て!立つんだ,ジョー!真ん中ではパパを揶揄うのが大好きなブレデュールさんが,そんなパパを見て大笑い.相変わらず意地悪というか,仲がいいというか.その横にいるのは,事態が把握できていないでキョトンとしたママン.左奥にはもう一人の隣人,久しぶりに登場したクルトプラックさん.煙を見てわめいています.喚いた内容は何となく想像がつきますが.

 というわけで,題名の「バーベキュー」が失敗に終わる,目的に達しないという,これまた『プチ・ニ』によくあるパターンのお話だと思うでしょ?実際そうなんですが,今回はちゃんと別のオチも用意されていました.

 

翌朝,パパは庭でバーベキューセットの用意を始めた.どうやって組み立てたらいいのか,説明書を読んでいたよ.パパの姿はちょっと可笑しかったね.だって,パパはママンのエプロンをつけていたから.真っ赤なやつでさ,周りにひらひらがついているんだ.(id.)


 組み立てるの,そんなに複雑なんですかね?

 ほどなく,ブレデュール夫妻登場.相変わらず,すぐにパパとケンカを始めそうになります.危うくケンカになりそうな雰囲気の中,ニコラがガレージから湿った薪を持ってきます.何でも,パパがガレージで車を洗った際に,水浸しにしてしまったそうです.すかさずブレデュールさんが笑い出しますが,意地になったパパは炭と紙と湿った薪でつけてみせると始めますが,ま,だめでしょう.

 火がなかなかつかず,パパは吹いたりしますが,そんなことするから炭が舞う,ついでに炭のついたエプロンで顔を拭く.もう大惨事です.↑のイラスト1/2がそれ.ニコラは泣かせるし.見かねたママンが一旦,家の中にパパを連れてゆきます.その間にブレデュールさんが火をつけておいてくれました.パパ不機嫌.それにしてもすごい煙.というわけで,ママンがまたもやパパを連れて家に入ります.また戻ってきたけど,もうサラダは真っ黒.

 そのうち,反対隣のクルトプラックさんが煙の抗議にやってきました.もう怒りで我を忘れたパパは,そんなこと言われる覚えはない!とばかりに,ケンカを始めます.


「俺は自分の家にいるんだ.どんだけ煙を出そうが俺の自由だ.煙が嫌なら,息を止めとくんだな!」

「訴えてやる!」と,クルトプラックさんが怒鳴った.「私にはコネがたくさんあるんだからな!」

「訴えられるもんなら訴えてみろ!」と,ブレデュールさんが答えた.「俺の友だちはお前なんか怖くないんだ.やれ!訴えてみろ!呼びたきゃ警察を呼べよ.俺の友だちは気にしやしないよ.」

「いや,あの,その・・・.ブレデュール,奴は放っておけ.もう十分だって.」と,パパが言った.

「だめだ,だめだ.なぁ,わが友.」ブレデュールさんは本当に怒っているみたいだったよ.「それにな,あんた,俺の友だちがいつもあんたのことなんて言っているか知ってるか.俺の友だちはな・・・」

ここでパパが叫んだ.「ブレデュール!もうやめとけ!!!」(p.319)


 ブレデュールさん,筋金入りです.もう,パパを困らせることとなったら,どんな手も思いつく.素晴らしい・・・.こんな時ばっかり「俺の友だち」って言葉が何度も何度も出てきます.そういえば,フランスにいたときに,フランス人が「ごめんなさいよ」(pardon, excusez-moi)って謝罪の言葉を発するときは,謝ってないときだと聞きました.思ってないことを口にするんですな.そういえば,「ごめんよ,ごめんよ」って言いながら,混雑する人をかき分けて進んでゆくフランス人を見ました.謝ってないよな,あれは.ま,とにかく,ブレデュールさんがパパのことを友だち扱いするなら,もちろん,それは罠にはめるというか,パパを困らせるために違いありません.非情な人だ.本当に仲がいいんだか何だか.

 結局,肉は焦げて炭と化し,食べられず.それでもニコラは「すっごく良かったよ」といつもの最上級の賛辞であるchouetteという語を発します.なぜって,


バーベキューがね,本物のピクニックになったからなんだ.ママンは僕らにサンドウィッチとゆで卵とバナナをくれたんだ.それから僕らは急いで家の中に入った.だって雨が降り始めたからね.(p.319)


 一瞬でもピクニックになって良かったですね.それに冒頭で触れたように,言葉の元々の意味からすれば,「ピクニック」の意味があるんですから.それにそれに,雨で火も消え,煙も立たなくなり,クルトプラックさんにも文句を言われることもない.万事丸く治りました.パパの心中は,イラスト2/2↑に.立て!立つんだ,ジョー!

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