« Le Bouillon n'aime pas la glace », HIPN., vol.2, pp.221-227.
「ブイヨンさんはアイスがお好き,でない」.つまり「お嫌い」なんです.美味しいのに.でもKYニコラみたいに,この題名をそのまま受け取ってしまってよいのでしょうか.ほんとうに,ブイヨンさんはアイスが嫌いなんでしょうか???
今回はニコラたちの学校に,いえ,学校の外にアイス屋さんが来て,ブイヨンさんと一戦交えるというお話です.休み時間とはいえ,学校でおやつを買って食べるのは,やっぱりいけないですよね.ニコラたちに休み時間にアイスを買わせず,食べさせないのは,生徒監のブイヨンさんとしては当たり前.況や,ブイヨンさんが「アイスがお嫌い」ならなおさらのこと.さてさて,真相は如何に?
今回も(173), (174), (179)に続いて,『未刊行集 第2巻』(HIPN., vol.2)のために描き下ろされた新しいイラストです.連載当時から40年近く経て添えられた新しいイラストが,以前のイラストとどのくらい異なるか見比べるには今回は絶好のチャンスです.なぜって,街中を移動しながらアイスクリームの販売するおじさんは(110)でも登場していますから.
左側が今回のイラスト1/3で,右が(110)に登場したアイス屋さんです.ね?2000年代のサンペの絵はだいぶ線が細いでしょう?印象と感想,つまりテキトーな意見を言うと,さらっと描いて,いわゆる瀟洒な感じです.個人的には60年代サンペの方が好きです.ヤボったいけど,ユーモラスで.ユーモラスといえば,右の方では,アイス屋さんの鳴らす鐘の音につられて,子どもたちが走って後をついてくる様子がなんとも微笑ましい.私の子どもの頃には,移動式の屋台で販売するお店,例えば金魚屋さんとか,豆腐屋さんとか,アイスクリーム屋さんとかはもうほとんどなくなっていて,それこそ映画で見て,ノスタルジーを感じるようなものでした.ラーメン屋さんだけは移動はしなくなりましたが,いつも定位置の屋台販売が今も続いていますね.あれも,何か懐かしい感じしませんか?
おじさんがキコキコ漕ぐ3輪の自転車も,アイスクリームの荷台も,アイスクリームを入れたタジーヌ鍋のような入れ物も,「シングルとダブル」のアイスの絵も,以前のものと変わらないのですが,左側の,今回のイラストでは舗道と樹木が入っていて,おじさんの向きと進行方向がわかります.つまり絵としてはしっかりした安定した構図なのですが,やっぱり『プチ・ニ』では,ゴタゴタ,うじゃうじゃ,子どもたちが描かれている方が,面白いかも.個人的な好みですが.
ま,それはともかく,お話に入ると,休み時間で校庭に降りてくると,ニコラたちは校門の外で鐘がなっているのが聞こえます.もちろん,始業とか休み時間を知らせる合図の鐘ではなく,アイス屋さんの鐘であるのはすぐわかったでしょう.ニコラたちが鉄製の門をよじ登ってみると,「小さくて白色の車に乗ったアイス屋さん」(p.221)がいました.,「車」と言うと,自家用車を想像してしまいそうですが,アイス屋さんですから,↑のような車輪のついた荷台なんです.それで早速ニコラたちが値段を聞いているところへ,ブイヨンさんが走り寄ってきて営業妨害.いやいや,規則ですから,注意をします.規則だから注意をしているだけなんですが,悔しいのはアイス屋さんのほう.だってせっかくのお客さんを逃してしまうのです.なんでも,もう少し先の方で言っていますが,もう少し後では別の学校の休み時間を狙って移動するそうです.じゃあ,休み時間の子どもをターゲットにした確信犯か?!それじゃ,あまり同情の余地はないかも.それはともかく,追い払うブイヨンさんと子ども相手に儲けたいアイス屋さんの攻防が始まります.
ともかくも,ブイヨンさんはアイス屋さんを追払うのに成功します.
それでブイヨンさんは校門の鉄格子沿いに歩き始めた.外では時々鐘の音とアイス屋さんのどなる声が聞こえていた.「チリン,チリン」「美味しい氷のクリーム,美味しいアイスはいらんかねぇ.ありゃまあ,こりゃこりゃなんて美味いんだ,うちのアイスは!」これを聞いたブイヨンさんは火に油を注がれたみたい.すっごく怒っていたよ.こんなにアイスが好きじゃない人なんて,初めて見たよ.(p.222)
そうじゃないでしょ,ニコラ!まったくKYなんだから.もちろん,アイスが嫌いなんじゃないんです,単に,アイス売りのおじさんの態度が気に入らなかったんです.
ブイヨンさんが行ってしまうと,ニコラたちはそれでもアイスを手に入れようとします.「別にそれほど愛すなんて欲しくねーし」と,ウード.「いや,ほしい!」とアルセスト.「金,ねーよ,コーンアイスの一つも買えねーな」とジョアキム.そんな中,もちろんパパがお金持ちのジョフロワだけは違って,「コーンなら4つは買えるね.それもダブルでな」と言ったものだから,さあ大変.どうなるかというと・・・みんなでジョフロワの「親友」になろうとします.親友なんだから,ご相伴にあずかれるかと.イラスト2/3です.
確かに以前の絵柄だと,こんな風な凄みのある睨み合いにはならなかったかも.体が傾いているところが本当に怖い.
それで親友のポジション争いでケンカになるのですが,そこへまたもやブイヨンさん登場.
「どうしたんだ?」と,ブイヨンさんが聞いてきたから,ジョフロワが大声を出した.
「こいつらのせいなんです.こいつら,僕のアイスクリームを奪い取ろうって言うんです.」
「何言ってんだ!」と,ウードが怒鳴り返した.「この自分勝手な野郎が,ダブルのコーンアイスを4つも独り占めして,親友にも分けないって言うんです.」
「ダブルのコーンアイスが4つ?君ら,ダブルのコーンアイスを4つ買ったって言うのか?どこにあるんだ?」と,ブイヨンさんが聞いた.
「い,いいえ,アイスはないんです.」と,ジョアキムが答えた.「禁止って言われたから・・・.ですよね?」(p.225)
というわけで,未だ買っていないアイスクリームをネタに,独り占めしてるだの,親友には分けろだの,とらぬアイスの皮算用していたわけで.ブイヨンさんも,さすがに呆れてしまいますが,それはそれ,これはこれ.ジョフロワとウードの腕を掴んで,罰を与えようと連れて行ってしまいます.
それでも外の鐘は鳴り止まず,アルセストはついつい,チョコレート味のコーンを買ってしまいます.でも,校門の外から差し出されたアイスを受け取ったのは,アルセストではなく,戻ってきたブイヨンさんでした.
ニュっと,校門の外から手が伸びて,アイスを差し出しています.あれっ?アルセストはコーンのチョコレートのシングル(un cornet de glace au chocolat)を注文していますが(p.225),次の頁(p.226)で差し出されているのはコーンのダブルです.それにしても,そんな狭いところから・・・商魂たくましいおじさんです.
現行犯逮捕で,ブイヨンさんはアルセストにも当然罰を言い渡しますが,収まらないのはアイス屋さん.
「おいっ!代金払え!」と,アイス屋さんが鉄格子の向こう側から叫んだ.
ブイヨンさんは片手にコーンアイスをもち,もう一方の手でアルセストを掴んで行ってしまった.「チリン,チリン,チリンチリン!!!!」と,まぁこんな風に,何度も何度も鐘の音が聞こえたよ.そうしたらしばらく立って,アイス屋のおじさんが,すっごく怒って学校の校庭に入ってきた.(p.227)
いよいよ,子ども相手の商売に腹を立てているブイヨンさんと,代金を払ってもらえず腹を立てているアイス屋のおじさん.いよいよ直接対決です.「出ていきなさい,さもなきゃ警察を呼ぶぞ」「警察だと?!俺が呼んでやる!代金を払いやがれ!」両者ともすごい剣幕です.そこへ,騒ぎを聞きつけて校長先生がやってきます.
「この騒ぎは一体,どうしたというのだ?」
「おたくの生徒監のやつでさぁ.かわいそうなガキどもにはアイスを食べちゃいかんなんて行っておきながら,ご自分では食べておいて,代金も払いやがらねぇ!」
「私が,アイスを食べただと?」と,ブイヨンさんが返した.
「ずうずうしい野郎だ!まだ手にコーンを持っていやがるぜ.肘にまでチョコレートを垂らしておいでだ.それなのに食ってねぇだとよ.まったく,ずうずうしいにもほどがある.」(p.227)
さっきアルセストから没収したアイスクリームは溶けてなくなったのでしょうが,垂れて肘についているわ,コーンは溶けないから手に残っているわ・・・.これじゃあ,校長先生としては,アイス屋さんのいうことを信じるしかない.それで一言.「お支払いしなさい」(id.)ブイヨンさん,一瞬耳を疑います.「えっ?でも・・・」「お支払いしなさい」.ブイヨンさん,ショーック・・・.さらにブイヨンさん,放課後に呼び出しをくらいます.規則を守るのが生徒監のお仕事.学校の中で食べてはいけないって注意をしただけなのに.あぁ,全てを見ていないって恐ろしい.どんな濡れ衣でも着せられてしまいます.でも疑い晴れて,濡れ衣は着せられなくても,チョコまみれ.踏んだり蹴ったりです.
どうにもやるせなかったのは,誰もアイスクリームを食べていないってことなんだ.ブイヨンさんは地面にコーンを叩きつけて,両足で何度も何度も踏みつけていたよ.(id.)
踏んだり蹴ったりのブイヨンさん.せめてアイスの残りのコーンに八つ当たりくらいしたって許されます.踏んだり蹴ったりして,ね.
それを見たニコラの感想.
いやはや,ほんとにね,ブイヨンさんほどアイスが好きじゃない人なんて,初めて見たよ.(id.)
「ブイヨンさんほど」をつけただけで,上↑とまったく同じ文章です.だから違うんだって.ニコラには大人の気持ちなんて判らないんだ,なんてレベルの話ではなくて,そもそも聞いた言葉,見た風景,それを字義通りそのまま理解するんです.コーンを踏みつけているから,アイスがそんなに嫌いなのかと.徹底したKYぶりで,ひたすら感心します.
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