« Le bassin », HIPN., vol.2, pp.190-195.
bassinには「たらい,鉢」の他に,公園の中にある「池,泉水」の意味があります.以前に((174))ジョフロワがお金持ちのパパに買ってもらって自慢げに見せびらかした時に出てきた,あの噴水のある公園の池がそれです.リュフュスの提案でインディアンごっこをやった時にも登場しました((147)).しかし,題名は「公園の池」なのに,今回はその池が登場しません.理由はこうです.つまり本来ニコラたちは,公園よりも空き地で遊ぶ方が好き.なぜなら,公園には芝生があって,芝生に入るのは禁止されているから.空き地には芝生がないし,もしあったとしても,立ち入り禁止にはならないからだそうです.でも,それでも公園に未練があるとすれば,公園には池があって船が浮かんでいて魚がいて鴨がいるし,船で遊べるから.そんな風に理由と論理がはっきりしているので,「それなら空き地に池を作ればいいんじゃね?」と,ウードが提案した時,全員一致で賛成したのは言うまでもなくありません.実に明快・論理的.というわけで,今回は公園も池も登場しませんが,空き地に池を作ろうとする話です.こういう提案は以前にもありました((170)).あの時は空き地に家を建てる計画を立てたのですが実現しませんでした.ですから今回も,あくまで池を<作ろう>とするお話で,<作る>話ではありません.
木曜日の昼食後(学校はありません)に集まる約束をしたニコラですが,ママンの強硬な反対にあいます.ニコラがいつも泥だらけで帰ってくるからだそうです.大ゲンカとなり,パパが介入.ところがパパは・・・
「なんでそんな大騒ぎをしているんだ?で,今回の理由は?」と,パパが聞いてきた.
「ママンが,僕が仲間と空き地に行くのは嫌だっていうんだ.」と,僕が大声で叫んだ.「じゃあ僕もう学校へは行かないからね!」
「そんなことか」と,パパは笑った.「パパもお前くらいの頃にはなぁ,よく空き地で遊んだもんだ.俺も・・・」
「そうですか,そうですか」と,ママンが言った.「ニコラの方が正しいってわけね.」
「いやいや,金輪際そんなことは・・・.でもな,もしお前がニコラが空き地で遊ばせたくないというのなら,何か理由があるんだろ.それなら,ニコラは行っちゃダメだな.そもそも,俺にはその理由がわからないんだがね.俺は,子どもには空き地には何かこう魅力があってさ,それがわかるなぁって,言いたいだけだったんだよ.(p.191)
いやはや,いつもの家庭内紛争に発展してしまいました.パパがニコラに柔らか〜く味方しているので,ママンは怒って,捨て台詞一発を放って出て行きます.
ママンが言った.「はいはい,あなたが私より子どものことを理解できますって言うなら,もうこれ以上申し上げることはございませんわね!ニコラ様のわずかばかりのご要望に反対したりして悪うございました.どうぞどうぞ,ニコラ様にあられましては,知人・お友だちの方々とご一緒に空き地にいらしてくださいな!」(p.191)
すごい剣幕です.それにしても気になるのは,冒頭の「あなたが私より子どものことを理解できますって言うなら」(« puisque tu comprends les enfants mieux que moi »)という表現です.これはパパが,「俺は,子どもには空き地には何かこう魅力があってさ,それがわかるなぁって」(« je comprenais l'attrait qu'un terrain vague représente pour un enfant »)と言う時に用いたcomprendre「理解する」に反応したわけです.パパは子ども時代を思い出して,ニコラが空き地に惹かれる気持ちが分かるよ〜と「理解」を示したのですが,ママンは嫉妬をしたのかどうか,それとも,自分に味方しないパパに腹を立てたのか,「子どもの〔言う〕ことを理解」すると,やや解釈を捻じ曲げて理解しました.ここにどんな落とし穴(オチ)が潜んでいるでしょうか.
と言うわけで,怒ったママンを放っておいて,ニコラはパパの同意を得て空き地へと向かいます.パパは「俺はママンとちょっと話をするから」と,フォローを忘れないのも心憎い.息子を理解し妻と話し合って慰める,いつになくスマートな父親ぶりを見せたパパでした.
空き地にはもう全員揃っていました.アルセストとジョフロワだけはスコップを持参せず.アルセストは代わりにサンドウィッチを持っていたからで,ジョフロワは池が完成したら浮かべようと船を持ってきたからです.作る気ないね,二人とも.
しかし彼らのこと.池を作るという目的がはっきりしていたって,いつものように,一直線には進みません.
池を作ったら水はどうするんだとか,公園の池から持ってくればいいじゃないかとか,そんなの管理人のおじさんが許してくれないとか.サカナとかカエルを放つのはいいじゃないかとか,釣りができるねとか,でもそれじゃまず公園の池で釣らなきゃとか.彼らの発想と論理は(トンでいるとはいえ)結構明確なのですが,どうやら常に既存の公園の池につながるようです.
本話に挿入されたイラスト1/1は1枚のみです.
話ばかりで,ほとんど進んでいないと思いきや,イラストの方では何故か全員がスコップを手に,楕円形の池を作り始めています.右端ではスコップを振り上げ,ケンカをしている二人がいます.誰なのでしょう.本話でケンカをするのは,少し後に見るように,ニコラとアルセストだけなのですが.アルセストはスコップ持ってないし.
ともあレ,常に公園の池を持ち出す話の流れを断ち切ったのはニコラでした.池じゃなくてプールにしたらどう?と.「みんな,すっごくびっくりして僕をマジマジと見た」(p.193).ところが,ウードがこれに賛成.食べてから3時間以内に泳いではいけないと言い聞かされているアルセストは,もちろん泳がなくてすむ池に一票.ニコラがリュフュスが泳げないことを匂わせて怒らせたため,リュフュスも池に一票.(78)の大嘘をネタに,リュフュスはよくからかわれますな(例えば,(186)).そこでニコラとアルセストがケンカを始めます.
「お前なんて,スコップも持ってきてないじゃないか.」と,僕がアルセストに叫んだ.
「どうだっていいだろ,そんなこと!それにそもそも,お前が作ろうっていう,おプールには鴨ぐらい入れるんだろうな?」
「プールに鴨がいるのを見たことあるかよ,アホか.」
「お前のプールに鴨を泳がせたくなったら,俺りゃやるね.していいですかなんて,お伺いなんて絶対にたてないな.冗談じゃないぜ!」
「やれるもんなら,やってみろ!」(p.195)
ガキのケンカか.ってまんまガキでした.こうしてニコラは「アルセストとは絶対一生口を聞かない!」と決意します.次の連載時には,もう忘れていることでしょうが.
これで終わり.ニコラは帰宅します.残されたメンバーが続けたかどうかはわかりませんが,ウードとジョアキムとクロテールだけで,みんなの使うプールを掘り続けるとは思えませんから,またもや頓挫ということでしょう.
案の定ニコラは「頭から爪先まで真っ黒」の泥だらけで,おまけに「ケンカをした」ことまで,ママンに見抜かれてしまいます.ママンはほれみたことかと,パパに説明なさいとニコラをパパの方へ.
「どうしたんだ,ニコラ.あの空き地で何があったんだい?」と,パパが聞いた.
それで僕が説明したんだ.「アルセストだよ.あいつがプールに鴨を入れたがったんだ.」
それを聞いたパパがもうそれ以上なんにも言わなかったから,僕は上へ上がってスコップを片付けて,手を洗ったんだ.(p.195)
キーワードは「理解」です.今度ばかりはパパはニコラの気持ちどころか,一言も「理解」できなかったのです.その時,人は黙る・・・.それでママンの言い分の正しいことも,理解してあげてください.
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