« Le pique-nique », HIPN., vol.2, pp.212-217.
題名は「ピクニック」.ピクニックだから,きっとピクニックに行けないというお話しでしょう.さてオチは如何に?
今回はお隣の,パパをからかうのが大好きなブレデュールさん夫妻とピクニックに行く話,いやいや,行かない話です.
イラストは3枚で,1/3はニコラが朝早くにパパたちを起こしにゆく場面です.
細かく見てゆくと,色々引っ張ってひっぱってこれそうです.まず左から,ニコラがパパとママンのシーツを引っ張って起こそうとしています.左手は何かを指しているので,目でそちらを追うと,目覚まし時計です.5時ちょうど.朝の5時ですか.そりゃ早い.目覚まし時計の先には,布団の中のパパがいます.髪はボサボサ,右手を眺めていますから,腕時計を見ているのですね.それにしても,腕時計をつけて寝るものなのですか?パパの横にはママンがいますが,どうもすご〜く眠そう.やはり髪に寝癖がついていて,目をしょぼしょぼさせているようです.朝5時ですから.でも,ママンの目,なぜこう尖らせてくの字に描くと,見ている人は眠そうって思うんでしょうか.
この場面の前提は↓の通り.
パパとブレデュールさんは朝5時に起きて,6時には出発だ!と決めたんだ.僕はね,僕はパパたちに,それはちょっと早くない?って言ったんだよ.でもパパが僕をぎょろっと睨んで,大人の話に首を突っ込むもんじゃないだって.(p.213)
5時起床,6時出発と決めたのはパパとブレデュールさんでした.それも「大人の話に首を突っ込むもんじゃない」だなんて,睨みをきかせたのですから,5時に未だ寝床にいたのなら,パパが悪い!はず・・・.それにパパ,お宅の息子は字義通りにしか,言葉を受け取れないし,忖度も斟酌もできないKYなのですよ.
それで朝5時の場面=イラストは↓の通り.
僕たちは早くに寝たんだ.だってパパがね,「5時起床!時間厳守.準備が遅れた人は残念無念,ピクニックには置いてけぼり」,だって.
僕はね,あんまり眠れなかったんだ.だって一刻も早くピクニックに行きたかったし,それにパパがあんなこと言うもんだから,置いてけぼりにされたくなかったからね.それで食事する部屋の掛け時計が5時に鳴るのが聞こえたから,僕はものすごい勢いで起きて,パパとママンの部屋に走っていって,「準備できたよ!」って大声で叫んだ.
パパが布団の中でビクっと動いた.それで跳ね起きて,突拍子もない声を出した.「誰だ?どこだ?なぜだ?火事か?」だって.それから目をひんむき,顔に落ちかかっていたボサボサの髪をかき分けるようにして僕を睨んだ.僕はパパに,5時だよ,出発だよって言ったんだ.(p.215)
パパ,自業自得です.ニコラは何にも悪くない.悪いとすれば,文字通りにしか言葉を理解できないこととなりますが,それは素直といわれる美徳でもあって・・・.でも,ホン〜の少し頭を働かせれば,つまり言葉を字義通り取らず,その先を読めば,運転するパパが布団の中にいるのですから,誰も置いてけぼりは食わないはず.
パパは枕に頭を落とし,また目を閉じちゃった.それで言ったんだ.「もう少ししたらな.あと5分だけ.まだ時間はあるから.急いでないし.」でも僕はパパを揺すって起こした.だってパパには置いてけぼりになってほしくないんだ.そんなことになったら,困るよねぇ?だってパパが運転するんだからさ.(pp.215-216)
パパにも置いてけぼりになってほしくない.そりゃそうです.でも,「運転する」のがパパなんですから,パパがまだ家にいる限り,誰も置いてけぼりにななりようがない・・・.ニコラ,わかっててわざとやってるんですかね?それとも,やっぱり,字義通りにしか受け取れないだけなんでしょうか.
と言うわけで,幸先がいいというか何というか.意外なのは,一緒にピクニックへ行くのがブレデュールさん夫妻ということでしょうか.でも,パパとブレデュールさんはお互いにからかったり,たきつけたりするのが楽しいだけで,本当は仲が良いのです.(187)とか,(172)とかでもそうでした.それはともかく,一緒にピクニックへ行くこと,誰の車で行くかということ,これだけのことを決めるまでに,とにかく時間がかかります.パパとブレデュールさんは何度も揉めるわ,パパたちとママンはホースで水をかけられるわ.行くことが決まってからも,ニコラやパパはありとあらゆるものを持っていこうとして,ママンに呆れられるわ.この変のところ,詳細はどうぞ文を読んでください.かなりウケますから.
それからすでに見た5時の場面となるのですが,ここに至るまででもうすでに5ページ使ってます.冒頭で記したように,お話は総計6ページですから,残るはあと1ページ.終わりは近い!ね?ピクニックに行けない雰囲気が濃厚になってきました.
次のイラスト2/3はママンとブレデュールさんの奥さんが車に荷物を詰め込もうとして,女には任せておけん,「男どもに任せなさい.女ときた日にゃ,車に近づきゃ何でも壊しちまうからな」(p.217)だそうです.これを言ったのはパパですが(今だったら,男女差別!とか,ジェンダー差別!とか,す〜ぐに突っ込まれるような発言です),「そうだ,そうだ」なんて,ブレデュールさんも同調します.流石に観察眼の鋭いニコラ,これを見逃しません.「めずらしく,パパと意見があったよ」.いつものパターンで,パパの発言は不吉な言葉かもしれません.
それにしても,二人はものすごい量の荷物を抱えています.ただならぬ様相のピクニックです.でも,二人は随分とシンクロしているでしょ?まず車が2台,仲良く並んでいます.運転席のドアの開き方は真逆ですが.
ちょっと脱線して,パパの車(前の車)の開きが今の車と逆なのは,昔はこういう車もあったんだそうです.何でも,足を出し入れしやすいから乗りやすいし,取手を取り付けやすかったとか.でも,走っている時にバタンと開いてしまったら?風を受けて,大変なことになりますよね.ちなみに文中で,最初は1台に5人乗っていこうとなり,どちらの車で行くかで揉めた時には,パパは散々ブレデュールさんの車は「錆びた鉄屑の塊で,時速20キロも出せばもう路面から浮いちゃうし,そもそも20キロも出したら壊れるからな」なんて,憎まれ口を叩いていたのですが,実はパパの車の方が古いのが,イラストからわかる仕組みです.さすがサンペさん.
話をシンクロに戻すと,2台ともトランクが開いています.パパとブレデュールさんを見ると,二人とも釣り竿を持っていますし,二人とも荷沢山.履いているズボンの柄は異なるとはいえ,全く同じ足取りで,互いに見つめあっています.大きな口を開けて怒鳴りあっているだけなんですが.というわけで,口の開きまでシンクロ中.そんな二人を後ろからニコラが微笑ましげに眺めています.もう一つちなみに,ニコラはえらい量の遊び道具を持っていこうとして,ママンに呆れられたはずなのですが,意外にも手に持っているのは(114),(157)でも登場した,<例の>帆のない船だけです.
さて,イラスト3/3,いよいよオーラスです.
いよいよというか,ようやくというか,出発することになるのですが・・・
最後にはみんな,車に乗った.
「俺が前だ!」と,ブレデュールさんが車から大声を出した.「道を知っているのは俺だからな.」
そうしたらパパが答えた.「言語道断!お前のエンジンの後ろをのろのろついていって,お前がいつも入れてる安物のオイルの匂いを嗅がされたくないからな.」
「へぇ〜,そうかい?」と,ブレデュールさん.
「あったりまえだ!」と,パパ.(p.217)
一体いつになったら出発できるんでしょうね.それにしても,本当にガキか,あんたら?さぁ,もうすでにイラスト3/3も見ましたし,ピクニックへ出られないのは明らかです.そこで最後のオチを読んでみましょう.
あれほど楽しみにしていたのに,ピクニックに行けなかったのは残念だよ.だってさ,パパもブレデュールさんも二人とも同時に発車してさ,互いに突っ込んじゃったんだ.それで自動車の修理には,たっぷり1週間かかるんだって.(p.217)
「二人とも同時に発車」して,「互いに突っ込んじゃった」(papa et M. Blédurt se sont rentrés dedans)・・・.dedansというのは「中に,中で」という意味ですが,rentrer(entrer) dedansで「衝突する,ぶつかる」となります.相手の懐(この場合には車の内部)に入ってしまう,というようなニュアンスでしょうか.でも,イラストをよく見てください.左はニコラたちが乗っていて,右はブレデュールさんたちの車です.パパの運転席からすると,2台とも,左が前で,左方向に「同時に発車」したはずなんです.位置からすると,後ろについたブレデュールさんの車が先に発車するか,急発進してパパよりも早い速度を出さなければ,ニコラたちの車に突っ込むことはないはずです.もしくは,ブレデュールさんたちがいるのを知りつつ,パパがバックするのでなければ「突っ込み」ようがないような.どうも謎で,ツッコミどころ満載のイラストです.それにしても,1)2台とも修理に1週間かかるほどの壊れ方であること,2)互いの家族が文句を言い合うこと,以上2点は正確に伝わります.2)で,いつもはパパとブレデュールさんが小競り合いするだけですが,これだけ大破してしまうと,ママンたちも黙っていないかもしれません.それに,パパとニコラ,ブレデュールさんとブレデュールさんの奥さん,抗議で振り上げたこの2組の腕がシンクロしているじゃないですか!これを見て,いよいよ男性二人だけではなく,家族ぐるみで対立するようになったと考えるか,どんなに怒鳴りあっても,険悪になっても,シンクロしていて,やっぱり仲がいいと考えるか,どちらの解釈が正しいのでしょうか,ね?
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