« Le puzzle », HIPN., vol.2, pp.196-203.
ニコラの家にいたら,さぞかし楽しかろう.メメからプレゼントが届くだけで,パパもママンもニコラもみんなで大騒ぎ.些細な日常の出来事でも,文句たらたら,はたまた大喜び.豊かな感情=豊かな生活,でしょう?
今回はメメからニコラへのプレゼントで届いた「パズル」で,(自称)パズルが得意なパパとニコラが遊ぶお話です.目的を達成できないのは,いつものことでしょう.
メメからニコラへのプレゼントが届きました.ニコラはいつものように,電動の模型列車に接続する車体かなとか,リモコン操作で動かす青色の車かなとか,妄想を膨らませていますが,出てきたのは「800ピース」のパズル.それもすべて木製のピースというから,随分高級な知育玩具だったのでしょう.でも800は多すぎて,「何かすっごく複雑そうだから,電動の模型列車の車体か,リモコンで動く青色の車か,自動で飛ぶ飛行機のほうが良かったなぁ」(p.196)なんて,心の中で呟いています.
そこへパパが帰ってきて,メメからのプレゼントが届いたと聞いたパパは,すでに「メメから」が気に入らず,中身を聞く前から皮肉を並べ立てます.
上着を脱ぎながらパパが言った.「へぇ,あっそ.今度は何でございましょうか?ジャズのドラムか,小さな原子爆弾作成実験キットか,はたまた何本かダイナマイトが出てきたりしてな.」
「ああ,もう!そんな風に皮肉を言うと思ってたわ.私のほうの家族が何をしても,ぜんぶダメ.それなのに,あなたの兄弟のウジェーヌが・・・」
「ここでウジェーヌを持ち出さないでくれ.知っての通り,お前の母親がニコラに何かプレゼントをすると,家ではひと騒動だ.必ず,ね.お義母さんの才能だね,ありゃ.」
「それはともかく,今回はそんなことないわ」と,ママン.
「パズルだよ」と,僕が説明した.(p.197)
(111)でも触れましたが,パパとママンの間では「ウジェーヌ」の名が出ると,必ずケンカになります.と言うより,ケンカ中に親族ネタが出ると,必ずウジェーヌおじさんが引き合いに出されて,その度に,パパはウジェーヌを庇うという構図です.メメが出てくると,パパの顔が曇るというのと同じで,いつも決まったリアクションを引き起こします.
パパの皮肉のうち,「ジャズのドラム」はマンガ版に出てきた,おもちゃの太鼓を仄めかしているようです.一日ならし続けてパパをうんざりさせたあれでした.(123)ではトランペットで,その時にマンガ版から抜粋して説明しましたので見てみてください.「原子爆弾」は物騒ですが,理科の実験キットのことでしょう.「ダイナマイト」は,いつも家に大騒動をもたらすからと,破壊の象徴でしょうか.
しかし,パズルと聞いて,パパは「振り返り,僕をじっとみて,プレゼントの箱をジロジロ眺め,手に取り言ったんだ」(p.197)
「パズルだと?そうかそうか,俺もガキの頃は,パズルが大好きだったなぁ.それにさ,俺はパズルが得意だったんだ.どれどれ.おぉ!800ピースじゃないか.簡単じゃないな.みんな白いしな.おい,ニコラ.すぐ一緒にやってみようじゃないか.」(id.)
この変わりよう.よほどパズルが好きだったんですね.得意かどうかは,いつものアレ(ホラ)かもしれませんが.「みんな白い」のはなぜかというと,「雪で真っ白な野原に,雪だるまの絵」のパズルだったからです.ほんとにぜんぶ真っ白.形と組み合わせだけから,組み立てゆくしかなさそうです.究極のパズルです,でも難しそうだからこそ,パパの挑戦心は一層かき立てられるわけで,晩御飯前だというのに,二人は早速取り掛かります.ニコラが「居間の絨毯の上でやろうよ」と提案したのに対し,もうすでにやる気満々のパパはパズル道を説いて,「食事を食べる」テーブルでやることにします.夕飯前だって.
「絨毯の上だと,ピースがぐらぐらしちゃうんだ.それにずっと屈んでいると疲れちゃうんだろ.だめだ.こっちへおいで.食事を食べるテーブルの上でやろう.」
「だめよ.これからテーブル使うんだから.もうすぐ夕ご飯ですよ.」
「大丈夫だって.これから夕食まで,1時間はあるだろ.チャンピオンが二人で取り組むんだ.1時間あれば完成するさ.な,ニコラ?」(p.197)
無理無理.無理っしょ.800🧩あるんですよ.それにぜんぶ白.イラスト1/2は妄想風景です.
床にばら撒いてあります.800🧩あるのでしょうか.それにしてもどの🧩も巨大.まるで大きなサンドウィッチでも食べるように,パパは嬉しそうな顔でパズルを見ています.右奥の肘掛け椅子の上には,パズルの箱がありますが,これにぜんぶ入っていたの〜?そりゃ無理です.それにこの大きさで800あったら,二部屋くらい埋まりそうです.それに,繰り返しになりますが,ぜんぶ白いはずなのです.すべてがムリムリなイラストですが,それがまさに二人の夕食前1時間で800ピースを組み立てるという,無理無理な計画の象徴となっていると考えると合点がゆきます.
「バラバラのピースの上に,元の絵をおくんだ.そうすればどこのピースか見てわかるだろう?それから,端っこが真っ直ぐなピースを探す.端が真っ直ぐなやつは枠になるだろ?」(pp.199-200)と,パパは相変わらず得意げにパズル道を展開しています.
でもやっぱり夕食には間に合いませんでした.再三のママンの呼びかけにも関わらず,1時間どころか,パパとニコラはパズルを続行.鶏も焦げてしまいました.
「今行くからね.」と,パパが言った.
「もう急がなくて結構よ.どうせ鶏は焦げちゃったし.」そう,ママンが台所から返事をした.笑いながら言っていたけど,不満がある時にはいつもそんな言い方をするんだ.(p.202)
結局食べたは食べたのですが,狭い台所のテーブルの上.デザートもさっと終わらせて(作ったママンに失礼極まりない!),またもやパズルに戻ります.
ニコラはもう寝る時間.寝かせたいママンと,パズルを続けたいパパとニコラで一悶着.でも結局は↓イラスト2/2のよう.
えーと,誰へのプレゼントでしたっけ?ニコラそっちのけでパパが熱中しちゃういつものパターンです.マンガ版の自転車とか,(155)の動物園のように.
それにしても,パズル,イラスト1/2と比べると,ずいぶん小さくなった印象です.パパの背後が暗くなっていて,上のシャンデリアと奥のテーブル・ランプが付いているのが一目でわかります.ニコラが寝ているので,遅い時間であることもわかります.パパは眉間に皺を寄せて真剣そのもの.椅子はわざわざ3つ置いてあって,ママンの席が空いているのが怖い・・・.よほど呆れているか,怒っているのでしょう.
もうニコラはもう夢うつつ.
「ほら,ニコラ.もうフラフラしているじゃないの.」と,ママンが言った.
「でも,パズルがまだなんだ.」と,僕が返した.
「明日の朝起きる頃には,終わってるわよ.あなたが寝たら,パパが頑張るから.ほら,来なさい.」
「そうそう.早く行きなさい.邪魔さえされなきゃ,俺が終えるからな.」(p.203)
ママンが言う,「明日の朝起きる頃には,終わってるわよ」(« Demain matin quand tu te lèveras, il sera fini »)はやや不吉です.finirは英語のfinish「終わる,終える」に該当します.パズルの話ですから,「完成させる」の意味でとって良いはずですが,文字通り訳すと「パズルは終わっているだろう」です.う〜ん,どうなんでしょうか.
結論からいうと,ニコラが寝た後にパパが孤軍奮闘しますが,翌朝ニコラが起きた時には,パズルは相変わらず食堂のテーブルの上にあって,「ほんの少し進んでいたけど,おしまいにするには,まだまだたくさん抜けて」(id.)いました.それで朝食は居間で食べ,お昼は台所で食べる羽目に.それでパパがいうには,会社から帰って続きをやるからとのことですが.
〔食事はそんなだったけど〕きっと今晩には僕ら終えると思うな.「いつもより早めに会社から帰ってきて,三人で力を合わせてマジでやろうじゃないか」と,パパが言ってたもん.
でも今晩はお客さんが来るから,ママンは絶対にテーブルを使うわ,だって.(p.203)
「きっと今晩には僕ら終えると思うな」(Mais nous finirons le puzzle sûrement avant ce soir. )は,おそらく,直後のパパの発言を受けたものではないんです.パパの発言を真に受ければ,パパはやる気満々だから今日は仕事を早めに仕事を切り上げて,パズルをやるぞー,という意気込みを受けて,ニコラがそれじゃ,「終えるでしょう」と言っていることになりますが,きっとそうじゃないんです.その下,改行後のママンの発言を受けて,パズルが完成しようがしまいが,テーブルからパズルを移動させなきゃならない,つまりすべて「終わり=おじゃんだ」と言っているのだと思います.だから,「でも今晩はお客さん・・・」の発言の前に,parce que「〜だから」と理由説明の表現が用いられているのです.お客さんが来るから,パズルは終わりだなということでしょう.
最後に一つ.パパの最後の発言で,「三人で三人で力を合わせてマジでやろうじゃないか」(on allait y travailler sérieusement tous les trois)はマジで面白い.だって,会社は働く(travailler)ところなのに,そこから早く帰ってきてでも,「マジでやる」(travailler sérieusement)=働くと言っているからです.会社とパズル,どっちが仕事なんでしょう?それに,「三人で力を合わせて」(tous les trois)ったって,ママンの椅子は空でしたよ(↑).
これではパパの空回りってなものです.
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