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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(198)

« Le stylo », HIPN., vol.2, pp.252-257.

「万年筆」という題を読んでから,次のページのイラスト1/4をみれば,だいたい想像がつきます.

 得意げに万年筆を見せびらかすなんて,あの人しかしません.多分.『プチ・ニ』では.そう,パパがお金持ちのジョフロワが学校に高級万年筆を持ってきて自慢しています.そして『プチ・ニ』ですから,この万年筆をめぐって騒動が起きて,万年筆が壊れて・・・という感じでしょうか.でもやっぱり,オチも気になる.というわけで,レッツらご〜.

 冒頭の文は上手い.よく観察してます.


今朝,ジョフロワが学校の校庭に入ってきて,立ち止まってから,僕らに大声で叫んだ.「おーい,みんな!これ,見にこいよ.」おかしなことに,ジョフロワが学校に何か持ってきた時には必ず,僕らのほうに直接来ないんだ.休み時間に遊ぶ校庭の入り口のところで立ち止まってさ,それで大声出すんだ.「おーい,みんな!これ,見にこいよ.」ってね.それで僕らが見に行くと,やつは万年筆を手にしていた.(p.252)


 「みてみて!」と見せびらかすのではなく,他人の好奇心を煽るために,わざわざ見に来させるなんて,ジョフロワはやっぱり策士です.それにしても,ニコラ,よく観察してます.(174)でもジョフロワのパフォーマンスを観察していました.「ジョフロワは最後に登場したよ.僕らに新しいおもちゃを見せびらかしたいときには,ジョフロワはいつもそうするんだ.僕らを待たせたいんだね.まったくイライラするよ.」「イライラするよ」というのが,好奇心をそそられている証拠.そんなもん羨ましくもないし,見たくもねーよと思いつつも,やっぱり期待しちゃう.そんな気持ちの表れでしょう.

 さてさて,ジョフロワによると,「パパがね,しっかり勉強するんだぞって,万年筆をプレゼントしてくれたんだ」(p.252).それを聞いたクロテールが,実に真摯な,でもツッコミ.「それでやる気でたの?」対してジョフロワ,「まだわかんねーよ.きのうの夜もらったんだからな.」そんなもん,いざ教室で握らなくたって分かるでしょうが,とツッコミたくなりますが,それはさておき,ペン先は「金」だそうです.ここで,万年筆で書いたことのない人(日本では多いのでは?),わかりますか,金のペン先で書いた時の滑らかさ?なんともいえない,滑るような心地よさ.サラサラサラ・・・ススス〜.ま,書いてみてください.それはともかく,ジョフロワがそんな書き心地にうっとりするとも思えず,まぁここでは,高級品を見せびらかしているだけのことです.それも,価値があるんだかないんだか.だって,パパはいらないって思ったから子供に与えたんでしょう?本当に金なんだか,メッキなんだか.

 いつも自慢ばっかりしているし,金持ちを鼻にかけてるし,話が大袈裟だから,みんな信じない.「金のペン先だって聞いて,僕らはみんなで大笑いしたよ.だってさ,ジョフロワは大嘘つきだからね.出まかせだよ.」(id.)ジョフロワは「黄色だろ?光ってるだろ?これが金じゃないっていうのか!」(pp.252-253)と,かなり怒ってますが,リュフュスのパパがママンからもらったネクタイも「黄色で光っていたのに,金じゃないぜ」(p.253)と,冷静なツッコミ.そうそう,金を定義しようと思ったら,そりゃ大変だし,そもそも,金のネクタイなんて重くて重くて.このツッコミにジョフロワは傷ついて,「お前のパパのネクタイなんてどうでもいいんだ.俺のペン先は金なんだよ,き・ん.」(p.253)一緒にするなってことね.そりゃ,本物の金なら,もらってもパパがつけたがらない黄色のネクタイと一緒にするなってのは,そりゃそうだ.

 とにかく,ジョフロワの自慢のせいで,はやケンカモードです.イラスト2/4はそんなシーン+α.


 右奥で,リュフュスがジョフロワにビンタを食らわせています.あるいは逆にジョフロワがリュフュスに.周りはケンカに興奮気味.楽しそう.しか〜し!イラストの焦点は間違いなく左のアルセストと,ペン先を下に落ちてゆく万年筆です.ジョフロワは万年筆をアルセストに預け,ケンカに赴くのですが,怒りでいつもの設定を忘れていたのはジョフロワの過失です.アルセストは「タルチーヌのせいで,いつもバターでヌルヌルの手をしているものだから」,万年筆は手を滑り抜け,「ペン先を下に地面に落ちて」しまいました.チ〜ン・・・.万年筆を持ったことのない人(日本では・・・ってもういいですね),一度でも,それもペン先を下に落とすと,ダメなんです,万年筆は.一番してはいけないこと.

 これを見たジョフロワは万年筆を取り返そうと,戻ってきます.でも,こういう場合,ガキども(失礼!)が絶対やるのが,あれです,あれ.


アルセストは怒り狂って,万年筆を蹴っ飛ばした.

「ほらよ,お前の万年筆なんて,こうだ!」

万年筆はメクサンの足元に転がり,メクサンが僕に投げてよこした.

「回せ!パスだ,パス!」と,ウードが叫んだ.

それで僕は,ウードにパスした.随分と遠いパスだったよ.そしたらリュフュスが僕のとこへきてさ,すっごく怒って言うんだ.

「何やってんだよ.お前は,ゲームに入ってなかっただろうが!」(p.255)


 個人的な経験からすると,あれ,すっごく嫌なんですよねぇ.全く不愉快です.でも,子どもの遊びのようなものなんだから,そんなに嫌わなくても?いや,やっぱりいじめだし,取り戻したときには,もうすでに,同じものじゃなくなっているし.嫌だなぁ.

 それはともかく,ここでブイヨンさん登場.万年筆は没収と思いきや,いやいや,液漏れしているために,預かりというなの没収拒否.ジョフロワは無事(?),返してもらいます.でもやっぱり,もともとの万年筆と同じものじゃないでしょ?


 私にはどうにも哀れに思えますが,きっと,自慢したから罰なんでしょう.でもそんなに,手が真っ黒になる程,インクを入れておける万年筆なんてないって.

 それでは最後のイラスト4/4.教室で,万年筆をじっと見つめるジョフロワです.


 授業が始まり,担任の先生が書き取り(dictée)を始めると,ジョフロワは「すっごく自慢げに」,万年筆を手に取りますが,「そのとき,僕ら全員,すっごく驚いたんだ.」何故に?「だって,これを読んでいるみんなは信じられないだろうけど,ジョフロワのあの万年筆はね,ペン先が金だったりしてもさ,ダメなんだ.書けなかったんだよ.(p.257)


 どうして書けなかったんでしょうか.直ぐに思いつくのは,もちろん,落としてしまって,ペン先が曲がってしまったからというもの.液漏れもしていたんので,全部インクが出てしまって(イラスト3/4),もう無くなっちゃったというもの.だから,私は,次の末尾のオチの部分を読んで,どうもピンときませんでした.


 教室を出たところで,ジョフロワが僕らに言ったんだ.「今時のもんはね,お金を出して買っても,いつもこんなもんなんだよ.触っただけで,壊れちゃうんだ.」(p.257)


 あれだけハードな経験をさせられた万年筆ですから,「壊れちゃう」のではなく,壊したんだよって思いました.それに「触っただけ」じゃないし.原因ははっきりしているように思ったんです.でも,それではオチにならない.う〜ん・・・と考えていて,思いました.この最後のセリフは大人なら,粗悪品をつかまされたときによくいう決まり文句です.すると,パパがジョフロワにいつも言っている,口癖のようなものではないでしょうか.今回のプレゼントを渡すときに言ったかどうかはわかりませんが,きっといつも言っているんです.それにもしかしたら,今回はパパにしてみれば,使い心地が良くなくて,場合によっては「壊れ」ていたかも知れず,でも,子どもが学校で使うくらいなら使えるだろうし,価値もわからないだろうからって,ジョフロワにあげちゃったのかも.ジョフロワは尊敬するパパからのプレゼントだし,金って言われれば金で,高級で,クラスでは誰も持ってないしで,大喜びしたのでしょうが.

 だから,今回のオチは,きっと,こういうことなんです.つまり,アルセストが落としたり,蹴飛ばしたりして,悪化したのは確かとしても,万年筆は落として壊したのではなく,初めからあまり具合が良いものではなかった.きっとパパは↑の最後のセリフを言っていた.もしかしたら,それを捨てた.でもジョフロワが欲しがり,学校へ持ってきて見せびらかした.書けないとしても,パパのだから高級品に決まっている.それに「金」っぽいし.でも壊れていて,やっぱり書けなかった.それで最後に,パパのセリフを真似て,負け惜しみ.だから,お前らが大切な万年筆を壊したんだ!と糾弾するでもなく,すんなり書けないことを認めて,パパの言っていたことを繰り返した.冒頭の自慢とは矛盾していることには気づかずに.

 どうです,こんなところでは?ちょっと持って回ったような展開ですが,これなら,オチになって,読んで微笑むこともできるのでは. 


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