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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(192)

« Le tas de sable », HIPN., vol.2, pp.204-210.

 le tas deはよく使われる表現で,「〜の山,堆積」なのですが,そこから転じて「大量の,多量の,たくさんの,大勢の」という意味になります.例えば,(172)の題名は« Papa a des tas d'agonies »「パパは苦痛でいっぱい」でした.そんな風に複数形des tasで用いると,山がたくさんあるような,それだけ大量のような気がしてきます.でも今回は定冠詞le tasですから,題名は「砂の山」,「砂山」となるのですが,結論(オチ)からいうと,砂がなくなって「山」だけになってしまうというお話です.ンンン???砂山から砂がなくなると,山もなくなって平らになるから,何にも残っていないのでは?と思うのですが,どうでしょう?

 『プチニ』では手を変え品を変えて,オチが準備されています.何気なく発した言葉が実現してしまうパターンとか,偉そうにしている人がかえって笑われるパターンとか,当初の計画が実現しないパターンとか.KYニコラの冷めた観察が笑わせるパターンとかなどなど.幾つかのパターンに類型化できるのですが,今回は言葉遊びをオチにするパターンです.すると,当然,日本語には訳しにくいし,というか,限りなく不可能に近いし,理解もほんの少〜し難しいかも.というより,日本語では笑えないかしら.

 休み時間にいつものように校庭に降りてゆくと,大きな砂の山がありました.問題の山です.さて,ニコラたちのリアクションは?


「これって何?この砂の山ですよ,何なんですか?」と,ジョフロワがブイヨンさんに聞いた.ブイヨンさんは僕らの学校の生徒監だけど,本当の名前はそうじゃない.どうしてそんな風に呼ぶのか,また今度,説明してあげるよ.(p.204)


 というわけで,いつもの人物紹介が入った後,次がブイヨンさんの回答です.


「工事の人が砂の山を持ってきたばかりなんだ.洗濯場での工事に使うんだ.」(id.)


 これに対して,リュフュスが「あそこで遊んでもいいですか?」と聞くと,断ると思いきや,ブイヨンさんは少し考えて,鼻をかきかき,「いいだろう.だが,大人しくな.わしが山の管理をしているってことを忘れちゃいかんぞ.」と,意外にもすんなり許可を出します.これはかなり意外でした.だって,「工事の人が持ってきたばかり」で,「洗濯場での工事に使う」のですから,いわば必要な材料な訳ですよね?それなのに,破壊専門のニコラたちにそばで遊ばせたら,何をされるかわからないブイヨンさんではないはず.どういうのでしょう???

 それはともかく,ニコラたちは砂山を使って遊び始めます.これまたいつものように,意見が分かれ,城をつくる組,穴を掘る組,道をつくる組,パテをつくる組,サンドウィッチをダメにされて怒る組(っていつもの一人だけですが),に分かれ,テンでバラバラに遊び始めます.そのうち上級生が来て,砂を横取りしようとして,ニコラたちと山の奪い合いになり,砂合戦になって御終い,という話なのですが,今回一番謎なのが,イラストの数々です.

 今回,イラストは4枚あります.ほとんどすべてが謎.まず1/4で,謎の1.


 右の子どもが砂を蹴散らし,左の子どもが何やら手にして,怒っている模様.1/4ですから,お話の前半(2ページ目)に挿入されています.誰と誰?何と何?右側はおそらくアルセストです.何をして遊ぶか揉めているうちに,ウードに脅されたニコラが後じさりした際に,タルチーヌを落としてしまいます.「誰かがアルセストにぶつかると,絶対食べ物が地面に落ちちゃう.それで今回もハズレなし.アルセストのタルチーヌがバターのついた面から砂の上に落ちちゃったんだ.」(p.205)もう,パニック.アルセストはニコラをこずきます.だから,渋い顔して,何か,とはタルチーヌ,それを見つめているのはアルセストでしょう.でも後ろで不満そうに砂を蹴っているのは誰?「パテなんて作ってどうしようってんだ,お前,バカか?」とニコラを後退りさせたウードでしょうか.それとも,ビクッと思わず戦いの態勢をとったニコラでしょうか.

 次はイラスト2/4で謎の2です

 授業が終わって休み時間になり,駆け降りてきて,山を発見.山に突進するニコラたち.それを静止しようとするブイヨンさん.もうすでに先程,休み時間になったばかりの場面は読みましたが,ブイヨンさんが駆けつけてきたようには見えませんでした.それにイラストではブイヨンさん,手に指をおいているので,まるで「静かに!」と言っているような動作ですが,休み時間なので,静かにしろと制止するとも思えないし.それに山へ向かってと大挙して走り寄ったというよりは,階段を降りてみたら山があったというような記述でしたが.アルセストも走っていますが,お話では,何をするかで言い争いをしているニコラたちの背後で,アルセストは独りタルチーヌを食べていました.イラストのように,食べながら走り寄ったとすると,これから落としてしまうバター付きのタルチーヌは一体どこに持っていたのでしょうか.ポケットには入れられないし.

 イラスト3/4の謎3.

 

休み時間に山へ走り寄るさい,珍しく「アニャンさえも僕らについてきた」(p.204)と言っています.いつもなら来ないのに,と言いたいのでしょう.休み時間には予習,復習をしていますからね.いつものアニャンの人物紹介が紹介された後で,それでせっかく来たアニャンですが,お城組と穴組の対立の最中,ジョフロワとメクサンがせっかく掘った穴に,ジョアキムが砂を投げ入れ始めると,「待って!待って!穴にメガネを落としちゃったんだよ」(p.209)と叫びます.これから砂合戦が始まるのですが,その際にアニャンは「僕に触らないで.お願い.メガネを探してるんだ.すぐいなくなるからさ.」(p.210)と言っています.つまり,穴にメガネを落としたままで,見つけられなかったんです.でも,↑イラスト3/4ではアニャンはちゃんとメガネを拾い上げています.砂まみれになってケンカしている左側の3人はジョフロワとメクサンとジョアキムでしょうか.それに穴がない.城もない.とすると,何で彼らはケンカしてるんですかね?

 最後にイラスト4/4.やっぱり謎のシーンです.



 結局ケンカはニコラたちだけでは収まらず,山に目をつけた上級生たちとのケンカに発展します.「それはそれはすごかった.だってみんなが顔に砂をかけ合ってケンカを始めたんだから.」(p.210)想像するとものすごい場面です.砂の嵐が吹き荒れています.みんな,手当たり次第砂を投げつけ,目に入ると,当然目を押さえています.大口開けていますが,口の中も砂まみれでしょう.それにもう,どこが山だか全くわかりません.全部,投げてしまったのでしょうか.


中でも一番怒りまくっていたのは,アルセストだと思うよ.だってきれいに拭いたqueのタルチーヌがまた砂に落ちちゃったんだ.しかもまたもやバターのついた面が下にね.こんな風に怒ったアルセストはみたことがなかったよ.真っ赤になって,上級生の脛に噛み付いた.クロテールはその上級生の目に向けて砂を投げつけようとしていて,上級生はクロテールに張り手を食らわせるところだった.別の上級生は,僕の右の靴を砂山のずっと向こうに投げようとしていた.(p.211)


 かなり入り乱れた場面ですが,「僕らがすっごく楽しんでいたところに,ブイヨンさんが駆けつけてきたよ.」(p.211)とのことですから,ニコラとしては真剣なケンカというより,真剣ゆえに楽しんでいたようです.ブイヨンさんは「わしがその山の管理をして行って言っといたじゃないか!」と叫んでいますが,もう当然,後の祭りです.それにしても,管理していた,つまりなくしちゃまずいものなら,どうして遊んでいいなんて言ったんでしょうか.これはイラストに描かれていない謎です.

 そして最後のオチへ.


ブイヨンさんはご立腹だったからね.確かに,そこらじゅうに砂が散らばっていた.校庭も砂だらけ.僕らのポケットの中も砂だらけ.靴の中も砂だらけ.顔じゅう砂だらけだった.もう砂がなくなっちゃったのは,工事現場の山だけだったよ.(p.211)


 ↑イラスト4/4を見れば,もう靴の中からポケットの中から砂まみれなのはよくわかります.凄いことになってましたから.それにしても,「もう砂がなくなっちゃったのは,工事現場の山だけだったよ」(le seul endroit où il n'y avait plus de sable, c'était sur le tas.)というのは,どういうことでしょうか.山から砂を掴んで,砂合戦をしていたので,砂が「もうなくなっちゃった」のはわかるとして,どうして「山の上」だけには残っていたんでしょうか.そもそも砂がなければ山にならないでしょ?と最初に指摘しておきました.そこで,辞書の出番です.最後の「山の上」sur le tasを探すと,ちゃんと出てきました.「現場の,仕事中に」という成句なんです.例えば,être sur le tasは「仕事中である」,grève sur le tasは「現場ストライキ」,formation sur le tasは「実地指導」だそうです.ですから,砂を投げ合った結果として,もう山に砂がなくなっちゃった.それが唯一砂がない場所だったといいつつ,工事に使う砂を使ってしまったので,「工事現場に」必要な砂がないというシャレになっているようなのです.う〜ん,今回は高度で洒落ている・・・.でも,日本語で読んで,面白いですか・・・.私は好きですけどね.

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