« Hoplà ! », HIPN., vol.2, pp.146-151.
フランスに留学していた頃,大人が小さな子どもの脇を抱えて,Hoplàと言いながら持ち上げていたのを何度も見ました.日本語では「高い高い」というところだなぁと思いながら.そして何か,ほらよっと持ち上げて渡すような時にもHop!「そらっ」でしょうか.歩いていて障害物を乗り越えるときにもHop!「よっ」とか,「よっこいしょ」でしょうか.等々・・・.làは「そこ,あそこ」の他に「ほら」とか,「ねぇ」のように呼びかけなどで使われるので,きっとHopと組み合わせて語調を整えている感じでしょうか.これみんな,フランス語でHopとか,Hoplàかぁと.そう理解しても,フランス人を前に,なかなか使いこなせるものでもありません.何となく照れくさいし.
今回は,またもやジョフロワが新しいゲームを買ってもらい,学校へ持ってきて自慢するというお話です.それでいつものようにゲームにならない.ゲームをやらずにおしまいというパターンです.『プチ・ニ』ですから,お話の予想もつくし,ネタバレなんて当たり前ですが,それでも楽しめるから良いのです.そもそも,私は映画とか小説とかでのネタバレはむしろ大賛成だし.結果や展開にハラハラしなくても,楽しめればそれでよしです.
今回のイラストは1枚だけなのでまず見ることにしましょう.
手前に半ば蓋の開いた,大きな箱が落ちています.この大きさからすると,子ども数人分はありそうですが,もちろん,遠近法で手前が大きく描かれ,遠くが小さくなっているということでしょう.蓋には« HOPLA » JEU DE SOCIETE CALME ET INSTRUCTIF.訳すと「『オップラ』 社会ゲーム 静かで教育的」となるでしょうか.社会ゲームというのは,日本でなら「人生ゲーム」と呼ばれているもの.モノポリーのように,サイコロか回転盤で数字を出して,出た数だけマスを進めてゆくボードゲームのようです.(実はHoplà jeuで検索をかけて出てきたゲームは人生ゲームのようなものではなかったのですが,1950年代には同名のゲームがあったのでしょう)「静かで教育的」は,おそらく,静かに遊べて色々学べるという売り文句と思われます.「静か」で「教育的」.その割に,ゲームの向こうの少年たちは,ワイワイうるさくケンカで賑わい,ちっとも教育的ではなさそうです.本話の中でリュフュスが定義するニコラたちの休み時間の遊びとは,「休み時間の遊びってのは,サッカーだろ.それからボール球鬼ごっこだ.そうでなけりゃ15人制ラグビーかカウボーイごっこか,インディアンごっこだぜ」(p.147).つまり,全然「静か」でもなければ,知性を必要とするものでもなさそうです(いえいえ,サッカーやラグビーが知的なスポーツではないと言いたいのではまったくありませんが).今回のオチはこの蓋の文字と後景との落差にありそうです.
「パパがすっごくお金持ちで,いつでもすごいものをたくさん買って」もらうジョフロワが今回はゲームを持ってきて見せびらかします.ジョフロワによると,ルールは「結構難しいんだけど,俺は全部理解したぜ」とのことで,やり方を説明し始めます.
「サイコロで遊ぶんだ.マスの上を小さな動物を進めるんだ.それからお金で駒を買う権利があって,誰かが後からマスの上を通ると,あらかじめマスを買っていたやつが大きな声で「オップラ!」と叫ぶ.そしたら通るやつはお金を払わなきゃならないんだ.それで全部のマスを所有するやつが大オップラで,その人の勝ち.」(p.146)
なんだかわかったようなわからないような.初めにお金を分配しているの?とか,マスの上を通ると払わなきゃならないなら,先に始めた人だけが有利じゃない?とか,やっぱり「難しい」.あるいはジョフロワの説明が難しい.ジョフロワのパパによると,これは「すっごく教育的で,商売の感覚を鋭くしてくれる」(id.)し,「いつも僕らがやっているたんこぶばっか,たくさん作る野蛮な遊びより」ずっと遊びがいがあるそうです.ジョフロワのは尊敬するパパの完全な受け売りですから,もしかしたらゲームのルールもよくは理解していないので,説明が不完全で理解し難いのかもと思いました.
色々茶々が入りますが,それでも「遊ばないうちに休み時間が終わっちゃうぜ」とクロテールが3度もせっついた甲斐あって,いよいよボードに向かいます.まずは手持ちのコマとして動物選びです.まずは,クロテールに「ロバ」を割り当てがリュフュスが張り手を喰らいます.フランスではロバは強情,愚鈍の象徴としてよく出てきますから.それで二人はケンカ.はやゲームからは脱落してしまいます.
ジョフロワが自分から始めると言い,いつものようにここでも争いかと思いきや,今回はスルー.「馬から始めるってルールに書かれてるんだ」という主張が効いたようです.本当かなぁ.
ジョフロワがサイコロを投げた.6が2つで,ジョフロワの馬はいっぱいマスを進めた.そして札束を手にしたんだ.次はメクサンがサイコロを振ると2と3が出た.ジョフロワがメクサンにお前の鶏を5マス進めなきゃなといい,メクサンが進めると,ジョフロワが「オップラ!」と叫んだんだ.
「なに〜?オップラだと?」
「そりゃそうだろ」と,クロテールが言った.「だってお前はジョフロワのますにいるじゃないか.そこさ.そこから出たけりゃ,払わなくっちゃだろ.」(p.149)
私もメクサン派で,「えぇっ???」と思いました.だって,それじゃ,最初にやった人が後の人から確実にお金を取れることになるし,そもそも払おうにもお金を持っているのは,さっき「札束」に手を出したジョフロワだけだし.
ルールを理解するのは諦めるとして,こうしてクロテールとリュフュスのケンカに続いて,今度はクロテールとメクサンがケンカを始め,リュフュスがメクサンの鶏のコマで参加します.ウードが4を出して,「刑務所」行きとなりますが,ウードはそれを拒否.なぜかジョフロワはその主張を呑んでしまいます.「そんなこと,ルールにないと思うな」とは,ニコラのツッコミ.そりゃそうでしょ.
ニコラが振って12を出すと,ジョフロワによれば2度目に12を出した人は,1度目の人に「罰金」を払わねばならないそうです.ニコラが拒否すると,ウードがルールは守らなきゃと,自分のことは棚に上げてお説教.ニコラがウードに蹴りを入れて,ウードは仕返しに十八番の鼻パンチ.それでもニコラは払わないというと,ジョフロワはニコラをゲームから外すと言い始め,怒ったニコラはゲームを足蹴り.ところが!
でも次はアルセストの番だったんだ.それでアルセストが手を出したところで,手にはサイコロとタルチーヌを持っていたものだから,全部タルチーヌにくっついちゃった.すっごく怒ったのはアルセスト.ジョフロワは「お前らみんな妬んでるんだ!だってお前らのパパはこんなすごいゲームを買ってくれないし,それに俺が勝ちかけてたからな!」と,叫んだ.(p.150)
ゲームを無茶苦茶にされて涙を溜めて怒っているジョフロワの姿が目に浮かびます.おいうちをかけるように,ウードが「俺が大オップラになるとこだったんだぜ」と,訳のわからないツッコミを入れると,ジョフロワが罵倒.ジョフロワとウードがケンカを始めます.
僕らは大はしゃぎした.メクサンが「パスだ,パスしろ!」と叫ぶと,リュフュスがアルセストの豚のコマを投げ,ウードはジョフロワの上に乗っかって,1000フラン札を2枚,口に入れようとしていた.(pp.150-151)
もうすっかりカオスです.イラスト↑の奥の方の光景でしょう.そんな人数,いるはずもないのですが.とにかくみんな入り乱れての乱闘となりました.そこへブイヨンさん登場.全員(教室の隅に立つ)罰を受け,ゲームは没収,ジョフロワとクロテールは居残りの罰を喰らいました.
ところが翌日,ジョフロワがいうには「居残り」の罰はなくなるだろうと.パパが「罰の理由」の説明を求めて,校長先生のところにクレームを入れに来るんだそうです.ブイヨンさんと校長先生,どんな理由で「居残り」としたのでしょうか?
「本生徒を居残りの罰に処す.クラスメートの粗暴な本能を促進するような危険なゲームを本学に持ち込んだのがその事由なり.」(p.151)
ジョフロワのパパはもちろん,「オップラ!」が「クラスメートの粗暴な本能を促進するような危険なゲーム」(« un jeu dangereux... qui développe les instincts brutaux de ses camarades »)というのが理解できなかったのですね.だって,「すっごく教育的で,商売の感覚を鋭くしてくれるゲーム」(un jeu drôlement instructif, qui allait développer chez lui le sens du commerce)で,「たんこぶばっか,たくさん作る野蛮な遊びより」と思っていたのですから.ニコラの学校では静かに遊ぶ知的なボードゲームこそが,粗暴で野蛮なのです.やや特殊かもしれませんが,それがニコラたちの独自ルールなのでしょう.
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