« La piscine », HIPN., vol.2, pp.164-169.
ニコラたちが「プール」に行く.今回は随分と単純でさっぱりしたお話という印象を持ちました.ニコラたちが仲間でいるときには必ず,そこを取り仕切る大人が翻弄され,バツの悪い思いをする.例えば公園なら管理人のおじさん,教室なら担任の先生とかが犠牲者となるのです.今回はプールが舞台ですから,当然見張り役の監視員とのやりとりが中心となります.それで,プールに行ったけどプールで泳げないという,当初の目的が達成できないいつものパターンです.そして冒頭の<予言の言葉>も出てきます.予言といっても,別に悪い事が起こるとか,そんな縁起でもないものでもなくて,その言葉がそのまま実現されてしまうという,『プチ・ニ』ではよくあるあれです.
ニコラがママンに「ぼくら友だちとプールに行くことにしたんだ」(p.164)と,伝えます.もうすでに決定事項で事後承認のようです.ところがママンが反対します.パパに聞きに行くと,オッケーだったので,忿懣やる方ないママンの怒り爆発.パパと大喧嘩になりますが,すぐに仲直り.送り出す際にパパは一言.
「行くのはいいけど,ニコラ,気をつけなさい.お前は信用しているけど,お前の仲間な,ありゃ,相当なおふざけ連中だからな.」(p.164)
「お前の仲間な,ありゃ,相当なおふざけ連中だからな.」(« tes copains, ce sont de drôles de guignols! »)では,guignolという言葉が使われています.これは『プチ・ニコラ』では頻繁に用いられる言葉で((7), (95)など) ,元々はリヨンの絹織物工「ギニョルさん」の名に由来する固有名詞ですが,〔指〕人形劇の登場人物として用いられるようになってからは,普通名詞の「人形」を表すようになります.そこから「道化,おふざけもの」などの意味が出てきます.また劇中の登場人物である「憲兵,おまわりさん」の意味でも使われます.ネタバレ覚悟で,このパパの発言がオチにつながります.やや安易ですが.
ニコラたちはプールの前で待ち合わせて入ろうとしますが,メクサンが船を持ってきたのがまずNG.入口で入れてもらえません.仕方なく,メクサンだけ,はや脱落です.他のメンバーはプールに入りました.まずは着替えをします.ところで,着替え室としてcabaneがあったそうです.cabaneは「小屋」ですから,おそらく扉のついた小さな部屋が個室のようになっているのでしょう.ニコラたちは全員,一つの「小屋」に入ったそうです.察するに,ギュウギュウだったでしょう.ところでアルセストは「食べてから2時間たっていない」ので,消化に悪い(?)らしく入らないことにします.それからジョアキムは風邪気味のため.これが理由ならアルセストはどの時間でもモグモグしていますから,一生プールに入れません.というより,泳げません.それにジョアキムはなぜ,一緒に来たんでしょう?付き合いいいなぁ.
さて,騒ぎを聞きつけて,メクサンの入場を拒否したお兄さんが駆けつけてきます.全員を着替え室からだし,注意をしてから,アルセストとジョアキムの方を向いて言います.
「君ら二人は,着替えないのか?」
「着替えません.僕は泳ぎませんから.病気なんです.」と,ジョアキム.
「俺は泳がないよ.病気になりたくないからな.」と,アルセスト.(p.165)
正しい説明なんですが,お兄さん,理解できたでしょうか.何も言わず,「ブイヨンさんのように」頭をふりふりその場を立ち去りました.
いよいよプールサイドです.今回のお話にはイラスト1/1は1枚きりです.寂しいですが,大判で2ページに渡ってどどーんと掲載されています.
プールサイドで,ニコラたちが騒いでいます.それを監視する仁王立ちのお兄さん.水面にはみんなの影がゆらゆらと映っています.プールの右側には飛び込み台があり,相当深そうです.左側にかけてだんだん浅くなっていくようですが,こんなプールがあるのですね.ニコラたちのすぐ右には,グニョグニョした何か変なものがあり,その背後に一人屈んでいます.それを眺める子ももう一人.これはジョフロワが先のバカンスでパパに買ってもらった,空気で膨らませる馬だそうです.浮き輪なんでしょうか.プールにこんなものを持ち込んでいいのかどうか,すぐに問題のタネになるだろうと思いきや,これにはお咎めなし.でも,結局穴が空いていたらしく,膨らまないんですけど.
文に戻ると,ウードがリュフュスが泳げないと決めつけからかいます.ここのところ,おそらくは(78)でヴァカンス中に溺れた人を救助したというリュフュスのホラを仄めかしているようです.ジョフロワは馬を膨らませるので精一杯.クロテールが穴を見つけて,今度はそれを塞ぐための「糊のついた紙」を探すことに.
ちなみに「糊のついた紙」(papier collant)はいかにもやぼったい訳です.でも,「糊紙」なんて日本語なさそうですし,「セロハン」だと,フランス語では商品名に由来するscotch(スコッチ)ですし.
この間,ジョアキムはアルセストにクロワッサンをくれと頼みに行って,もちろんもらえません.リュフュスとウードはケンカ中,ジョフロワとクロテールは捜索中.ニコラは何度も入ろうと呼びかけていますが,誰もノってきません.
「最後に水に入ったやつが,おまわりさん役ね!」(p.168)
「おまわりさん役」は先ほど出てきた「guignol」です.これは,鬼ごっこのときの「捕まったやつが,次は鬼ね!」を応用した表現のようです.でも誰も聞いてくれない.みんな忙しいんです.
ついにウードとリュフュスが注意を受け,クロテールは自転車修理用のゴムを取りに帰り,そんなことにまるで頓着しないニコラがまたもや叫んで,それで水にドボン.ようやく一人だけ,プールに入りました.
「お〜い,みんな.入ろうぜ!最後に入ったやつが,おまわりさん役ね!」
そう言って僕は走り,鼻をつまんでプールに飛び込んだ.水の中はすっごく気持ち良かったよ.でも僕は外を見たけど,誰も飛び込んでいなかった.みんな,リュフュスとウードとそれから監視員のお兄さんのところにいたよ.お兄さんは何やら叫んで,服を着なさいと,みんなを小屋に行かせていた.(p.169)
誰も入れなかったんですね.それでニコラが最後に一言.
パパの言う通りだよ.僕の仲間たちはね,みんなおふざけ連中なんだ.(p.169)
ここで「おふざけ連中」がguignolsで,ニコラが呼びかけに何度も使った「おまわりさん役ね」もguignolであることがわからないと,シャレが理解できません.誰も入らなかった=全員がおまわりさん役(guignols)だと言うのです.パパと同じ単語を用いているのですが,意味がだいぶ異なります.だって,「最後に水に入ったやつが,道化ね!」と同じ意味で訳したら,ニコラが鬼ごっこをするときの常套句を用いているのが伝わらないし,意味も通らないかもしれません.
う〜ん,日本語でこんなギャグを伝えるには,どういう解決法があるのでしょうかあるのでしょうかねぇ・・・.
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