« Une surprise pour mémé », HIPN., vol.2, pp.293-301.
「メメにびっくりのプレゼント」.surpriseはsurprendre「驚かす」の名詞形で「驚かすこと,もの」の意味から「プレゼント,贈り物」に転じたことについてはすでに書きました((120), (154)).というわけで,今回はメメを驚かすようなプレゼントが用意されているということで,それは何か,すっごく気になります.そうそう簡単には,メメをびっくりさせられなさそうですから.これ,最後にわかるんです.つまり,話のオチなんですが,テキトーな印象で言うと,こういうオチはこれまでの『プチ・ニ』には,そんなにないような気がします.オチだけに,最後に判明するのは当たり前なんですが,映画の『シックス・センス』みたいに,いわばどんでん返しを売り物にしている作品は,その最後がわかってしまうと,初見は良いのですが,最後わかっているからもう見なくていいかなと,二度と見なくなってしまうような気がするのです.それで世の中的には,ネタバレ禁止なんて言葉がよく使われるのですが,わかりにくいかもしれませんが,私は個人的にはネタバレ大歓迎なんです.ストーリーに気を揉まなくて済むし,ネタバレしたからといって一度見ただけでもう二度と見ない作品には,どうも興味が持てないし.ですから,大概のものはネタはバラしていただいて結構で,場合によっては,ネタがあらかじめわかっているから,すでに見なくていいやと時間の省略になったりします.
それはともかく,今回のお話も最後の「プレゼント」が何か分かってしまったら,もう読まなくていいやとなりそうな型のお話に思えてしまうのです.最後まで,読者の注意を引きずっておいて,いざ明かされると,な〜んだで終わってしまう感じ.今までのお話ならネタバレしても,他に面白いところがたくさんあったような.とはいえ本話ではオチ以外は面白くないとは言いません.そこに至るまでの,イライラ感というか,まどろっこしくてハラハラする感じは,文章にすっごくよく現れていますから,よく書けているなぁといつも通り感心するのですが.これまでと,何が違うんでしょうか?
そんな個人の読後感は放っておいて,本話に入りましょう.今回は,ニコラとママンが電車で,それも二人だけでメメの家に行こうとするお話です.パパは一緒に行かないので,車で二人を駅まで送り届けて,荷物のことやら切符のことやら色々心配して,ようやく列車に乗せて.ところが!・・・という内容です.イラストは今回の選集用に描き下ろされた,新しいものです.本巻で新しいイラストは6話目となります((173), (174), (179), (194), (200)).
ママンとニコラはメメのところへ,二人だけで行かねばならなくなりました.とはいえ,ニコラはメメが(お菓子をたくさんくれるので)大好きですし,大喜びしていますが.でも・・・
パパは僕たちと一緒には来られないんだ.仕事がたっくさんあるんだって.僕が思うに,パパはあんまりメメのところには行きたくないんだ.おばあちゃんはよくパパに怒鳴るからね.おばあちゃんはパパに,「婿殿は本当に性格がお悪いこと.あたしの娘はずいぶんと我慢強いのねぇ」なんて言うんだ.パパはそんなふうに人に言われるのが我慢できないんだよ.(p.293)
そりゃ,パパじゃなくたって,そんなふうに言われるのは我慢できません.それにしても,ニコラはよく観察していますねぇ.口真似までしちゃって.間接話法ですが.
それはともかく,パパが駅まで連れて行ってくれることに.道中長いので,いつも通り((35), (42)), バナナとゆで卵を用意しています.私はゴタゴタと色々買い込んで乗るより,お金もかからないし,このくらいシンプルな方が好みですが,これは超個人的な感想です.
駅へ向かう途中,車の中でパパは色々注意しています.
車の中でパパは僕らにたっくさん注意してたよ.切符をなくさないようにとか,荷物には注意するんだぞとか.それに僕に,ママンと仲良くするんだぞ,ついでにおばあちゃんともな,だって.(id.)
ようやく3人は駅に到着します.最初は切符騒動.よくあるやつです.パパがママンに切符を出すように言って,ママンが持っていないと言うと,パパが怒り出すけど,結局パパが持っていたという古典的ギャグ.それでパパが車に探しにゆく間,ママンとニコラが荷物の番をして待っているというので,イラスト1/3が横に添えられて,それに該当しそうなんですが,どうもニコラ独りなのが気になります.ニコラが独り荷物の脇に残るのは,後でパパが間違えて人の荷物を手に取ったほんの一瞬だけなので,もう少し後でしょう.
パパが車に切符を探しに行きますが,乗ることになっているのは,「その日唯一の特急電車」で,出発時刻が迫っていて,もうママンはカリカリしてます.それでニコラに,パパを探しにやって,ママンは自分で荷物番をすることに.この時には,スーツケース1個と,お弁当のゆで卵とバナナの包みはありました.ニコラは途中の売店で絵本に見惚れてしまいます.販売員のおばさんにも怒られたし.
ニコラが車に着いた時には,でもパパはもういませんでした.何でも,見ていた人によれば,「車の中で一切合切ひっくり返していたと思ったら,『何だ!切符,手に持ってるじゃないか!』と叫んでいた人」がいたそうです.もちろん,それがパパ.その人,つまりパパは駅の方へと走って行ったそうです.
ニコラが荷物のところへ戻ると,パパ曰く,入れ違いにママンがニコラを探しに行ってしまい,もうそこにはいません.ニコラがママンを探しに行こうかと提案すると,迷ってしまうからとパパが拒否.そこへママが駆けてくるのが見えたので,パパは合流しようとしますが,思わず掴んだのが他人の荷物とわかり一悶着.色々,しでかしてくれます,パパは.
前述のように,これが荷物とニコラが取り残された一瞬です.それ以外は,ニコラはママンと荷物番するか,パパと荷物番していますから.
急いでいたママンがケンカを止めて,一行はホームへ.検札を通ろうとした時,パパが荷物を一つしか持っていないことに気がつきますが,もちろん後の祭り.ニコラが探しに走りますが,見つかりません.サヨナラ,ゆで卵とバナナよ.まともに食べられたことがないお弁当たちよ.
パパがニコラを連れ戻しに来て検札を通ろうとすると,検札係がパパの胸に手を置いて静止します.イラスト2/3です.
パパに入場券を要求しているようですが,パパは渡したって主張しています.多分,入る時に切符を渡したのですが,ニコラを探しに出たので,もう一度渡せと言われているのでしょう.確かに係の人はパパのことを覚えているとは限りませんし.
それにしても今の(2022年の)読者には,検札は完全に失われた職業でしょう.もしかしたら,切符というものがあって・・・なんてところから話を始めなければならないかもしれません.検札係のお兄さんが手に持っているのは検札鋏(ケンサツキョウ)で,一枚一枚,穴を開けていたのです.それでお兄さんの足元には,穴を開けた後の屑が落ちています.ちなみにフランスでは,この場面を見れば恐らくはセルジュ・ゲンズブールのデビュー曲「リラ門の切符切り」(Le poinçonneur des Lilas)が想い出されるのでは.
今youtubeを見たら,日本語でも結構カバーされていますね.でも私はサエキけんぞうさんのヴァージョンで覚えています.「穴,穴,穴,穴・・・」には思わず吹き出してしまいました.そんな楽しい歌でもないはずなのに.
話を戻すと,仕方なくパパは入場券を買いに走ります.その間,ニコラとママンはホームで待っている.息を切らして帰ってきたパパは,「あんたらに旅行させるのはまったく,一苦労だな.俺がいなかったら,あんたらどうするんだ」(pp.298-299)だそうです.そんなに言うほどのこと,いったい何したというのでしょうか?
それはともかく,ようやく電車に乗り込みますが,次は席探し.ニコラがようやく見つけた席は,さっきパパとケンカしたおじさんと同じ客室でした.あ〜バツが悪い.
パパが荷物を棚に乗せている間に,ニコラの発案で,ママンはお弁当を買うのに,一旦電車を降ります.サンドウィッチにこだわりのあるニコラがママンの後を追って降ります.ホームの売店では,ママンが売り子と一悶着.お釣りがないとか何とか.そうこうしているうちに,「列車が出発」してしまいました・・・.
ね,随分と引きずるでしょう?電車に乗るだけのことなのに.確かに,目的がはっきりしていても,直線的に進まず,達成できないのは『プチ・ニ』の常道.でも,今回は引きずりすぎなような気がしてしまいます.たかが電車に乗るだけなのに,そんなにあっちこっちしなくても.要するに,長〜いんです.どうも,しつこい感じがしました.
ま,それはともかく,最後は電車からパパが首を出している場面です.
パパは目を丸くしています.ボー然自失.なぜかニコラは微笑んでいます.パパの背後には,先ほどパパを荷物泥棒と罵った挙句,ケンカをしたのに,一緒の客車に乗り合わせたおじさんです.
ホームから,ママンと僕はパパが見えたよ.パパは客室の窓から首を出していた.何やら叫んでいたけど,電車があんまり早く出て行っちゃったから,僕らには何も聞こえなかった.パパの横では,でっかい顎髭のコッテリ太ったおじさんが笑っていた.おばあちゃんはパパを見てびっくりするだろうね.(p.301)
最後の一文「おばあちゃんはパパを見てびっくりするだろうね」(C'est grand-mère qui sera surprise de voir papa !)では,冒頭で触れたように,surprise「プレゼント」の元の動詞surprendreが受動態で用いられています.つまり,メメは「驚くだろう」と.つまり題名の方も,「プレゼント」と訳してはいけないようです.むしろ「メメにとっての驚き」の方が原文に忠実な訳となります.そうなのですが,une surprise pour +人とpourを使っていれば,通常なら「〜さんへのプレゼント」となりますし,「メメの驚き」ならune surprise de méméとなりそうなものです.ですから,ここではわざと二つの意味をかけたシャレにしているようです.メメへのプレゼントとは,もちろんパパ.嬉しくも有り難くもないプレゼントでしょうが.とはいえ,「驚きの」それであることは確かです.う〜ん,オチがシャレになっていて,読者もびっくり,面白くないこともないんですが,どうも本話はしつこくて,回りくどいような.
いつも通り,パパの威張る様子と失敗の連続が笑いどころなのですが,電車が出てしまわないかハラハラさせられた割には,やっぱり予想通り乗り過ごしてしまうし,どうもスラップスティック・コメディー(ドタバタ喜劇)のようで落ち着いて読んでいられなくて.こういうのはむしろ,展開が早いとか,テンポが良いと言って褒めるものでしょうか?
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