« Le mariage de Martine », HIPN., vol.2, pp.155-163.
今回はマルチーヌさんが結婚するというお話です.めでたい!おめでとうございます!って,マルチーヌさんで誰でしたっけ?
ニコラの親戚は(115)にも出てきていますので,今回と合わせて少し整理しておきましょう.
パパ方
ウジェーヌおじさん(パパの兄弟)
ママン方
メメ(ママンのママン)➖ぺぺ(décédé)
ドロテおばさん(気難し屋)
(他にピュルシェリおばさん,クラリスおばさん,ウロジおばさん)*
マチルドおばさん(ママンの姉妹,おしゃべり)➖カジミールおじさん
エロワ(ニコラの従兄弟)
アメリおばさん(病気がち)➖シルヴァンおじさん
クラリス(長女),ロックとランベール(双子)
マルチーヌさん(ママンの従姉妹,超絶美人)
その他:ウロージュ(ニコラの従兄弟),フェリシテ(ニコラの従姉妹)*
*Aymar du Chatenet dir., Le Dictionnaire Goscinny, Jean-Claude Lattès, 2003.著者のエマール・デュ・シャトネは現在,『プチ・ニコラ』の全ての著作権を管理しているIMAV éditionsの主幹で,ルネ・ゴシニの娘であるアンヌ・ゴシニの夫.本書はゴシニの膨大な著作を網羅し,紹介しているので便利だが,『プチ・ニコラ』に関しては雑誌掲載時と,1959-1965年に刊行された単行本を情報源としており,『未刊行集』(3巻)には言及がない.また,登場人物についても単行本第1〜第5巻までは網羅されているが,巻ごとの紹介がなされているため,例えば「マルチーヌ」のような名前から探すのには不便です.項目名がCousine Martineのように,普通名詞(「従姉妹」(cousine))となっているのも,検索には面倒かも.
ちなみに,上の辞典*に収録されていても,(115), (185)のような親族が集まる場には登場しない人物もいる(ピュルシェリおばさんとか).
さて今回は,超絶美人のマルチーヌさんがいよいよ結婚してしまう日です.(115)では,パパが鼻の下を伸ばし,ママンが嫉妬してパパを牽制する場面もありました.本話を読むと,フランスでの結婚式当日の出来事と展開がおおよそ把握できます.
土曜日の朝.もちろん学校はなく,親族全員がマルチーヌおばさん(Cousine Martine)の結婚式に招待されています.朝は大忙し.ニコラ家全員早くに起きます.ニコラは「ちゃんと顔を洗って,耳の掃除」もするように言われます.爪を切ってもらい,寝癖を撫で付け,髪をピシッと分けて整えました.「ピカピカの白いシャツ,赤の蝶々ネクタイ,青の上着,シャツよりもさらにピカピカの黒い靴,上着のポケットにはハンケチ(鼻を擤んだらいけない)」という服装です.「友だちに見られなくてよかったよ」(p.155)はニコラの正直な感想.
パパは縞の入った上着を着ています.ネクタイをめぐってママンと一悶着.「灰色のネクタイ」で落ち着きます.
ママンは「花模様がたくさんついた,すっごい服を着て,すっごく大きな帽子をかぶった」(id.).つまり,みんな最高にめかし込んでいるという訳です.
三人が家から出てくると,お隣のブレデュールさんが庭から,「いけてますなぁ.よっ!御三方!」と冷やかし,パパが「何か,キャンピングカーでも通ったかな?どこぞで犬がたくさん吠えてるなぁ」と返します.照れや嫌味を解さないKYニコラは「でもね,僕はパパとブレデュールさんが話していたことが全く理解できなかったよ.」(p.157).そりゃそうだ.字義通りとれば,会話としては成立していませんから.
と,ここまでが結婚式が行われる市役所につく前の記述で,イラスト1/2はこれまでの場面を表しているはずですが,そうでもないようです.
イラスト1/2は髪が決まらないで苦労しているパパと,同じ髪型をしていて(?)横で眺めるニコラです.二人とも浮かない顔がシンクロしています.正装は支度は大変ですからねぇ.文章になくとも,その間の模様をイラストは伝えてくれているわけです.
ニコラたちが市役所に到着すると,もうほとんどの親戚がいました.一通り紹介が終わったところで,大きな黒塗りの,花をたくさんつけた車が着きました.マルチーヌさんとご両親の登場です.
マルチーヌおばさんはすっごく綺麗だったよ.それに全身真っ白で超かっこよかった.ベールをかぶっていて,車のドアに挟まっていた.手には小さな花束を持っていた.花嫁衣装を着ると,まるで初めての聖体拝領のお祝いをするみたいだったよ.(p.157)
フランスの結婚式は,市役所で登録します.その際,必ず市長が祝福しサインして結婚が成立するのです.それから,結婚式は人生の一大イベント.日本でもそうですが,未だカトリックの多いフランスでは聖体拝領式も大きなイベントで,みんな着飾って参加します.ですから結婚式の衣装や参加者を見て,ニコラは自然と聖体拝領式を想い浮かべたのです.
「マルチーヌのママンとマルチーヌのフィアンセのママンは泣き続けています.前の結婚式が押しているのか,マルチーヌたちも少し待ってから会場に入ります.「椅子がみんな赤くて,まるで人形劇に来たみたいだったよ.」(id.)そこへ「青-白-赤のたすきをかけた人が入ってきました」.もちろん市長さんです.一同,立ち上がってお迎えします.「まるで学校で校長先生が教室に入って来る時みたいに」(p.160)
僕らは着席し,市長さんが祝福を述べた.市長さんが言うには,マルチーヌとフィアンセさんはこれから船出して,・・・(id.)
でも,ニコラにはよく聞こえなかったようです.なぜなら,ニコラはマルチーヌのママンの前に座っていたから.
マルチーヌのママンは号泣してとんでもない音を立てていた.マルチーヌさんが船出して,たくさんの嵐に遭遇して・・・なんてのは知りたくないみたいに,邪魔しているようだった.(p.160)
心情,察して余りあります.ニコラもその辺は随分勘がいい.KYのくせに.
次の結婚式があると言うことで,ニコラたちはすぐに追い出されます.出口で集合写真を撮ります.「みんな大きな笑顔を浮かべていた.マルチーヌのママンとマルチーヌの旦那さんのママンは,写真を撮り終えてすぐにまた泣き始めた.」(id.)ここで「マルチーヌのフィアンセさん」から「マルチーヌの旦那さん」に変わりました.細かい.それにしても相変わらず二人のママンは泣いています.
次は教会です.「マルチーヌと旦那はここでまた結婚した.」(id.)そうですよね,正しい観察です.1日に二度結婚するんです.行政的にと宗教的にと.細かい.ここでまた写真.
さらにレストランへ.個室を借り切っての会食となります.ママンがニコラの食べすぎを心配して,ウジェーヌおじさんが相変わらずの冗談を飛ばして,写真屋さんが写真を撮って,子どもたちが走り回って,子ども達とメメがワインを飲みたがり・・・.イラスト2/2です.
あれっ?右側にはよく似た二人がいますが,双子はロックとランベール,どちらも男の子のはず.号泣しているのは3人いますが,どの人が「マルチーヌのママンとマルチーヌの旦那のママン」なのでしょうか.大きな口を開けて笑っている人,楽しそうに歓談する人人.子どもの数も合わないのですが,おそらくはマルチーヌの旦那の親族で,ニコラが把握していないせいでしょう.それにしても,みんな顎がないんだな.
宴は果てなく続きます.これもフランスの習慣です.ウジェーヌおじさんがママンの帽子を拝借してみんなを歌わせますが,「マルチーヌのママンとマルチーヌの旦那のママンだけは泣いていて歌わなかった」(p.162).それからケーキ入刀.次いでケーキを切り分けるのは,ここでもウジェーヌおじさん.かなりでしゃばりと見ました.「大っきいやつは花嫁と花婿に」(p.162)だそうです.ママンが「子どもたちにはあんまりやりすぎないで」と注意し,子どもたちとメメはシャンパーニュを飲めないと不平を言い,それでも乾杯用にとで少しだけ注いでもらったシャンパーニュでニコラは気分が悪くなり,ママンとパパは慌てて連れ帰ります.
すっごくいい一日だったよ.僕も大きくなったら結婚するんだ.そうすれば,好きなだけシャンパーニュが飲めるし,ケーキも一番でっかいのをもらえるからね.(p.163)
そこかよ!と思いますが,ニコラにしてみれば,結婚は学校へ行かず宿題がなくて,大きい人がみんなニコニコしていて,美味しいものをたくさん食べて,でっかいケーキが食べられる日.それも自分の結婚ともなれば,シャンパーニュは飲み放題,ケーキは一番でっかい部分を頬張れる.そりゃ,待ち遠しいものです.
「すっごくいい一日」(une chouette journée)でしたが,そんなおめでたい,フランスの特別な1日の出来事を把握できたでしょうか.聖体拝領式と同じくらい重要な出来事とか,市役所での登録とか,市長の祝辞と宣言とか,我が国の結婚式とだいぶ違いますね.和式か洋式,神社で着物かウェディングドレス,ホテルに併設された,聖遺物の置かれていない祭壇と教会と結婚式場,友だちが参加する二次会等々・・・場所が変われば習慣も異なります.そういえば,私たちが外国の習慣について知るのは,自国で未だ習慣を身につけていない子どもが観察するようなものかもしれません.そんな機会が度重なって,その社会の習慣や文化を次第に身につけてゆく.それで日本人だったりフランス人だったりになるのでしょう.
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