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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(197)

« Le plombier », HIPN., vol.2, pp.244-251.

 フランス語でplombは「鉛」とか「おもり」とか.元素記号Pb,原子番号82.人を表す-ier, -ièreをつけてplombierは鉛の人じゃなくて,鉛の管を扱う「鉛管工,配管工」となります.人を表す別の語幹-eurをつけると,plombeur「ローラー」とか,「封印係」となるそうです(これは初めて知りました!).工事はplomberie.熟語でavoir du plomb dans l'estomacというと,胃の中に鉛を持っているので,「胃がもたれる,重い」となり,n'avoir pas de plomb dans la têteは,頭に鉛を持っていないので,「そそっかしい」.nager comme un chien de plomb,すなわち鉛でできた犬のように泳ぐ→「全く泳げない,かなづちである」となるようです(初めて知った!).

 でも,今回は,ニコラの家の台所の流し(の排水管)から水漏れがするので,配管工(私はよく水道屋さんと言ってしまいますが)に来てもらうというお話です.これがどうもうまくいかない.配管工のおじさんは,時間ができたら来ますよと言っておいて一向に来る気配がない.そうこうしているうちに土曜日の午後.ニコラ家ではパパの同僚のマルバンさん夫妻(変な名前!)を3時のお茶に招待していました.もちろんそんな時に限って,配管工のおじさん登場という間の悪さ.というわけで,本話では,おじさんの修理とマルバンさん夫妻の話が並行して進みます.

 台所の水漏れ発覚で,何度も何度も配管工のおじさんに電話しているのですが,全然来てくれない.それでママンはパパに修理を依頼し,パパはできないよと言いつつやってみるのですが,やっぱり指を怪我してしまいます.仕方なく,下にバケツを置いて,水をためるのですが,ママンは何度も何度も捨てなきゃならない.もう限界・・・という或る土曜日,お客さんが来るというので,パパもママンも準備をしていました.特にパパはいつもの悪ふざけをしてやろうと,レインコートを着込んでお客さんを待ち構えていたのですが,登場したのは配管工のおじさん.よりによって今日かぁ・・・.というわけで,早速パパの悪ふざけ計画は失敗.いつものことです.ママンも「うちには子どもが2人いるのね.でも2人のうち,どっちのほうが子どもっぽいのやら」なんて笑っていたのに.

 続いてやってきたマルバン夫妻.パパの同僚のマルバンさんも「鼻の下にでっかい口ひげ」をつけて,笑いながら大声で,


「炭の配達はここでしゅかな,おいや,まあ」(p.246)


と,オーヴェルニュ方言丸出しで入ってきますが,これも失敗.入ると配管工のおじさんがいたのを見て,思わず笑いもストップ.残念な登場となってしまいました.ちなみに上の引用文は« Ch'est bien ici qu'il faut livrer le charbon, fouchtra ? »で,C'estというところをCh'estと発音し,文末のfouchtra「おや,まあ,畜生」を付け加えているところが,冗談だったんです.でも,まぁ,配管工のおじさんのせいではありません.

 今回のイラストは3枚.どれも,配管工のおじさんとニコラの図です.3枚いっぺんに見てしまいましょう.





 全て同じ角度からの眺めです.1/3が台所の全体図.おじさんが流しの下をのぞいています.管から水漏れしているので,応急処置として布を巻いていますが,それでも水が垂れてくる.それでバケツを置いて,溜まったら捨てていたわけです.頭上には給湯器がありますが,日本ではもう見なくなった型ではないでしょうか.鍋やらフライパンやらソースパンやらがたくさんあるのが,料理をする私としては羨ましい.それにオーブン.フランスでは必需品の一つで,これもやっぱり羨ましい.冷蔵庫も旧型にはああいう取っ手が付いてましたよね.映画なんかでは未だ時々見かけます.日本にはないな.

 2/3はおじさんがコンコンと管を叩いて,« Tsss, Tsss ».これは日本語では,気に入らない時に舌打ちする「ちっ」とか,「ちぇっ」に該当するようです.ニコラは真似をしてるんだか,手伝っているのだか,邪魔をしているのだか.一緒になって「ちっ」.

 3/3も同様です.水漏れしている箇所だけでなく,周りの配管のチェックをして,その度に「ちっ!」と言っているところを見ると,全体がダメなんですね.これは全く他人事ではなくて,我が国でも,そろそろ,個人邸宅どころか,道路とか,下水とか,色々な管がダメになってきているようです.どうなっちゃうんですかねぇ.

 さて,というわけで,「チッ!」を連発したおじさん.


「チッ!俺を呼ぶのが遅すぎるってんだ.この配管を見ておくんなせえ.まったく恥ずかしいったらありゃしねー.もたねーよ,こりゃ.いつだってそうなんだ.見積もりしてんのに,ケチケチしてよ.まったく,プロ意識のかけらもねーつうの.それで遅かれ早かれ水漏れさーね.それで修理すんのは俺ってわけさ.(・・・)」(p.248)


 もう文句たらたら.お客さんを待たせているママンは気が気でない.とにかくニコラが残って一緒に調べることに.それが↑の3枚というわけです.

 「チッ!」を連発するおじさんのところに,パパが様子を見にきて,ニコラに邪魔をしないよう注意します.でもおしゃべり好きなおじさん.ニコラを追い出すどころか,孫の話まで始めます.


「んにゃ,全然だ.邪魔なんかしとらん.俺たちゃあ,親友になったかんな.なぁ,ニコラ?俺にも同んなじ歳ぐらいの孫がいてな.これにゃなかなか教えられるんだ.チッ!テオドールって名前なんだがよ,親父と一緒でな.これがほんとうにわんぱくなやつで・・・.テオドールの話をしに来たんじゃないわな?」(pp.249-250)


 こんな具合で一向に進みません.結局のところ・・・配管の全部をやり直すか.「大金払いたくねぇっつーなら,応急処置でちょこちょこっとやっとくこたぁできんよ.バケツと雑巾よりはずっとましでねえか?」(p.250)ということで,もちろんそうしてもらうことに.やっぱりパパはケチだ・・・と言いたいところですが,配管全部って一体どれだけかかるんでしょう.それに「その費用がねぇっつーなら」(« si vous ne voulez pas faire des frais »)で,文字通りには,「もしおたくが多大な出費をしたくなければ」となりますから,もちろん幾らかかるかわからない「大枚をはたきたく」なんてありませんので仕方ない.

 それで作業には2,3時間かかるというので,お願いしますというと,今日はダメなんだそうです.色々予定がおありで.来週の後半だそうです.それはそれで仕方ありません.でも,パパは結構短気ですからね.配管工のおじさんのそんな予定を聞きながら,きっと怒りが込み上げてきていたのでしょう.思わずニコラに八つ当たりです.


「ニコラ!」パパは突然,怒ったみたいに大声で叫んだ.「ここにいちゃいけないと,さっき言っただろ!それに宿題があるはずだ.部屋に行きなさい!」

「でも・・・僕,まだおやつ食べてないんだ.それに宿題なら明日の朝やるよ.」

「とにかく部屋へ行きなさい!」(p.251)


 やっぱり出費,それに1週間の不便となると,パパは相当,機嫌が悪くなったようです.でも,これを聞いたおじさんが一言.


「そうだな.あんたさんが正しいさね.厳しく躾けなくちゃな.俺んところの孫のテオドールにも俺りゃそうするんだ.少しでも厳しくしとかなゃ,ガキってのは,グダグダして時間を過ごしちまうからな,チッ!」(id.)


 このセリフで終わりなので,これがオチかぁと今一歩腑に落ちず,少し理由を考えていました.「ガキってのは」はgossesという語で,もちろんgarçon, enfantのくだけた表現なのですが,ハタと思い至ったのが,上の方↑のママンの発言.「うちには子どもが2人いるのね.でも2人のうち,どっちのほうが子どもっぽいのやら」(« J'ai deux enfants, mais je ne sais pas lequel est le plus gosse des deux. »).子どもには躾が大切で,時に厳しくしなくてはいけない.そうでないと「グダグダして時間を過ごしちまう」.だからパパはニコラに,ぶつぶつ言わずに,部屋へ上がりなさいと叱ったのですが(八つ当たりだと思いますが),ママンの発言からすると,パパはその「ガキ」に該当しますから,厳しく言われないと,というのはパパに向けられた言葉なのかも?もちろん,配管工のおじさんは先程のママンのセリフは聞いていませんから,「ガキ」の語を使ったのは,単なる偶然なのですが.これが考えたこと,二つのうちの一つ.

 もう一つは,配管工のおじさんにピシッと言わないと,おじさん「ガキ」だから,「グダグダして」作業を伸ばし伸ばしにしてしまうのではという,パパへの戒めかと.つまり,おじさん,なかなか修理をしてくれないおじさんが言いますか,それ?という感じでしょうか.ここはピシッというところかもしれません,パパ〜.

 イラストはかつての『プチ・ニ』,それもかなりこなれてきた絵柄で,私は一番好きなタイプなのですが,どうも自分の中でオチがうまく処理できません.いつかスッキリしたいものです.

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