« Je fais des courses », HIPN., vol.2, pp.228-235.
「僕,買い物をする」が題名です.(134)の題名にもfaire des coursesという表現が使われていましたので,その際に説明しましたが,courseは元々動詞courirからできた言葉で,「走ること,競争」の意味なのですが,複数形で,しかもfaire「する」と組み合わせると,「買い物をする」という慣用表現になります.「競争」(course)と「買い物」(courses).この違いが分からないと,フランス語では大きな誤解が生じてしまう可能性があります.それについては,後ほど,クラスでビリで,文法はおろか,お勉強全般が苦手なクロテールに説明してもらいましょう.
さて,今回は,ニコラがママンにお買い物を頼まれて(それも急ぎの!),近くの食料品屋さん,コンパーニさんのお店に行くというお話です.そしてもちろん,失敗するというオチです.買い物に行って,頼まれたものではないものを買ってきてしまうので,当然失敗ということになりますが,むしろ買い物の途中での出来事の方が大切です.そして『プチ・ニ』の法則で,ニコラと関係する大人はみんなしくじったり,まずい状況に追い込まれたりするので,それも楽しみましょう.ニコラにはもちろん,悪気はないのですが.いや,あるかも?そうだとすると・・・
お買い物で買う物を間違うのですから,1)間違った理由,2)間違った物が次々と出てきます.それぞれに見てゆきますが,まずは当初ママンから頼まれた品物です.
①当初の買い物リスト
小粒のグリンピース2箱,「先週同じ店で買ったのと同じコーヒー1袋,お店の人がどれかわかってるわ」,小麦粉1キログラム(« deux boîtes de petits pois fins, comme je lui en ai acheté la semaine dernière, un paquet de café, il sait lequel, et deux livres de farine »(p.228))
ニコラはママンのお使いをするのは好きだし,コンパーニさんはいつも欠けビスケットをくれると言うので喜び勇んで出かけます.それで間違わないように,①を口の中で復唱しているのですが,そこへ自転車に乗ったクロテールが登場します.ニコラは,自転車というよりも,クロテールが自転車を買ってもらえたことに驚き,気を取られてしまいます.
ところで今回は4枚のイラストがついていますが,最初の2枚を合わせて紹介します.
1/4は二人が一緒に乗るところ,2/4は自転車にまたがるクロテールです.
クロテールは僕に一人で1周させてくれたよ.それから僕がハンドルに乗って,それからクロテールが漕いで,その次は僕が漕いで,クロテールが荷台に跨って乗ったんだ.(p.229)
この説明によると,2回目の二人乗りの様子が1/4となります.それにしても,1回目の「ハンドルに乗って,それからクロテールが漕いで」って危なさそうです.それに,この↑ハンドルに跨がれるのでしょうか.謎です.
それからクロテールが「競技用自転車」について説明をしてくれます.
僕はクロテールに,何で競技用自転車なのに荷台があるんだよ?って聞いたんだ.そしたら,クロテール曰く,「まさに荷台がついているから,競技用自転車なんじゃないかー!ママンにお使いを頼まれてもいいように荷台がついているんだ」,だって.(p.229)
ここはシャレです.競技用自転車はvélo de course,買い物はcoursesですから,クロテールは「買い物用」(courses)と「競技用」(course)を混同しているのです.文法的には,単数か複数かわかっていないのは,お勉強が苦手なクロテールならでは.でも,日本語に訳しても全然面白くないですよね.ちなみに,映画版第1作目『プチ・ニコラ』の冒頭で,この間違いを聞いたジョフロワ,アルセスト,ニコラが顔を見合わせる場面があります.つまりクロテールの間違いがわかっていての反応なのですが,このお話の中では,ニコラはまったくツッコんでいませんから,ニコラ自身,クロテールの説明に納得してしまったのかも.
真相はともかく,「買い物」の言葉を聞いたニコラはお使いを想い出して,リストを復唱します.
②小粒のグリンピース1箱,コーヒー2パック,「先週ママンが買ったやつ」,小麦粉1キログラム,お店の人がどれか知っている」,(« une boîte de petits pois fins, deux paquets de café comme maman en a acheté la semaine dernière, et deux livres de farine, il sait lequel »(p.230))
微妙〜に変化しています.コーヒー2パックは多すぎるかも.「忘れないようにするには,いつでも復唱するのがいいんだ」そうですが,記憶なんて頼りにならないもの.伝言ゲームのように,少しずつ変化していってしまいます.
次は車のタイヤを修理しているおじさんに出会います.それでいつもニコラは,こういう場面では好奇心を発揮し,質問攻めでうるさがらせるのですが,ふとパパを想い出し,話しかけられたくないよなぁと珍しく殊勝な様子です.でもそんな時は必ず,おじさんの方に不幸が.イラストでもおじさん,気が散りまくっています.ガキ,見てないでいいから早く行けよ,でしょうか.
ニコラは車を持ち上げるジャッキが傾いているのを知りながら,話しかけません.わざとやってんのか,な感じです.おじさんもチラチラニコラを見ています.すると突然(当然!),ジャッキが滑って車が落ち,トランクに入っていた瓶が溝に落ちて割れちゃいました.「でもやっぱり,おじさんに教えてあげればよかったと思ったんだ.」遅い!
それで去る前に一言.「おじさん気をつけて.瓶が割れているから,またパンクしちゃうよ.」(p.232)これは後の祭りで,余計な一言.それも,この余計な一言がいつもの呪いで,後に実現してしまうやつ.まったく,とんでもない疫病神です.
おじさんはとにかくパンクするわ,瓶は割るわ,ガキにツッこまれるわで,相当頭にきています.で,「他にやることないのかよ?!」と怒りを抑えつついうのですが,それでニコラは想い出します.
③コーヒー2パック,「先週ママンが買ったやつ」,グリンピース1キログラム,お店の人がどれか知っている」(« deux paquets de café comme maman en a acheté la semaine dernière, et deux livres de petits pois fins, il sait lesquels »(p.232))
小麦粉が無くなって,グリンピースが1キロって・・・結構な量です.食べるのに何日かかるでしょうか.
次に出会ったのはブレデュールさん.危ないからと,ニコラの手を引いて道路を渡ってくれるのですが(超親切です),ニコラに関わったばかりに,トラックに轢かれそうになり,運転手と大ケンカになります.やっぱりとんだ疫病神です.ブレデュールさんは,降りてきた運転手に「目ん玉にジャム入れてるやつぁ,道路渡んな!」と,ひどい言われよう.でもそんな災難はそっちのけで,ニコラはブレデュールさんを置いて,買い物に戻ります.ここで復唱ならぬ,唱えたのは・・・
④ジャム2箱,「先週ママンが買ったやつ」(« deux boîtes de confiture comme maman en a acheté la semaine dernière »(p.233))
あぁ,ついにジャム2箱になりました.それもママンが先週買ったというのなら,本当に買って帰ったら,ニコラの家にはジャム4箱.どんだけ甘党な一家だ!
ニコラはケンカの結末に後ろ髪を引かれていましたが,出発すると,今度はアルセストに会います.アルセストに本を見にこいと誘われて,料理本を見るハメに.あまり楽しめなかったようですが,そこは親友アルセストの誘いですから,ちゃんとお付き合いしました.
それで僕はアルセストの家に上がったんだ.でも,ちょっとがっかりしたよ.アルセストに言っていたのは料理の本だったからね.アルセストは随分気に入っていたから僕は何にも言わなかったし,肥鶏の半身茹でだか,リンゴのスフレだか,カワカマスの生クリームムースかけだか,そんな何やかやが面白いねってふりまでしちゃったよ.(p.234)
肥鶏の半身茹で(demi-poularde en deuil)
リンゴのスフレ(pommes soufflées)
カワカマスの生クリームムース(brochet mousseline)
ごめんなさい,一応検索で調べて画像も見て,もちろん辞書でも調べましたが,適切な料理名はわかりませんでした.当たり前のことですが,私の料理知識は10歳くらいのアルセストに断然劣るのです.おまけにzabaglioneなんてのも辞書に出てませんでした.これは調べて,sabayon「サバイヨン」であることをようやく突き止めました.「かなり液状のクリームで,生温かい状態で,あるいは菓子にかけて供される.一般には卵黄に砂糖を加えて湯煎にかけて掻き立て,最後にシャンパーニュをはじめ,香りの高いワインを加えて作る*」ものだそうです.
*『フランス料理仏和辞典』(三洋株式会社,1987年刊)より.
でも,あんまりピンときません.仕方ない.
本を見終わったところで,買い物を想い出し,ニコラは再びしゅ発ーつ.でもようやくコンパーニさんのところにたどり着いて,覚えていたのは,「ママンが先週買った何か」だけ.イラスト4/4はでも,困った風でもなく,涼しげな様子です.
何も覚えていまくても,コンパーニさんは幸い記憶力がよくって,覚えていてくれました.それで買ったのが「洗濯石鹸2パック」.これで家に帰ると,洗濯石鹸計4パックですか・・・.洗濯好きな,綺麗好き一家です.帰り道では,先程修理していたおじさんを見かけますが,「同じタイヤじゃなかった」(p.235)ので,やっぱり割れた瓶でパンクさせちゃったみたいです.すごい予知能力です.
帰宅すると,当然ママンに叱られます.理由は「遅すぎ」.ニコラはこれは素直に受け止めます.
ママンは怒った様子で,「遅すぎるわ!」って,僕,叱られちゃったよ.これは仕方ないよね.ママンが正しい.でも,納得いかないのは,ママンが洗剤2パックなんていらないって言ったことなんだ.
それでもさ,買ってきてって頼んだのに別のものにしちゃうなんて,僕のせいじゃないじゃないか!(p.235)
「先週買ったもの」としか覚えられなかったニコラが悪い・・・はずなんですが,その部分は覚えていたので,ニコラの不満も一理あると認めねば・・・ならないんですかね?!?
でも,子どもにお使いを頼むときは,頼んだ人の責任も半分ですから,失敗もある程度は我慢しなきゃならない,ですよね?
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