« Je me cire », HIPN., vol.2, pp.176-181.
「蜜蝋,蝋,ワックス」を表す単語cire.その動詞形がcirerで「ワックスをかける,塗る」.フランス語では-ageで行為を名詞にすることがしばしありますから,cirageで「ワックスを塗ること」,あるいは「ワックス,靴墨」の意味となります.というわけで,代名動詞が用いられた題名は「僕,僕にワックスをかける」,お話を読むとニコラが初めて一人で靴磨きをしたことを自慢しているので,ここではワックスではなく靴墨で,「僕,自分に靴墨を塗る」となります.あの可愛らしいニコラが,何ともおぞましい,真っ黒な姿に変身するお話です.
ムシュブムさんは,パパの会社の社長さんなので,マダム・ムシュブムはムシュブム夫人.今日は夫人からママンに電話がかかってきて,午後にお茶のお誘いを受けます.但し,「ニコラがとても可愛らしいので,ニコラを連れてきてくださいな」(p.176)だそうです.これで2通りの可能性が浮上.ニコラが行って騒動を起こすか,行く前に騒動を起こすか.今回は題名しか読んでいないとすると,「僕,自分にワックスがけをする」とありますから,きっと行く前に騒動を起こして行けなくなるパターンだろうと予想がつきます.題名の横にはイラスト5/5から切り取られた邪悪な?ニコラの図が置かれています.顔まで真っ黒ですから,どうやら「僕,自分に靴墨を塗った」ようです.どうしてそんなことになるかなぁ.
大人のお茶会などに興味のないニコラは最初はグズグズいいますが,夕食のデザートにリンゴのタルトをちらつかされて,敢えなく陥落.結局のところ,「ママンも,ママンの作るリンゴのタルトも大好き」だし,上手くいけば,「リンゴのタルトを二度,いやもしかして三度おかわりできるかも」(p.177)しれませんから.
社長夫人からのお呼ばれですから,ママンはまずニコラによそ行きの格好をさせます.お決まりの((34), (156)など)「青のスーツに,白の靴下」,それにママン自ら髪を溶かしてくれました.イラスト1/5です.
「本物のお人形さんみたい」(p.177)というニコラの感想もいつも通りです.
しかし出発準備が遅れ気味のため,靴は後回しと,自分の着替えに行ってしまいます.そこで,もう「立派な少年で,ちゃんとママンの手助けができる」と褒められるべく,ニコラが靴磨きに着手します.リンゴのタルトの魅力に駆られてとはいえ,余計なことを・・・.
子どもが大人から褒められたいと考えるときには,当然,大人の気にいるように,つまり,大人がいつもやっている通りにやろうとします.ニコラが参照するのは,ですから,尊敬するパパです.
僕はパパがするように,まずは短靴に一振りブラシをかけた.そうしたら短靴はピカピカになったよ.次に,黒の靴墨の箱を取り出して,パパがいつも靴墨を塗る小型のブラシを探したんだ.でも見つからなかった(ママンはいつも言うよ.パパはすっごくだらしないって).それで僕は靴墨を指につけた.平気平気.だって後でちゃんと手を洗うからね.指でつけたら靴墨はすっごく良く広がったんだけど,ただね,爪にもちょっと入っちゃった.それから大型のブラシで,ゴシゴシ擦った.パパのように口笛を吹きながらね.でも,変なんだ.靴墨をつける前のほうが靴がピカピカしていたんだ.だから僕はまた靴墨をつけて,た〜ぷりね,それで今度はブラシじゃなくて,布巾で拭いた.どうせママンがきっと後で洗濯カゴに入れるからさ.(pp.177-178)
「指」で!それも,「布巾」を使って!!とりあえずイラスト2/5と3/5はここまでの光景です.
まずは「一振り」.手は何度も行き来しているようですが,とにかく「一振り」.それから,「布巾」を持ち出す場面ですが,もうすでに困り顔をしています.
なぜ困り顔かというと,「あんまりピカピカ光らない」靴は置いておくとしても,問題は「靴下」です.あれっ?先ほど「白の靴下」って言っていたのに,黒の靴下になっています.
どうやってパパは靴下を汚さないで靴墨を塗るんだろう.きっと,白の靴下は履かないんだ.僕の靴下は,足の真ん中まで真っ黒になっていた.でも,これは見た目が変!靴下は,袖みたいに捲れないもん.(p.178)
白黒のイラストを見る限りでは,長靴を履いているみたいで,「変」(「不自然な」と言う意味のforcéです)でもないのですが,その場にいたら,だいぶ変でしょうな.ニコラは石鹸を取って,水で濡らし,ついでに水を撒き散らして靴下を擦りますが,無駄な努力でした.「足が冷たくなっちゃったよ.」(id.)そりゃそうでしょう.ビチャビチャな様子が目に浮かびます.それでもう一回,靴に靴墨をつけたら,靴についていた石鹸は取れたそうです.それって役に立つ〜?
次の犠牲は青のスーツです.靴墨が飛んでいたからと,「パパが羊肉を切り分けるときに使う包丁で」スーツの染みを擦りました.椅子の背に掛け,「えいっ!」上着も椅子も,椅子に置いておいた靴墨を入れた道具箱も全てひっくり返ってしまいます.「大したことじゃない」とニコラは言うけれど.でも,「靴墨の箱は地面に落ちて,靴墨の横だったから,アルセストのタルチーヌみたいになっちゃった.僕らが休み時間に校庭でアルセストにぶつかったときのね.」(p.179).バターや,ジャムのようにベタベタってことね.
仕方ないので,「僕は台所のタイルについた染みをとることにした.」(id.)イラスト4/5です.
またもや「布巾」で拭き始めますが,どうやら上手くいかなかったようです.「靴墨は取れるどころか,広がっちゃった」(id.)仕方なくニコラは「ママンがするように,ホウキを使うことにした.先が長くなっているやつじゃなくて,短い方のやつさ.」布巾を濡らし,ついでに水を撒き散らし,箒の先に布巾を装着.擦り始めますが,靴墨は取れないようです.ちょっと先走りして,イラスト5/5を見てしまいましょう.
奥の水はでっぱなし,椅子はひっくり返り,床はびしょ濡れ,箒が横たわり,箱はひっくり返って,靴墨が広がっています.お三時にお呼ばれするどころか,大惨事です.
ニコラはまたもや石鹸をとり,羊肉ナイフで黒い染みを擦り,膝をついて,「石鹸」を使って両手で靴墨を擦ります.そうか,先ほどの↑イラスト4/5で手にしている立体は「布巾」じゃなくて石鹸ですね.もう想像するだに,というより,想像しなくてもイラストを一見すれば,どんな状態かよくわかります.ついでに,ネクタイの先っぽの方も汚してしまったそうです.でも「スーツの上の方のボタンを閉めれば,ネクタイの端っこは見えないから,大丈夫だよ」とのことです.
この時点で膝をついていたため,ズボンは靴墨まみれで濡れていました.「変だな.青のスーツの上からでも,靴墨がついているのが見えるよ」(pp.180-181).仕方なく,服を着替えようと部屋へ行きかけたところで,鏡を見て,思わず「笑っちゃった」(p.181)そうです.イラスト5/5↑の鏡を覗く,邪悪な顔をした黒い少年.「まるで同家のようだったから,いろいろ変な顔をしてみたら面白かったよ.」そこへ,ママンの叫び声が・・・.
こうしてデザート抜きで,パパにもお説教されることに.ニコラは泣き出します.でもいつものように,彼には彼の言い分と論理があります.
僕は泣き出しちゃった.だってね,そりゃ,幾つかヘマもしたよ.でも,おかしいじゃないか,絶対おかしいよ.全くもうっ!だって,ママンは僕が靴磨きをしたのに気がつきもしなかったんだ.それも僕一人でやったというのに!(p.181)
感想としては,いつも通り,<えっ,・・・そこか・・・>でしょうか.
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