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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(189)

« On a visité le chocolat », HIPN., vol.2, pp.182-189.

 「僕ら,チョコレートを訪れたよ」.なんのこっちゃい?話の内容からすると,「僕ら」が「チョコレート工場」の見学をしたということなんですが,題名には「チョコレート」しかない.辞書で調べてもchocolatにはチョコレート工場やチョコレート〔製造〕会社の意味はないので,やっぱり訪問したのはチョコレート様となりましょう.ですから,比喩表現,それも換喩(部分で全体を表す)に分類されるでしょうか.チョコレートでチョコレート王国やチョコレート工場を表すというような.

 今回はニコラたちが社会科見学で,チョコレート工場を訪問するお話ですが,きっとニコラたちのクラスのことですから,訪問途中であっち行ったりこっち行ったりして,担任の先生を困らせ怒らせ,それにチョコレート工場なので,みんなで食べまくって病気になるというようなお話でしょうと,まぁ予想通りでした.但し,今回は担任の先生の悲哀とアニャンの失望にも触れられています.

 

僕らのクラスはチョコレート工場に招待されていますので工場訪問をしますと,担任の先生が告げてから,僕らみんな,まだかまだかと木曜日を待っていたんだ.

先生が言った.「みなさん,きちんとした格好をしてきてくださいね.聞いてください.ニコラ,お喋りが終わるのを先生待ってます.訪問中は大変大人しくしてください.それに十分に注意してください.訪問後に,作文で工場について書いてもらいますからね.集合は午後の2時です.時間通りに来てください.遅れた人は置いて行きますよ.」(p.182)


 身なりと集合時間を伝えるだけの場面で,もうすでに担任の先生の苦労が伺えます.ただでさえ年中ギャーギャーうるさいのに,今回は大好物のチョコレートの工場ですから,

ニコラたちの期待感も否応なく高まります.ニコラが1時半に到着したときには,全員がもう来ていたというのも,そんな高揚感の表れでしょう.なぜかアニャンだけは,いつもの登校用の手提げカバンを持っていましたが.何でも,訪問後の作文に備えて,メモを取るためにノートを持ってきたそうです.「あいつは頭がおかしいね,アニャンのやつは!」(id.)とニコラに言われるのも仕方ないかも.間違ったことをしているわけではないのでしょうが.

 先生もだいぶおめかししてきたようです.


「あらあら,みなさん,ちゃんとした格好をしてきたようですね.クシャクシャの頭をしている人もいますので,その人は,ちょっと櫛で梳かしてちょうだいね.でもみなさん,全体としては結構な姿です.アルセスト!ちゃんと顎を拭いて!りんごの芯も捨てなさい.いいわ.送迎バスが着きましたから,出発です!いいですか?バスの中で誰か騒いだら,すぐに降りてもらいますからね.その人は訪問なし!」(pp.182-183)


 チョコレート・・・早く行きたくてうずうずしているので,何かと騒ぎたいところでしょうが,途中で降ろされたら大変とばかり,バスの中では,珍しく全員静かにしています.その滅多にない光景に,運転手さんは信号で止まるごとに振り返って,驚いていたとのことです.よほどのことでしょう.

 バスが到着し,いよいよ工場に入る場面が唯一のイラスト1/1に描かれています.


 他方で,文章の説明は次のようなものです.


僕らは工場の前に到着した.すっごくすっごく大きな工場だったよ.先生はバスから僕らを降ろし,アルセストに,クロワッサンの食べかすがセータにいっぱいついているから払いなさいと言った.僕らは列になって,中に入ったよ.(p.183)


 「チョコレート・グルイヨ」.グルイヨ(Grouillot)という名の会社です.みんな,ちゃんと整列して入ったと書いてあるだけですが,イラストの方では,ニコラたちが全員,走って入って行く様子が描かれています.いわゆる心象風景というやつでしょうか.はやる気持ちを抑えて,きちんと言われた通り整列して入ったはずなのですが,心の中では一刻も早くチョコレートを訪問したい気持ちでいっぱいです.アニャンだけは,カバンを手に一人悠然と歩いています.先生はニコラたちが走るのを見て,注意しようと後ろから走って追いかけています.いつもながら,先が思いやられます.でもそれも心象風景で,実際にはそんなことは文には書かれていないのです.それでも,アニャンと先生がニコラたちから離れているのは,きっと偶然ではないのでしょう.二人が今回のオチに繋がる,話題提供者ですから.

 工場では受付係,そして社長自らがニコラたちを出迎えてくれます.チョコレートが好きな人は手を挙げてと,なくもがなの社長の質問に手を挙げなかったのはアニャンただ一人.アニャンは長々と訳を話し始めますが,そこはさすが社長さん.短く切り,「みんなチョコレートが大好き」ってことにして,話を進めます.

 次に登場するのは案内役のロマランさん.そういえば,私の住んでいる岡山にロマランって名の洋菓子屋さん(いいお店です)があります.多分関係ないですが.それでロマランさんがチョコレートの作り方の説明を始めると,またもやアニャンが介入.場を盛り下げます.


「誰か,チョコレートの作り方を知っている人いるかな〜?」

「チョコレートの原料はカカオと砂糖である.」と,アニャンが喋り始めた.「カカオとは,カカオの木の実であり,カカオの木はメキシコを原産地とする.(・・・)」(p.185)


 これを聞いたロマランさんも,社長同様に,短くカーット!「もういいよ,それでは入りましょう.」(id.)


 工場中での説明は続きますが,ジョフロワとニコラは横の部屋に入ります.すると,ベルトコンベアーの上にたくさんの板チョコが!というわけで,近くで働いていたおばさんから板チョコゲット.二人は呼び戻されますが,今度は板チョコを見たアルセストがウードとリュフュスと出奔.この間,説明を続けるロマランさんは,振り向くたびに,熱心に真後ろでノートをとるアニャンとぶつかってしまいます.どんな意味でもジャマなやつです.


「何人かいないわ!」と,先生が大声を出した.

「何ですと?」と,ロマランさんが聞いた.

「どこに行ったの?」と,先生.先生,不愉快そうな顔をしていたよ.

幸い,アルセストとリュフュスとウードが板チョコを手に走って戻ってきた.

「離れちゃダメだと言ったでしょ!あなたがた,自分の顔がどうなっているか,見てごらんなさい.顔にチョコレートがいっぱいよ.それにリュフュス,あなたのシャツ.恥ずかしくないの!」(p.186)


 先生,大変そうです.一瞬も目が離せません.そうこうしている間に,今度はジョアキムがタンクに手を突っ込みます.先生は手を拭かせようとしますが,ジョアキムはハンカチがないと泣き出します.仕方なく,先生,せっかくおしゃれをしてきたのに,自分のハンカチを差し出し拭かせます.ジョアキムは「チョコレートがいっぱいついた手を拭い,鼻をかみ,それで目を擦った後に,先生にハンケチを返そうとした.そうしたら先生,『いいから,もうあげるわよ』」だそうです.ニコラは,すかさず「先生,なんていい先生なんだ!」と感心していますが,単にチョコと鼻汁まみれのハンカチを掴みたくなかっただけだって.

 見学は続きます.今度はクロテールがジョアキムの言葉を確認しようと,タンクに手を突っ込んでいます.一行はようやく最後の包装の部屋に辿り着き,これで終わりかと思いきや,今度はメクサンが何かしようとして,先生に注意されて,ビクッ!食べていた飴を落としてしまいます.

 ロマランさんは急いでいるからと,見ないふりして,先生の言葉を遮って説明を続けます.その足には相変わらずアニャンがまとわりついていて・・・ジャマ!

 こうしてともかくも,見学は終わり,社長の元へ戻ると,社長からの「さ〜ぷらいず!」もちろんチョコレートの包みです.ところが配布途中でクロテールが,「お腹が痛いよお」.たくさん食べたからな.先生はクロテールを連れ出します.

 帰りのバスの中では,お土産の「さ〜ぷらいず」チョコをみんな開けて食べていました.ところが先生は・・・


先生は何も言わなかった.だって窓の外を眺めるのに忙しかったからね.(p.189)


 なぜに何も言わず,外を見ていたの?それは一言,疲労.そしてチョコレートの匂いにうんざりしていたからでしょう.

 案の定,家に帰ったニコラは腹痛を訴えます.きっと,ウードも,リュフュスも,アルセストも,ジョアキムも・・・・.アニャン以外はみんなそうだったでしょう.


家に帰って,僕は夕御飯を食べなかった.僕も,お腹が痛くなっちゃったんだ.それはともかく,チョコレート工場の見学は本当に面白かったよ.でもたった一人,がっかりした奴がいるよ.それはアニャンさ.だって,チョコレートの工場見学についての作文を書かないことになったからなんだ.先生が,もう金輪際,チョコレートの話なんて聞きたくないんだって!(p.189)


 ここで一言.先生,お疲れ様です.でも,疲労とチョコまみれの散々な1日については,よくわかるんですが,真面目にノートをとり続けたアニャンを想うとそれはちょっとかわいそうかも.でも,楽しみは楽しみ.ニコラたちのように,素直にチョコを楽しむ方が,私は好きです.もちろん知識は必要ですが,無理にお勉強につなげなくても良いかと.小数の限られた人ではなくて,大方の人にしてみれば,ということですが.

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